新しい後輩(加咲)
「咲ちゃん、この中だと誰が良い?」
休み時間、友達のはっちゃんがスマホを見せてきた。
なんだろう、と覗いてみると、先輩の男子数人が話している写メだった。しかし、写メの先輩たちは全員こちらを見ていない。つまりは隠し撮りだろう。
だが、別にこの写真が隠し撮りかどうかなんてどうでもいい。写っている先輩がイケメンぞろいな時点で、どうせ私達には一生縁のない人たちなんだろうし、グラビア雑誌を見てるようなものだ。
写真に写っていたのは、スポーツ刈りで健康的に日に焼けた肌がまぶしい野球部の主将、七三分けに眼鏡をかけた学力テストで常に学校一位の天才男子、髪を茶色に染めてワイシャツを胸元まで大胆に開けたちょい不良……女子生徒ならば名前は知らないまでもどこかで顔くらいは見たことある先輩たち。お近づきになりたい、いや、できるのならば恋人になりたい人たちだ。
「この人」
私はそんなイケメンたちから、少し離れたところにいる男子生徒を指差した。
楽しそうに話しているイケメンの先輩たちの輪には入らず、まるで一匹狼のように佇む先輩……背が高くて肩幅も広い。ちょっときつめな顔をしているけど、そこがまたいい。
「ほほう、ノータイムで玉城先輩ですか、咲ちゃんもマニアックですな」
「玉城先輩っていうの?」
「うん」
「もしかして知り合い?」
「話したことないけど、顔見知りだよ」
私の心はどよんと曇った。こういう時にはっちゃんのコミュ力がうらやましくなる。私はこの先輩と決してお知り合いになれないだろうから、恋人になれる可能性は0%だが、はっちゃんは持ち前のコミュ力のおかげですでに出会えているから、恋人になれる可能性が確実に1%以上存在している。
「玉城先輩かー、いいよね、玉城先輩ねえ、この中なら私も玉城先輩かな」
「背中が広そうなのがいい」
「わかる、やっぱり男の人って背中だよね」
私達は色々なところで気が合った。あまり友達を作るのは得意ではないが、少なくともはっちゃんだけは友達だと胸を張って言える仲だ。
「やっぱり付き合うんならこういうクールっぽい感じでさ、それでこういうタイプに限ってきっと奥手なんだよ」
「うん、それで恋人にだけは優しくなるタイプ」
「わかるー」
私達は気が合う。私たちの友情はきっと永遠だろう。
……そんな風に思っていたのは私だけだったのかもしれない。
最近、急にはっちゃんの付き合いが悪くなった。何事かと思って問い詰めると、少し迷いながら口を割った。
「玉城先輩と仲良くなってさ」
「……どういうこと?」
「まあ、仲良くなったというか、仲良くなっている途中というか……とりあえず、今こっちから積極的にアピールしてるところ」
「……裏切り者」
「え……」
「私とはっちゃんはずっと恋人も作らず高校生活を過ごすって誓いあったのに」
「えぇ……そんな誓い立ててないよ……」
「ずるい、そうやってはっちゃんだけ恋人できてさ」
「……うぅ、そんなつもりは……なくもなかったというか」
「はっちゃんはこのまま恋人できて、私の事なんか忘れちゃうんでしょ」
「わ、忘れないってば……」
はっちゃんの告白に、私の卑屈っぷりが爆発した。元々引っ込み思案で根暗な性格を自覚していたが、自分でも驚くほどスラスラと恨み言が出てきた。
はっちゃんはこんな私を相手に困ったように頭をかいた。
「……わかった、じゃあこうしよう、先輩に紹介する、咲ちゃんの事」
「え?」
「それで咲ちゃんも先輩と仲良くなればいいよ」
「……」
はっちゃんの提案はとても魅力的なものだったが、私は素直に了承できなかった。
私は下を向く。そこには、私のコンプレックスの原因がある。
「……私、デブだよね?」
「え? あー……そうかも」
「先輩ってデブとか大丈夫?」
「大丈夫じゃない?」
「本当に!? 本当に大丈夫なの!?」
これは私にとって死活問題なのだ。この無駄に広がった醜い身体。同性からは愛嬌がある、とか触ってて気持ちいい、とか言われるが、このデカい胸に引いてしまったり、嫌悪感を抱く男性は少なくない。
もし、玉城先輩がデブNGな男の人なら……紹介された瞬間に顔を背けられたら……もう生きていけないかもしれない。
「大丈夫だと思うんだよね、結構女子に対して寛容な先輩だし……」
「……確かめて」
「え?」
「大丈夫かどうかまず確かめて」
もう明らかにはっちゃんは「こいつ面倒くせえ」って顔してるけど、先に裏切ったのは、はっちゃんの方なんだからこれくらいやってほしい。
「……わかった、じゃあ確かめるけど、もしそれで先輩がデブNGだったら紹介はしない方がいい?」
「その時はなるべくデブは良いやつ的なことを言っておいて」
「……つまり、紹介はしてほしいんだ?」
私はコクリと頷いた。だってこれは私にとってもチャンスなのだ。憧れの先輩に一歩でも近づけるチャンス、なんとしても掴みたい。
「……とりあえず、期待しないで待ってて」
「うん、お願いね」
はっちゃんはため息をつきながら、私のお願いを受け入れてくれた。やっぱり持つべきものは気の合う友達だ。