パイポジ(加咲)
今回は女編と男編で話はつながっていません。
それと、タイトルからも分かる通り、露骨な下ネタです
「咲ちゃん、それ止めな」
「え? それって?」
昼休みを終え、五限が始まる前のちょっとした間、はっちゃんは私に苦言を呈した。
「だからそのおっぱいをいじるの止めな」
「え? ああ……」
はっちゃんが何を言っているのかわかった。
私が無意識に胸の位置をいじっていることを言っているのだ。
私は服の中から手を出した。
「でも、これ無意識でやってるから……」
「じゃあもう意識して止めた方がいいよ」
「でも収まりが悪い時とかあるし」
胸の位置がブラジャーの中で丁度良い場所にない時がある。動いていると勝手にずれてしまうのだ。そういう時はさっきみたいに下着の中に手をつっこんで、直接胸を動かす。
はっちゃんはこういう経験無さそうだ。だって動くほど胸がないくらい痩せているし。本当にうらやましい。ちょっとこれを半分くらい貰ってくれないかな、と思う。
「いや、あのね……友達として忠告するんだけど」
「うん」
「パイポジいじってるのって見苦しいんだよね」
「……え」
衝撃の告白だった。いくらはっちゃんには縁のない行為であっても、同性なんだし、その辺りは理解してくれると思ったのに。
「だってさ、いきなり服の中に手を入れて胸いじるって意味わかんないじゃん? 私、咲ちゃんがパイポジいじりだすたびに、『え、もしかしてこれからおっぱい出すの!?』とか思っちゃうもん」
「出さないよ!」
「出さないのはわかるけど、なんかそう見えるの」
ショックだ。はっちゃんが私の事を変態だと思っていたなんて。
はっちゃんの方が私よりもはるかに変態なのに……!
「そんなこと言われたって……」
「とにかく止めな」
「……はっちゃんにはわからないんだよ、パイポジが気になる私の気持なんか……」
「うん、正直全然わかんない」
「でもわかって! これは気になってやっちゃうの!」
「うーん……」
私の訴えに、はっちゃんは眉間にしわを寄せながらうなる。
「……まあ、百歩譲って私はいいんだけどさ」
「それなら別にいいよ」
自慢じゃないが、私の友達らしい友達ははっちゃんくらいしかいない。仲の良いクラスメイトは何人かいるけど、ここまであけすけに話ができるのははっちゃんだけだ。
はっちゃんがそれでいいのなら、私も何の問題もない。
「私はいいんだけどね、ただ……」
はっちゃんが何か言いたげに言葉を濁している。
「……どうしたの?」
「……先輩がね~」
「え? 先輩って玉城先輩? なんで先輩が……」
「先輩がね……多分、咲ちゃんのパイポジいじりに完全に引いてるってのがね……咲ちゃん的に大丈夫かなって思ってさ」
「え゛!?」
思わず変な声がでた。
先輩が引いてる……?というか先輩は私のパイポジいじりに気づいてたの?
「ひ、引いてるって言ってたの……?」
「言ってたわけじゃないけど……」
「な、なんだ、それならはっちゃんの想像じゃない……」
私は冷や汗を垂らしながら抗弁した。
「今日もさっきの昼休みの時にパイポジいじったでしょ?」
「……いじってたっけ?」
「いじってたよ、無意識なら気づかなかっただろうけど」
そんな……確かにまったく気づかなかった。今日はどうにも胸の座りが悪くて、頻繁にいじっていた気はしたのだけれど……。
「それで咲ちゃんパイポジいじっている時、先輩はまず『何やってんだコイツ』って顔で咲ちゃんを凝視するの」
「……うん」
「そして、顔を真っ赤にしてそっぽ向くわけ」
「……うん」
「そのリアクションを今日『も』やってた」
「……今日『も』」
今日『も』……ということは、今までに何度も私のパイポジいじりが目撃されて、そのたびに先輩はそんなリアクションをしていたのか。
「……先輩は、パイポジ直してる私のことを見て、どう思った……かな?」
「『こいつ変態じゃないか』じゃない?」
「……うん、だよね……」
男性の前で胸をいじっている女なんて、赤ちゃんに授乳させてあげるお母さんか、おっぱいを見せびらかせたい変態のどちらかだ。
私は、やっと事の重大さに気づき、絶望した。
「ああぁ……」
私は膝から崩れ落ちた。
「咲ちゃん……可哀想だけど、全部自業自得なんだよ……」
床に両手をついている私の肩に、はっちゃんは慰めるようにポンと手を置く。
何て事だ。
私は先輩の前だと大人しいノーマルな女子で通っているんだ。それなのにそんなことをやっていたらせっかくのイメージが壊れてしまうじゃないか……
「私のイメージが……」
「イメージ?」
「先輩は私の事、普通の女の子だと思ってるのに……」
「あー……いや、それは大丈夫じゃない? だいぶ化けの皮剥がれてると思うし」
「うう……はっちゃんと同類にされる……」
「咲ちゃんってさりげなく言うよね、そういうこと」
なんとかイメージ回復を図らなくてはいけない……いや、すぐに回復はできなくても、イメージの悪化を止めることはできるはずだ。具体的には、もう先輩の前でパイポジをいじるのは止めよう。
「はっちゃん!」
「なに?」
私は勢いよく立ちあがった。
「私、もう先輩の前でパイポジいじるの止めるから!」
「うん、それがいいと思うよ」
「もし私がパイポジいじってたら、叩いていいから止めて」
「え? 叩くの」
私の決意は固い。無意識でやっているのだ、例え痛い目をみようと……いや、痛い目をみないとわからないだろう。
「うん、それくらいやってもらわないといけないと思うし」
「うーん……わかった、そこまで言うのなら協力するけど……叩くってこれくらい?」
はっちゃんが軽く私の肩をはたいた。
「もっと強くやって」
「え、もっとやっていいの?」
「痛くしないと効果がないと思うから……いっそのことパンチでいいよ」
「パンチ……わかった、パンチだね」
シャドーボクシングを始めるはっちゃん。
もちろん、はっちゃん頼りじゃなくて、私自身も気を付ける。絶対に先輩の前では普通の女の子を取り繕わなければならない。
次の日
「なあ、秋名」
「はい?」
「なんでさっきから加咲を肩パンしてるんだ?」
「それはですね……親友の名誉のためにも言えないんですよ」
「……なんだそれ?」
私は『日頃の癖』というものをこれほど憎いと思ったことはない。