AV(玉城)
今回は土日にPCに触れないので金曜(もう土曜だけど)投稿
『ふっ、はっ、はっ……』
パソコンの画面には、汗をにじませながら短く息を吐き、激しく動く男性の顔がアップで映されている。
『はっ、はっ、いい、いい……』
男性の顔がだんだんと紅潮していき、呼吸も浅くなる。
『うぅ、いい! ……出る! 出す!』
極まった男性の声が大きくなり、フィニッシュを宣言すると同時に……
俺はブラウザを閉じた。
「はあ……」
何だこれは。
エロサイトのAVサンプル動画を閉じて、俺は頭を抱えた。
内容自体は前の世界と同じく異性同士のセックスを映したものだが……映っている映像がほぼ男の裸体オンリーなのが問題だった。何が悲しくて毎日風呂場や便所で見ているものを見て喜ばなければならないのか。
先ほども、AV男優のイキ顔を見た瞬間に気分が悪くなって視聴を中断した。
やはり貞操観念が逆転すると、こういったエロビデオやエロマンガへの影響がもろに出る。俺が見たい女性主体のエロビデオやエロマンガが見つからないのだ。この世界では普通なのだろうが、俺にとってはまったくありがたくない。
ぶっちゃけてしまえば最近、持て余している。
この前なんか、夢の中で男友達が女体化した姿で現れて、そいつに迫られたのだ。これはもう俺の身体が「欲求不満だ!」と訴えているに違いない。それを発散するべくアダルト動画を漁ってみたのだが、こんな様子で空振りしてしまった。
しかし、嘆いてばかりもいられない。男の性欲というのは一度火がつくと止まらないのだ。エロがすぐに手に入らないと、逆に、「なんとかしてでもエロを手に入れたい」という欲求にかられる。
時計を見た。現在時刻は午後八時前。
「……あそこに行ってみるか」
俺は下半身の意向に素直に従い、部屋着からよそ行き服に着替えて外に出た。
俺の近所には一件、レンタルビデオ屋がある。
チェーン店なのかどうかは知らないが、申し訳程度に外装を整えた小さなレンタルビデオ屋だ。
品ぞろえもあまり良くない。置いてあるのは一昔前に流行った邦画洋画ばかりだし、もし普通にDVDやブルーレイを借りたければ駅前にある大型チェーン店を訪ねた方がいいだろう。
しかし、ある意味で……このビデオ屋は人気がある。
特に俺と同じ中学校の男子なら、一度はこのビデオ屋に足を運んだと言っても過言ではない人気っぷりだ。
もう大体察しがつくかもしれないが、このビデオ屋は、いわゆるアダルトDVDが未成年でも借りられてしまうのだ。
無論、あからさまな子供が借りるのは無理だが、年の割に見た目が大人びた少年が親や兄の会員カードを使って借りる、ということは出来てしまう。
中学校の頃、一度俺は親父の会員カードを使って、そのチャレンジに成功している。無駄に背が高く、いかめしい顔をしていることを感謝したのはこの時が初めてだった。
さらにこのビデオ屋は一般コーナーとアダルトコーナーの敷居がほぼない。なぜかアニメコーナーとドラマコーナーの間にあるので、ごく自然にビデオを探しているふりをしてアダルトビデオを漁ることができてしまう。
中学校在学中には、「あの店は無修正AVも置いてある」なんて噂が立ったこともあり、それを真に受けて三日間通い詰めて探したこともあった。今にしてみると良い思い出だ。
俺はあの時から借りたままになっている親父の会員カードを握りしめ、再度このビデオ屋に訪れた。
店内のBGMは俺が小学生くらいに流行ったJ-POPが流れており、これまた周回遅れの寂れた雰囲気を醸し出している。青白い蛍光灯に照らされて色落ちしたレンタル用のパッケージも、俺の記憶そのままだ。
店内にはほとんど客がいなかった。よくこんなんで経営が成り立つものだと感心する。
アダルトコーナーに到着すると、残念なことに二人の女性がコーナーの前を占領していた。
そうか、この世界では女がアダルトコーナーの常連になるんだな……と思うと同時、その二人の女の後姿に見覚えがあった。
短髪で体格の大きい女と、ショートヘアで卵型の頭部に少し茶髪がかった髪の女。
……いや、俺の思い違いかもしれない。あいつらがここにいるはずがない。だって、あの二人は少なくとも俺と同じ駅では乗り降りしないはずだ。
俺は事の真偽を確かめるためにさりげなく二人に近づいた。チラッとその横顔を確認しようとしたのだ
「……これは似てる」
「……うん、似てる」
しかし、近づいた時に聞こえてきた二人の話し声を聞いて、顔を見るまでもなく確信した。
やはりこの二人は、俺の知り合いだ。というかクラスメイトだ。
「何が似てるんだ?」
俺が二人に……花沢とヒロミに話しかけた。
「え?」
「え?」
二人は同時に振り向き、そして……
「「ええええぇぇぇ!?」」
狭い店内に、叫び声がこだました。
「驚きすぎだろお前ら」
「な、な、な、何で玉城君ここにいるの!?」
「それはこっちのセリフだ、近所のビデオ屋に来てみたらお前らがいるわけだし」
「た、た、た、玉ちゃん家の近くなの!?」
「ああ」
二人は可哀想なくらいに動揺している。
まあ、アダルトコーナーの前に立っている時に不意に声をかけられれば、誰だってこうなるかもしれない。
「で、お前らここで何やってるんだ? まさかエロDVDを……」
「み、見てないよ! ね、花沢さん?」
「そ、そう! 見てない!」
二人は焦って首を横に振る。まあ、熱心に物色していた様子を横から見ていたわけだし、俺も結構意地悪な質問をしているわけだが。
ふと、二人が不自然に両手を背中にまわしていることに気が付いた。
「何か背中に隠してないか?」
「な、何も!」
「何も隠してない!」
確実に隠している時の反応をしている。
何だかちょっと面白くなってきた、精神的優位に立ったせいだろうか。この二人をこのままからかってみたい衝動が湧き出てきたのだ。
「まさか、二人とも背中にエロいDVDを隠してるんじゃ……」
「そんなことないよ!」
「うん、そんなことない!」
「本当か?」
首がとれるんじゃないかとばかりに首肯する二人。
「そ、そういう玉ちゃんこそ、こんな所で何してるのかな?」
「俺は……ビデオを借りようと思ってな」
いかん、調子に乗りすぎて俺にも飛び火しそうだ。からかうのはこの辺りにしておこう。
「……ビデオってどんな?」
「……そこにある、ドラマのやつを」
ドラマなんかには全く興味はないが、とっさに誤魔化すためにアダルトコーナーの隣にあるドラマコーナーを指差す。
知り合い2人がいたので、つい話しかけてしまったが、もともと俺がここにいることは誰にもばれない方がいいのだ。エロビデオを探しに来たなんて、少なくとも異性には話せないしな。
「そうなんだ……」
「そうだ……」
「……」
「……」
「……じゃ、じゃあ、あたし達もう……行くから」
「お、おう……」
微妙な空気になってしまったこの場から逃げるように、花沢とヒロミはそそくさとその場を移動した。
残された俺は、周りに誰もいないのを確認してから、アダルトコーナーにあるエロDVDを1枚手に取った。
『ムキムキサラリーマンの肉欲接待』
すぐに棚に戻した。
頭を振って先ほどのパッケージの半裸のサラリーマンを頭から消す。
そして、また別のDVDを手に取った。
『万引き男子高生におしおき! 支払いはその身体で……』
すぐに棚に戻した。
俺はもうDVDの背表紙だけを見ることにした。
『肉食男子の女喰い』
『義母に犯される』
『時間停止! 男子校編』
どれもこれも男が主役のアダルトDVDだ。つまり、女性向けのやつだろう。
念のため、最上段から足元の段まで隅々見たが、男性向けと思われるAVは確認できなかった。
この店にくれば男性向けのやつが置いてあるのでは……という俺の淡い期待は見事に裏切られた。
仕方ない、帰ろう……そう思って、振り返った時、目の前にあの二人がいた。
「……え?」
「……や、やあ……」
「お、お前ら帰ったんじゃ……」
「……いや、DVDを戻すの忘れちゃってて……」
「……見てたのか?」
……俺がアダルトコーナーでAVを物色していたところを……
ヒロミと花沢が揃って頷いた。
それからの俺の言い訳タイムは省略させてもらおう。自分でもテンパりすぎて何を言ったのかよく覚えていない。
「と、とりあえず、玉城君もそういうのに興味あった……てことだよね?」
「……そういうことだ」
「そうだったんだ、玉ちゃんがね……」
二人は神妙な顔をしている……ように取り繕っているようだが、明らかににやけ面をしている。
先ほどと立場が完全に逆転した。まさかこんなことになるとは。
「……玉ちゃんもやっぱりAVとか……見るの?」
ヒロミが探るように、上目使いで聞いてきた。
「……見る」
「見るんだ!?」
見るに決まってるだろう。男なんだから。R18を律儀に守ってる男子なんてこの世界にはいない……いや、わからん。前の世界にはいないだろうけど、貞操観念が逆転した『この世界』にはもしかしたらいるかもしれない。
「……見るんだあ、AV……」
「……玉城君がAVを……」
そしてなんでこいつらは噛みしめるように復唱しているんだ。止めてくれ、これ以上俺を辱めるな。
「ち、ちなみに! どんなの見たりする?」
「え? ……まあ、普通のやつ」
「普通のって……どんな?」
「だから、普通に……やるやつだよ」
「……やるって?」
「だから、その……セックスをやるやつだ」
「それってジャンルは……?」
「ジャンルってなんだよ……」
「シチュエーション的なものの話、いろいろあるでしょ?」
「え? いや……」
なぜか花沢の怒涛の質問攻めが始まってしまった。なんでこいつは俺のAV視聴事情に興味津々なんだ。
花沢を何とかしてくれ、とヒロミにSOSの目を向けると、こいつはこいつでAVを一本取り出して俺に見せてきた。
「……ねえ玉ちゃん、例えば、こういうのとか見る?」
なんでコイツは花沢をサポートしているんだ。
俺はヒロミが見せてきた『勃起天国 混浴温泉』を取り上げると、それを棚に戻した。
「……こういうのは見ない」
「じゃあこっちとか」
「……こういうのも見ない」
今度は花沢が『盗撮マッサージ店 イカされるサラリーマン』なるDVDを見せつけてきたので、それも取り上げて棚に戻した。
「それなら玉ちゃん、どういうのを見るの?」
「いや、だから……」
「玉城君、どういうのを見るの?」
「……」
二人のギラギラとした目に気圧され、俺はたじろいだ。
この二人は俺がどんなAVを見ているのかどうしても答えてほしいらしい。
「……見るとしたら、ナースとかそういう感じのやつとか」
これは逃げられない、と観念して俺は潔く白状した。
ナース物が好きなのはガチの話だ。まさか異性のクラスメイトに自分の性癖をばらす日がこようとは思いもしなかった。
「ナースって看護士さん?」
「……そうだな」
「え? それのどこがいいの?」
「いや、あの看護されながらしてもらうとかそういうのが……」
「……」
「……」
止めろ。そんな虫を観察する時みたいにまじまじと見つめるな。いいじゃないかナースが好きだって。入院中にエッチなナースに出会うことは(前の世界の)全男子の目標であり夢でもあるんだぞ。
「……じゃあ、こういうのとか見るの?」
ヒロミが棚からDVDを一枚抜きだした。
『スケベな看護師 シリーズ1』
看護師の制服を着たさわやかイケメンが表紙だ。
「違う、女が看護師の方だ」
「え? そんなAVあるの?」
「……あったんだよ」
俺の言葉に、二人が顔を見合わせる。
女ががっついてくるこの世界で、主役であるナース役が女になることはないのだろう。事実、目の前にあるDVDはイケメン看護師なわけだし。俺も一縷の望みをかけて、そんなDVDを探しにこの店まで来たが、無さそうなので落胆していたところだ。
「あ、でも確かに、そんなAVあったかも……」
「え、あるのか?」
「なんで玉城君が驚いてるの? 見たことあるんでしょ?」
「いや、まあ……そうなんだがな」
「あ、それってもしかしてこの前言ってたソフト部のAVネットワークの……」
「ちょっとヒロミちゃん黙ろうか!」
花沢が慌ててヒロミの口を手でふさいだが、「ソフト部のAVネットワーク」という単語はバッチリ聞こえた。前の世界では野球部の連中が部員同士でAVの貸し借りをしていたが、それと似たようなものなのかもしれない。
しかしまさかこの世界にナースが女のエロDVDがあったとは。ぜひ見てみたい。エロに飢えてわざわざこんなビデオ屋まで来たのだ。どうにかして手にいれる方法はないものか
「……花沢」
「な、なにかな?」
「……そのDVDってのはどんなものなんだ?」
「え、ナースのAV?」
「あ、ああ……」
「もしかして……見たいの?」
俺は小さく頷いた。
「そ、そう……でも、借り物だから貸せないんだ、ゴメンね」
「……いや、いいんだ、気にするな」
「……でも、貸さないのなら見れる……かも」
「どういう意味だ?」
「つまりね……玉城君が、あたしのウチで見たら……借りてないわけだし、問題ないんじゃないかなって……思うんだよね?」
「……」
つまり、これはアレか。
花沢は、私のウチでAV見る? と言っているわけか。
しかも多分、花沢も一緒にAVを見る流れじゃないか、これは。
「花沢さん、何言ってるの!?」
「……ワンチャンあるかなって」
「ワンチャンって何!? あるわけないって、ゴメン、玉ちゃん、花沢さんはちょっと疲れてて……」
「いいぞ」
「……え?」
「花沢の家でそのAV……見せてもらおうか」
「ええええ!? 玉ちゃん、本気?」
無論、俺は本気だ。
だって、女の子の家で女の子とAVを見るんだぞ? ……有りだろ。普通に。もしかしたらエロい雰囲気になるかもしれない。そんでもってそこから流れでなんかエロい事とか起きるかもしれないだろ。
個人的に花沢は女子として『あり』だ。短髪のせいで女性らしさは少ないが、それでも顔は可愛いと思っている。体格が大きいおかげで割と胸も大きい。何かが起こってもウエルカムで受け入れられる相手だ。
そしてそんなことが起こりそうなきっかけを、むこうからくれるのだから、乗らない手はない。
俺の望むAVも見ることが出来そうだし、これはまさに一石二鳥というやつではないだろうか。
「じゃ、じゃあ、いつにしようか……今から?」
今からとは性急だな……と思ったが、しかしこういうのは時間をおくとうやむやになってしまう可能性がある。
「ちなみに、花沢のうちはどこだ?」
「ここから二駅くらい離れてるけど……」
となると、今から行って、AVを見たり、なんやかんやあったりしてもギリギリ帰れるか。
「……よし、行くか」
「う、うん!」
このチャンスは逃したくない。俺が了承の返事を出すと、花沢もキョドリながら頷いた。
まさかエロDVDを探しに行って、こんなエロイベントに出くわすとは思わなかった。性的な事に積極的なこの世界の女子だから起きるイベントだ。
「じゃあ、連れていってくれ」
「わ、わかった……」
「……あ! 待って!」
俺と花沢が大声を上げたヒロミを見た。
ヒロミの顔は真っ赤である。
「ぼ、僕も……行っていいかな?」
「あ、ヒロミちゃんは……」
「もちろん来てくれ」
「え?」
「あ、ありがとう!」
ヒロミも中性的な顔立ちをしているが、中身は女子だ。
ぶっちゃけてしまえば俺はヒロミもイケる。ヒロミが相手でも何が起きても問題なしだ。
俺とヒロミは、花沢に連れられてビデオ屋を後にした。
花沢の部屋は、カーテンやインテリアにところどころピンク色があしらわれており、彼女にはあまり似合わない女の子らしさが見てとれた。
「ゴ、ゴメン、あんまり片づけてなくて……」
「いや、気にするな……」
花沢はいそいそと床に無造作に放置されている服や本を一か所にまとめている。
花沢の家は、両親が共働きらしく、家に帰っても誰もいなかった。両親の帰りは10時をまわることが多いらしい。女子の家にお邪魔している男子としては、幸運な事情である。
ある程度、整理整頓を終えた花沢が、CDラックからケースを一つ取りだし、
「……これが例のアレです」
「お、おう……」
まるで、賄賂を贈る越後屋のように、花沢が恭しく透明なケースを俺に差し出した。
ケースの中には白いディスクが入れられている。そこにはマジックで『ナースもの シオリ』とある。これは、ジャンルと、恐らくは持ち主の名前だろう。AVとして売られているものとは明らかに違う。百均とかに売られているやつだ。多分、コピーされた物だろう。
俺はうけとったケースからディスクを取り出す。
「……じゃあ、見るか」
二人を見ると、同時に頷いた。
花沢のノートパソコンにディスクを入れる。ディスクの起動音が静まりかえる室内に響く。
俺達はパソコンの前でなぜか正座で待機していた。
ただAVを見るためだけに正座をするなんて間抜けな構図だが、このちょっと異常な状況で三人とも緊張しているのだから仕方ない。
ディスクを入れてから数秒後、メニュー画面が出てきた。
ゴクリ、と唾を飲み込む。これの再生ボタンを押せばAVが始まる。
チラリと横にいるヒロミに目を向ける。顔を真っ赤にさせて俺とパソコンの画面をキョロキョロと交互に見ていた。
花沢の方にも目を向ける。俺の方を盗み見していたらしく目が合った。焦ったように目を逸らす。
俺は大きく深呼吸して、再生ボタンをクリックした。
画面には、ナースステーションにナース服の女性が座っている姿が映し出された。
これは……まさに「ナースもの」といえる期待できる導入だ。
ナースステーションにナースコールが響く。ナースがコール音を止めてナースステーションを出た。
場面は転換して病室。そこのベッドには男性患者が寝かされている。その男性患者はなにやら欲求不満らしく、股間のあたりをモゾモゾといじっていた。
そこへ、例のナースが入ってくる。
ここまではちゃんとした「ナースもの」のテンプレートみたいな展開だ。逆パターンはこの世界で山ほど見たが、これならばこの後の本番シーンも俺の期待通りのものだろう。俺はエロの高揚感がどんどん高まっていくのを感じた。
ナースと男性患者のやりとりが始まる。股間がうずいて仕方ない、とうったえる男性患者。それなら私が静めてあげるわ、とこれまたテンプレートなセリフを言うナース。抑揚のない棒演技丸出しなところが実にAVらしいが、こんなのはオマケだ。
AVとしての本編、つまりはセックスのシーンが今まさに始まろうとしている。
ナースが男性の病衣を脱がす。あらわになる男性の股間にカメラがよった。そこからカメラは男性の上半身を映していく。病衣をはだけさせ、肌をあらわにしていく男性を扇情的に映し出す。おそらくここがこの世界の女性たちの興奮ポイントだろう。
ナースはそこから男性の身体を愛撫する。
画面には身もだえしてイキ顔を見せる男の顔、そしてスピーカーからは男性の野太い喘ぎ声。
……肝心のナースは? 手しか映ってねえよ。
俺は自分のエロの高揚感が急速に萎えていくのを感じた。
「……花沢」
「な、なに?」
「……ちょっと飛ばしていいか?」
「う、うん、いいよ……」
俺はシークバーをドラッグして場面をコマ送りで進めた。
違うだろ、そうじゃないだろ。感じている男の顔や、モザイクのかかった勃起したチンコなんか見ても、こっちは興奮しないんだ。それよりもナースを見せろ。男の喘ぎ声なんざ聞きたくねえ。
しかし、シークバーは、とうとう右端まで動かしても、確認できるコマのほとんどが男性の裸体の映像しかなく、ナースの出演はほとんど手のみだった。
盛り上がっていた俺の気持ちは萎えて、平常心に戻った。というか、白けた。さきほどまでのエロい高揚感はどこに行ってしまったのか……多分、あの男優の顔と勃起したチンコが全部持って行ってしまったんだと思う。
「た、玉城君……その、やっぱりAVとか見るの嫌だった……かな? ゴメンね、あたし……」
「……これじゃない」
「え……?」
「これじゃないんだよな……」
俺は頭を抱えた。
結局この日は、特にエロい雰囲気になることはなく、このままAV視聴を止めて、適当に三人で話して、花沢の親が帰ってくる前くらいに普通に解散した。