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野球拳(加咲)

お前何か月ぶりに更新してんだよって話ですが、ようやくストックも出来たので、更新をします。

今回は女子視点からです。

「うーん……」


はっちゃんがしきりに頭をひねっている。


「うーん……」


今は授業のあいまの休み時間。はっちゃんは私のすぐ前の席なので、彼女が何をしているのかは嫌でも目に入ってくる。

はっちゃんは私よりちょっとだけ成績はいいけど、勉強熱心といえるほど真面目ではない。だから、こうしてうなりながら考え事をしている姿は凄く珍しい。

そんな珍しいことをしているはっちゃんだけど、多分、何について頭を悩ませているかは大体見当がつく


はっちゃんの頭は9割がエッチなことで占められているのだ。


どうせ今考えていることも、玉城先輩にどうセクハラしてやろう、とかそういうことだろう。

私はふっと鼻で笑った。

はっちゃんの度重なるセクハラを、私は常日頃から苦々しく思っていたのだ。そろそろガツンと言ってやらなくてはいけない。


「はっちゃん……」

「ねえ、咲ちゃんどうしよう……」


私に声をかけられ、待ってましたと言わんばかりにはっちゃんが身体を横に向ける。


「あのね、セクハラはいけない……」

「野球拳をしたいんだけど……」

「え?」

「え?」


はっちゃんと私が同時に話だし、そして顔を見合わせた。


「セクハラって……」

「いや、それはいいよ、野球拳って何?」

「うん? どうすれば玉城先輩と野球拳が出来るかなって……」


男子と野球拳、それは女子の夢。

もう深夜のノリの軽いバラエティ番組のお色気コーナーくらいでしかやらないが、それでもテレビ欄で見かければ正座で見てしまう。それが野球拳だ。

というか、まさに昨日の深夜番組でやっていた。

もちろん、テレビの前で正座して見た。


「はっちゃん、それ昨日の?」

「うん、あの番組見て思いついたんだけどさ」


はっちゃんも昨日の深夜番組を見ていたらしい。なるほど、私も男子(玉城先輩含む)と野球拳なんて出来ればいいなあ、なんて思っていたが、どうやらはっちゃんは計画を立てる段階まで進めていたらしい。この性欲に関して一歩前に出ていく姿勢は本当に見習いたいと思う。


それにしても、玉城先輩と野球拳か……

私は想像する。

先輩があの厚い胸板を自分から晒す光景を。きっと恥ずかしがりながら一枚一枚脱いでいくのだろう。いや先輩の事だから堂々と脱いでいくのかもしれない。そして最終的にパンツ一丁になり、それすらも脱いでいく…………何て素敵なんだろうか。


普通の男子には土下座でお願いしてもまずやってもらえないだろう。

でも玉城先輩ならワンチャンある。


「ねえ、ところでさっきセクハラって……」

「セクハラはもうどうでもいいよ」

「え?」


玉城先輩へのセクハラはいけない事だ。


でも、それを咎めるのは、時と場合によるってことでいいと思う。


「で、どうしようか?」

「う、うん、いい案が浮かばないから悩んでいたんだけど、協力してくれない?」

「わかった、任せて」


私とはっちゃんは、昼休みまでの間、授業やらなんやらをそっちのけで作戦を練った。




いつものように玉城先輩と三人で囲む昼休み、練りに練った作戦を実行する時がきた。


まずははっちゃんがごく自然に話題をジャンケンに持っていく。


「あ、咲ちゃん、そのお弁当美味しそうだね」

「一口ちょうだい?」

「だめ」

「えー、なんでよー」


私達は先輩の様子をチラチラ見ながら会話を進める。


「どうしてもくれないの?」

「うん」

「じゃあジャンケンで勝ったらちょうだい」

「それならいいよ」


ジャンケンの部分をことさら大きな声で強調するはっちゃん。

その声に反応して先輩がおにぎりを食べるのを止めてこちらを向いた。


「ジャンケン……」

「ジャンケン……」

「「ぽん」」


私がグーではっちゃんがチョキ。


「負けちゃった~」

「はっちゃん弱いねえ」


手はず通り、はっちゃんはわざと負けた。

はっちゃんがジャンケンに弱い事を先輩にそれとなく伝えるのだ。


「負けちゃったしどうしようかな……あ、先輩のおにぎりも美味しそうですね」

「ん? そうか?」


ここで先輩に話を振る。

ここまで完璧に作戦通りの流れだ。


「というわけで、先輩、おかずをかけてジャンケンをしましょう」

「いや、別にジャンケンなんかしなくても欲しければやるぞ」

「え?」


先輩がおにぎりをそのままはっちゃんに差し出す。

しまった、これは予想外だ。ジャンケンに乗っかってくれるか拒否することを想定したのに、まさかじゃんけんしない、という選択をするとは……


「……いえ、ジャンケンをしましょう、ただでもらうのは良くないと思うので」

「じゃあ交換ってことにするか? お前のも一口貰うってことで」

「えーとですね……」


はっちゃんはなんとか軌道修正しようとするが、上手くいかない。

ダメだ、作戦が崩れる……!


ちなみに、私とはっちゃんが立てた作戦とは、


1、お昼ご飯のおかずの取り合いでジャンケンをする流れをつくる。(ここではっちゃんがジャンケンが弱い事を先輩に見せる)


2、先輩をその流れに乗せる。先輩が拒否すれば「はっちゃんはジャンケン弱いから先輩は勝てますよ」と私がフォローを入れる。


3、先輩とのジャンケンではっちゃんわざと負ける(ばれない程度の後だしをする)。この時にはっちゃんはおかずを取られたくないので「服を脱ぐので勘弁してください」という。そして実際に脱ぐ。


4、そのまま野球拳の流れに持っていく。「私だけ脱ぐのは不公平なので先輩の服をかけてジャンケンをしましょう」とはっちゃんが無茶苦茶な事を言う(このときにおかずの話はどうした? と突っ込まれないようにする)。私ははっちゃんをたしなめるスタンスを持ちつつも、「でもはっちゃんは言い出すと聞かないので、一回だけでもやってあげませんか?」とそれとなく野球拳を勧める。


5、ここまできたら後は押せ押せで何とかする。先輩は押しに弱いから何とかなる気がする。


構想の上では完璧な作戦だったはずだ、まさか早くも2番目で躓くとは思わなかった。


私はハラハラとはっちゃんを見る。

はっちゃんも助けを求めるように私を見返してきたけど、私は小さく首を横に振った。

自慢じゃないが、私にアドリブ力なんかない。こういう時に咄嗟に気の利いた一言がいえるのなら、今頃もっとたくさん友達がいるはずだ。


「どうした? 秋名?」

「いやあ……な、なんでもないですよ」

「……本当にか?」

「ほ、本当ですよ、何ですか先輩そんな目で見ちゃって~、このこの……ま、まあそれはとにかくとして、えーと、とりあえずその、ジャンケンをですね……」

「……」


ああ、先輩の目がどんどんと怪しい奴を見る目つきになっていく。

はっちゃんの口数がやたらと多くなるのは、何かを誤魔化す時の癖なのだ。先輩は多分その事を見抜いている。


「……加咲」

「は、はい!」


いきなり話しかけられて上ずった声を出してしまった。


「……お前の事を疑いたくはなかったが……なんだかさっきからお前ら様子がおかしくないか?」

「お、お、お、おかしいですか!?」

「動揺しすぎだろ」


それは仕方ない。図星をつかれたのがあるし、何よりも先輩のこの鋭い目つきで睨まれて、平静を保っていられる女の子はあまりいないと思う。


「……で、お前ら二人何を企んでいるんだ?」

「な、何も……」

「はい、企んでないです……」


先輩は険しい顔をして立ち上がると、はっちゃんの後ろに回り、そのままはっちゃんの肩を掴んだ。

はっちゃんがびくりと跳ねる。


「秋名」

「はい……」

「お前肩こってるな」

「そ、そうですかね……?」

「揉んでやるよ」

「あ、ありがとうございま……いだだだだ、いたい、いたい……」


先輩の指がはっちゃんの肩に食い込む。あれは痛そうだ。

……でもちょっとうらやましい。痛いのは嫌だけど、男子からされる、ああいう過剰なスキンシップには憧れみたいのがある。


「秋名……」

「は、はい……」


一方で、はっちゃんは冷や汗をタラタラ流していた。


「今吐けば楽になるぞ?」

「いやあでもですね……いだだ……」

「怒らないから素直に言ってみろ」


怒らないからって、すでにだいぶ怒っている気がするけど……でも、先輩の顔は笑っているし、もしかしたら本当にあまり怒っていないのかもしれない。


「うう……」


はっちゃんが困った顔をして私を見る。

先輩は完全に私達の挙動不審ぶりを見抜いているし、おそらくはもう何を言っても誤魔化せないだろう。残念だが野球拳作戦は失敗した。

これ以上友達が痛い目に合うのは忍びない……「もう言っちゃっていいよ」という意味を込めて私は頷いた。


「わ、わかりました、言います……実はその……野球拳をしたいと思いまして」

「……なに? 野球拳?」

「はい……」

「野球拳ってのは……なんだ?」

「え、先輩、野球拳知らないんですか?」

「いや……ジャンケンに負けたら服を脱ぐってやつか?」

「それです」


先輩が口をもごつかせた。


「それをやりたかったのか? ……誰と?」

「……先輩とですけど?」

「……誰が?」

「いや、私と咲ちゃんが……」


先輩がさっきから不思議な確認をしている。この状況で野球拳をするのなら私達と先輩以外ありえないじゃないか。

先輩は、はっちゃんの肩から手を離し、頭をかいた。なんだかまるで照れてる人の仕草みたいだ。


「……さっきあのおかずのやりとりも野球拳のためにやってたわけか?」

「自然な流れでジャンケンに話を持って行こうと思いまして……」


結局、野球拳なんて最初から無理だったんだ。ああいうのは、もっとチャラい人たちが合コンとかでやるもので、私みたいな根暗デブオタクには縁がないものなんだ……


「……そんなに俺と野球拳がやりたかったんだな?」

「……はい」

「……やるか?」

「「え!?」」


私とはっちゃんが同時に先輩の顔を見た。


先輩はまるでにやけ面を誤魔化すかのように口をモゴモゴさせている。


「そんなにやりたいんなら一回くらいなら……やらせてやってもいいぞ?」

「「……」」


私とはっちゃんが顔を見合わせた。


「どうだ?」

「「やります!」」


私とはっちゃんが同時に返事をした。




「じゃあ、いきますからね……」

「おう」


先輩と野球拳が始まった。

これは夢なのかもしれない。いくら寛容な先輩でも、最終的には押せ押せで強引に話を持っていくしかないだろう、と思っていたのに、まさか先輩の方から野球拳を提案してくれるなんて……


いや、夢でもいい。私はとにかく玉城先輩の裸が見たい。


はっちゃんとの話し合いのすえ、こちら側はプレッシャーに(少なくとも私より)強いはっちゃんが代表となった。

男の裸が見たい、という純粋なこの思いはすべてはっちゃんに託した。お願い、はっちゃん!


「「ジャンケン、ポン」」


先輩がグーではっちゃんがパーだ。


「やったー」


まずは一勝!

私も思わず拍手をする。

はっちゃんならやってくれると信じていた!


先輩は自分のグーをジーと見た後、小さく舌打ちしてブレザーを脱いだ。

先輩のワイシャツ姿は時々見るけど、やっぱり「脱がされている様」を見ると興奮する。

私のテンションはいつになく上がっていた。


「……秋名、もう一回やるぞ」

「オッケーでーす!」


悔しげな表情を浮かべて再戦の要求をしてくる先輩に、はっちゃんはサムズアップで応えた。

はっちゃんもいつにもましてテンションが高い。


「「ジャンケン、ポン」」


先輩がパー、はっちゃんはチョキ


また勝った! はっちゃんすごい!


先輩はブラックコーヒーを一気飲みしたような苦い顔をして、壁に寄り掛かった。


「さあ、先輩! 脱いで脱いで!」

「……俺、ジャンケン弱かったっけな……」


独りごちながら先輩はワイシャツのボタンに手をかけ、一つ一つ外していく。

少しずつあらわになっていく先輩の胸板がいやらしい……というか、先輩はシャツを着ていない。なんて不用心な……これからの季節、これは透けシャツが期待できる。


先輩のストリップショーに、私もはっちゃんも食い入るように見つめる。この痴態をスマホのムービーモードで保存したい……怒られそうだから実際にはやらないけど……


先輩はワイシャツの全てのボタンを外すと、バッと机の上にワイシャツを置いた。

なんかやけくそっぽいけど、先輩のワイルドな見た目と相まって格好良い。あとあの太い二の腕に触りたい。


ダメだ、思考に性欲が入り込んで自分でもよくわからないテンションになっている。


「先輩、次! 次行きますよ!」

「……興奮すんな気持ち悪い」

「ジャンケーン!」


私達とは対照的に先輩のテンションは低い。でもそんなのお構いなしにはっちゃんはジャンケンを強行した。先輩の服はあとズボンのみ、つまりこれではっちゃんが勝てばパンツ一枚の先輩を拝むことができるのだ。はっちゃんのはやる気持ちは痛いほど理解できる。


「ポイ!」


先輩がチョキではっちゃんはグー。


はっちゃんは神である。異論は認めない。


はっちゃん神は出したグーをそのまま天高く突き上げた。

いまだかつて、ここまで親友をまぶしく思ったことはない。


一方、先輩は絶望の顔をして天を仰いだ。


「ズボン! ズボン!」


はっちゃんが囃し立てる。

私も先輩に聞こえないくらいの小声でそれに続く。

先輩は一度ベルトに手をかけたが……そのまましゃがみ、靴下を一足脱いだ。


「あー、先輩そういうことするんですかー!?」

「うるさい、どこから脱ごうが俺の勝手だ」


土壇場での靴下脱ぎはある意味お約束だ。でもいい、あと二回勝てば先輩はズボンを脱がざるを得なくなる。そこにあるのはパンツ一枚の先輩。率直に言って濡れる。


「まあいいですよ、ぶっちゃけ負ける気がしないんで」

「……」

「さあ、先輩、行きますよ、ジャンケーン……」

「……待った」

「なんですか?」

「選手交代だ」

「え?」

「秋名、加咲と交代しろ」


玉城先輩がこちらを見た。


「え、いや、私でいいじゃないですか」

「お前じゃダメだ、加咲と交代しろ」

「先輩、往生際が悪いですよ~?」

「なんとでも言え、そもそも俺は最初から加咲とやりたかったんだ」

「いやいや、先輩……」

「あー、俺は加咲の裸が見たい、加咲の裸がすごく見たいぞ~」


絶対そんなこと思ってないのに、とてもわざとらしい言い訳をする先輩。

どうやらこのままだと負けることを理解して、はっちゃんとの勝負を避けるつもりらしい。


「先輩、ズルいですよ!」

「うるさい、とにかく俺は加咲とじゃないと野球拳をしないからな」

「ぐぬぅ……」


はっちゃんが悔しそうにこちらを見る。

せっかくいい調子で連勝しているのに、水を差されてしまった。私だって、可能ならこのままはっちゃんに頑張ってもらいたい。

でも、先輩は腕組みをして「俺の意見が通らないのなら絶対にこの手は前に出さない」のポーズをしているし……このまま野球拳がオジャンになるのが一番最悪の結果だ。


「……はっちゃん……私が行くよ」

「咲ちゃん……」


私は覚悟を決めた。はっちゃんが示したエロへの道筋を私が閉ざすわけにはいかない。

私の顔を見て、はっちゃんも頷いた。


「わかった、お願いね、咲ちゃん」

「はっちゃん神、私を応援していて」

「うん…………え、待って、はっちゃん神ってなに?」


私は玉城先輩と相対する。これは相手が先輩といえど負けられない戦いだ。いや、先輩だからこそ負けられない。絶対に。

私は先輩をパンツ一枚(できればその先も)にする!


「先輩、行きますよ……」

「……ああ、ところで加咲」

「はい?」

「俺はこれからグーを出す」

「え?」

「俺がグーを出した時、お前は何を出す?」

「……え? え?」


いきなり何を言い出すのだろう、急に自分の手のを内を明かすなんて……


「せ、先輩がグーを出すなら私はパーを……」

「違うだろ」


先輩が私の両肩を掴んだ。指が食い込むほどじゃないが、それでも強く掴まれている。

やってほしかったスキンシップでちょっと嬉しいけど、それ以上に先輩に凄まれてちょっと怖い……


「俺がグーを出す時、お前は何を出すべきだ?」

「え、えっと……」


普通に考えればパーだけど、それは違うと言われた。

それならば……


「グー……ですか?」

「違うな」

「えぇ……」


パーでもグーでもなければ、一つしかない。


「……チョキ?」

「正解だ、俺はグーを出す、お前はチョキを出せ、わかったな?」

「え、えっと、えっと、でもそれじゃあ……」

「わかったな?」


先輩は肩を掴む力を強め、有無言わせずに念を押してきた。


「はいはいはーい! 先輩! 咲ちゃんを脅迫するのはよくないと思います! もっと正々堂々やって下さい!」

「うるさい、外野は黙っていろ」

「咲ちゃん、先輩の脅迫に負けないで!」

「加咲、お前が出すものはなんだ?」

「えっと、えっと……」


二人に迫られ、私の頭は混乱した。


「咲ちゃん、パーだよ! パーを出すの!」

「チョキを出すんだぞ、加咲、絶対にチョキ以外出すなよ? 絶対だからな?」


でも、先輩にすごまれると、それが正しいものなんじゃないかと思えてくる。

そもそもやっぱり、野球拳なんてやってはいけなかったのではないか? ここが唯一の引き返せる場所で、先輩をセクハラの魔の手から救うチャンスなのでは……


「加咲、お前が出すのは何だ?」

「わ、私は……チョキを……」

「咲ちゃん!」

「正解だ加咲! 行くぞ、ジャンケン……ポン!」


先輩はグーを出した。

そして私は……パーを出していた。


「か、加咲……お前!」

「咲ちゃん! やったー!」


驚愕の表情を浮かべる先輩と私の横で歓声を上げるはっちゃん。


「なぜパーを出したんだ加咲!」

「す、すみません、チョキを出そうとしたんですが、なぜかパーになってしまいました……」


頭では先輩の言うとおりにしなければいけないことはわかっている。しかし、その理性を、自分の欲望が凌駕してしまった。

……でも仕方ないと思う、女は上半身と下半身に脳みそが二つあるってよく言うし、これは下半身の脳みそに従った結果だと思う。


「クソ!」


先輩はもう片方の靴下を乱暴に脱ぎ捨てると、また私の肩を掴んだ。


「いいか、加咲、今度こそ頼むぞ? 俺はグーをだす」

「……先輩はグーを出します」

「お前はチョキを出す」

「……私はチョキを出します」

「わかるな?」


肩を掴んでいた手の力が強まる。

私はブンブンと首を縦に振った。


「いくぞ、加咲……」

「……はい」

「ジャンケン……ポン!」


先輩はグーを出した。

そして私は当然パーを出した。


「加咲ー!!!」

「咲ちゃーん!」


先輩は慟哭の声をあげながら膝をつき、はっちゃんが私に抱きつく。

やはり、人間は欲望に勝てない。


先輩を裏切ってしまったことは申し訳ないと思うが、とにかく今は、先輩のパンツ一丁が見たくてたまらないのだ。


「先輩、ズボンを……」

「先輩、ズボンですよ!」

「……」


玉城先輩は私達を交互に見ると、はあ、と大きなため息をついた。

そして、ベルトのバックルに手をかける。


脱ぐんだ!


カチャリ、カチャリというイヤらしいバックルの金属音がなる。ベルトが外れるその瞬間を、私達は固唾を飲んで見守っていた。


キーンコーンカーン


しかし、邪魔をするようにチャイムが鳴り響く。


「あ、もう時間か、さ、教室に戻ろう」


先輩はベルトを素早く締め直して、床に落ちていた靴下を履き始めた。


「せ、先輩、ズボン! 野球拳!」

「ズボンは脱がないし野球拳ももう終わりだ、なぜならもう昼休みが終わりだからだ」


当然だ、とばかりにはっちゃんの苦言を一蹴する先輩。

ここで止められるなんて生殺し過ぎる。


「ひ、卑怯ですよ!」

「卑怯? 何の話かな?」


先輩は勝ち誇った顔で両足の靴下を履き終えるとワイシャツに手をかけた。


「せ、先輩、それなら今回は持ち越しっていうことで、野球拳の続きをまたやりませんか?」

「うーん? まあ、いつかな」


絶対にしない奴だこれ。


「じゃあな、お前らも早く教室に戻れよ」


雑にワイシャツを着た先輩がブレザーを肩にひっかけると、そのまま部屋を出て行った。


「……あと少しだったのに……」


悔しさをにじませるはっちゃん。その気持ちは私も一緒だ。こんなことなら怒られるのを覚悟であの時にムービーを撮っていればよかった……


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