チンポジ(玉城)
タイトルからも分かる通り、露骨な下ネタですので、読む際はご注意を
「先輩もチンポジとか気にしたことあるんですか?」
「……何言ってるんだお前」
夜、いつものスカイプで後輩の秋名と話していると、急にとんでもないセクハラをぶっこんできた。
「いや、聞いた話によると、男の人ってそういうのを気にするらしいじゃないですか、それで先輩はどうなのかなあって……」
最近、秋名が色々と直接的になっている気がする。
……まあ、気安い関係になれた、と前向きにとらえておこう。
「そうだな、まあ気にしたことはあるぞ」
チンポジ程度の話、別に隠すようなことでもない。
「おお! マジですか!」
秋名が気持ち悪いくらいにテンションを上げている。なるほど、この世界の女子はこういう話題でテンションを上げられるのか。
「……やっぱりその左曲がり? とか右曲がり? とかそういうのですか!?」
『チンポジ』という言葉は知っていながら、聞いてくる単語がいまいちあやふやなのは、興味本位で知った伝聞なのだからだろう。
俺もそういう経験はある。特に、保体の時に女子だけに教えられる授業というものがとても気になっていた。エロ本とかでそれらの知識を補充したりしていたが、秋名は俺からその知識を知りたいのだろう。
いうなれば、今の秋名は、知的好奇心半分下心半分の状態といったところか。
「……」
「先輩、どうなんでしょうか?」
画面の秋名は興奮気味に聞いてくる。
素直に色々と教えてやってもいいのだが……俺はそこでふと、考えた。
コイツにこのまま正しい知識を教えていいものか、むしろ間違った知識を教えてみてはどうか、と。
今のこいつは、童貞中学生あたりにありがちな、エロい単語だけを先行して覚えて、現実とは違う知識を身に着けてしまうやつに似ている気がする。
それならば……ちょっとからかってみるか。
日頃の恨みという言い方だと強すぎるが、時々、好き勝手にセクハラしてくるコイツに対して、軽くやり返してみてもいいかもしれない。
「……先輩? 何でニヤニヤしているんですか?」
「うん? まあ気にするなよ」
「はあ……」
思わずニヤニヤしてしまったようだ。秋名もちょっと不審そうな顔をしている。
いかんな、こういう時は、なるべく真剣な表情を浮かべないと。
俺は軽く咳ばらいをして表情を整えた。
「……で、チンポジの話だったな」
「は、はい! その話を是非!」
「右曲がりと左曲がりを知っているんだな?」
「はい!」
「実は……上曲がりというのがある」
「え?」
「男でもまれなケースだが、アソコが上に反り返っているやつがいるんだ」
自分で言っててアホくさいと思った。なんだ上曲がりって、常時勃起してるのかそいつは。
「……」
「だからな、右に寄ることも左に寄ることもせずに真上に伸びているんだ、そういうやつは時々ズボンの上からはみ出てるから、お前も注意深く観察したら見つけられるかもしれないぞ」
自分で言ってて吹き出すことを堪えるのに必死だった。そんな男がいたら俺が見てみたい。
まあ、さすがに秋名もこんな与太話を信じるほど無知ではないだろう。からかわれたことに気付いて怒り出すに決まって……
「……」
「秋名?」
「……そんなことがあったなんて……」
怒るどころか、秋名は目を見開き、深く驚いていた。
コイツ、まさか今のアレを信じたのか。
「せ、先輩、その上曲がりというのは……例えば先輩の友達でいますか?」
「……俺の友達に長谷川というやつがいて、そいつは上曲がりだ」
スマン、長谷川、まさか秋名が信じるとは思わず、適当にお前の名前を出してしまった。
「長谷川先輩……ちなみにルックスはどんな感じですか?」
「……チャラい感じのやつだ」
「チャラ男ですか……チャラ男、チャラ男かあ……」
秋名的にチャラ男はあまり好みではないのかもしれない。
いや、そんなことはどうでもいい。問題は秋名が俺の適当な嘘を信じてしまったことだ。俺は嘘が苦手だと思っていたが、もしかしたらうそつきの才能があるのかも……いや、それも今はどうでもいい。
さて、どうする……とっととこの話を嘘だとばらしてしまおうか。
俺の良心は、早くばらしてやれ、といっている。このままじゃ秋名が可哀想だろう、こいつはお前のことを信じきっているんだぞ、その信頼を裏切るのか? と。
一方で、俺の悪心は、もっとやれ、といっている。せっかく信じているのだからもっとからかってもいいんじゃないか、と。
この二つの心は俺の中でせめぎ合い、互いにこちらの言うことを聞けと言ってくる。
……いや、かすかに良心の方が強いか。なんだかんだで秋名は俺の可愛い後輩だ。この後輩を騙すだなんて俺には……
「あの、お願いがあるんですけど、先輩……」
「なんだ?」
「今度ですね、その長谷川先輩を紹介してもらいたいんですけど……」
はい、いま完全に悪心が勝った。良心はマットに沈み、TKO負けである。俺が慈悲の心を見せようとしたのが間違いだった。やはりこのままからかうのは続行だ。
あまり認めたくない事だが、俺は秋名が他の男に興味を持ち始めたことに軽い嫉妬みたいなものを覚えていた。
というか、好みではないけど、とりあえずハミチンは見たいということか。さすが秋名だ。変態である。
「まあそれはそれとして……ところで、秋名、お前、こんな話は知ってるか?」
「なんです?」
「男のアソコは爆発するんだぞ」
「ええええ!?」
秋名がのけぞった。とてもいいリアクションだ。
「ば、ば、爆発!? そんなこと……ありえるんですか!?」
ありえるわけねえだろ。
しかし、秋名は半信半疑、つまり半分は信じてしまっている状態だ。こちらが真顔で押し通せば信じるに違いない。
「ありえるぞ」
「ど、どんな時に爆発するんですか!?」
「……まあ、強い衝撃を受けた時とか」
「強い衝撃……」
やはり、信じた。
というか、もし強い衝撃で爆発してしまうのなら危険すぎるだろ。秋名は男のアソコをどんな危険物だと思っているんだ。
「あ、あの先輩はその……爆発したこととかは……ないんです、よね?」
「……」
俺はとっさに顔を隠した。
あまりの秋名の質問に、吹き出すのをこらえきれなかったのだ。
しかし、この行動が、秋名には「思い出したくない過去を思い出してしまった」様子に見えてしまったらしい。
「あ、いや、無理に言わなくていいですからね……」
なぜか心配されてしまった。
「ぶはっ!」
もう限界だ。俺は思わず吹き出した。
「ど、どうしたんですか、先輩?」
「……な、何でも……ふふ……何でもないぞ……」
「……先輩、笑ってません?」
「い、いや? 笑って……ない、から……ふふ……」
「いや、笑ってるじゃないですか」
チラリと画面を見ると、憮然とした表情の秋名がそこにいた。
「……もしかして嘘だったんですか?」
「ふふっ……ん?」
「ん?、じゃないですよ、さっきのその爆発するとか、嘘だったんですか!?」
どうやらこの辺りが潮時らしい。俺は両手の掌を見せて小さな降参のポーズを作った。
「……すまん、嘘ついた」
「やっぱり! ひどーい!! どこから嘘ついてたんですか!?」
「え? えーと……まあ、最初のあたりからかな」
「え、チンポジを気にしないってところからですか!?」
さかのぼり過ぎだ、そこまでじゃない。
……けどそこまでにしておいた方が面白い気がする。
「あーそうだな、それくらいのところからかな……」
「じゃあ先輩はチンポジは気にしないんですね!?」
「あ……ふふ、そうだな」
「あ、これも嘘でしょ!?」
秋名もだんだん騙されなくなってきた。というか、俺がこらえきれずに吹き出してしまうからすぐにばれてしまった。一度決壊した我慢の堤防はもう直せそうにない。
「もうどこまで本当なんですか!?」
「さあ、どこまで本当だったかな……」
「せんぱーい!!」
俺がすっとぼけると、秋名はキーキー吠える。まさか秋名をからかうのがこんなに楽しいことだとは思わなかった。これは癖になりそうだ。
それから、秋名が「もう知りません、先輩のバカ!」と言ってスカイプを切るまで、俺は嘘をついたり、すっとぼけたりして、秋名をからかい続けた。




