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痴姦(玉城)

なぜこうなってしまったのか。


「痴姦したというのは本当ですか?」

「か、勘違いじゃないですかね……」

「勘違いでも見間違いでもない、私ははっきりとこの目で見たんだ」


俺は今、駅構内の事務所にいる。


朝、いつものように俺が乗っている電車で、まさかの痴姦行為が起き、俺はその当事者として連れてこられたのだ。


「……とのことですが?」

「いやあ……どうだったかな……」

「いくらあなたがとぼけても無駄ですよ、彼に聞けばすべてわかることだ」


名も知らぬキャリアウーマンが俺の方を見た。


今、キャリアウーマンと駅員に尋問されているのは俺ではない。

俺は痴姦された側の人間なのだ。


________________________________________

尻に違和感を覚えたのは電車に乗ってすぐの事だった。


誰かに尻を触られてる。


痴姦行為を受けたのは初めてではない。この世界に来てから二回目だ。

俺も慣れたもので、冷静に辺りを見渡し、犯人を捜す。

その犯人はすぐに見つけられた。不自然なくらい顔を下に向けたOLが俺の斜め後ろにいる。


さて、どうしたものか。


ハッキリ言えば不快だ。男でも見知らぬ人間に尻を触られるのは気分の良いものではない。


「この人痴姦です」と腕をひねりあげてやることもできる。

しかし、そうするといろいろやらなくてはいけなくなる。まずはこの人を駅員に引き渡し、事情を話し、恐らくだが警察の到着を待つ事になるのだ。


さらにこの人を突きだせば、この電車で俺が痴姦された、という話が広がるだろう。

そうなると、秋名の立場が危うくなるのではないか、と心配もしてしまう。

あいつは毎日この満員電車で俺に抱きついて乗っているのだが、聞くところによれば、それが「痴姦行為ではないか」との噂になっているらしいのだ。

人によっては、「秋名が痴姦した」というような間違った話に伝わらないだろうか…?


悩みどころだ。ただでさえ不快なこの満員電車でより不快な思いをして我慢するか、とっとと言ってしまうか……


「あなた、何をしているんです?」


俺が悩んでいると、声がかかった。

一瞬、俺に話しかけられたのかと思ったが違う。


「な、なんですか?」

「なんですか、じゃないですよ、次の駅で降りてもらいますからね……それと君も」


どうやら一人の正義感溢れるキャリウーマンが、俺の悩みを蹴っ飛ばしたらしい。


________________________________________


「えーと……確かにこの人に痴姦はされましたね」

「……これで言い逃れはできませんね?」

「うう……」


キャリアウーマンに睨まれ、OLは力なく肩を落とした。


「警察に電話をお願いします」

「わかりました」

「待って下さい! 警察だけは……」


OLは情けない顔で駅員にすがる。


痴姦は犯罪行為だし、罰せられるべきなんだろうが、被害者である俺自身があまり被害を受けた自覚がない。

不快な思いはしたが、警察に突き出すほどの事でもない気がするし、それにもし警察に突き出されたらこのOLの人生は終わりだろう。

会社も首になるだろうし、家族とも疎遠になると思う。痴姦犯罪者として後ろ指を指される人生が始まるのだ。

俺は情けないこの痴姦OLに対して、慈悲の心が生まれていた。


「あの……もうその辺でいいじゃないですか」

「え?」

「反省しているようならその辺でも……」

「は、反省してます! もう二度としません!」


痴姦OLがまるで崇めるように俺の前に跪いた。

こういうことをやられるとますます可哀想になる。この人は一回り以上年下の異性にこんなことをしなくちゃいけないほど切羽詰っているのだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい、君は自分が何を言っているのかわかっていますか? 君は彼女に痴姦されたんですよ?」

「ええ、まあ……」


キャリアウーマンは信じられないものを見るような目で俺を見ている。

まあ、そうだろう。

前の世界でもそうであったように、この世界でも痴姦された相手を許してあげるなんてまずありえない事だ。

俺のようなかなり特殊な人間を除いては。


「か、彼もこういっているようですし、どうかここは……」

「いえ、痴姦行為に対しては、まず警察に通報するというのが原則ですので……」

「そんな!? でも彼は……」

「彼がいいと言っても、あなたが犯罪行為をしたという事実は消えませんよ、それに痴姦は再犯率が高いと聞きます、彼以外の男性が被害を受けないためにも、あなたはきちんとペナルティーを受ける必要があります」


ああ、そうか、前の世界の感性を引きずってしまったからこの痴姦OLを許しそうになったが、この世界では普通に変態犯罪者なのか。


ということは、俺のさっきまでの提案は「痴姦を野放しにしよう」と言っていたことになる。


いかんな。今までは「俺がおかしい」だけで済む話だったが、俺以外の男性が痴漢の被害に……すなわち実害が生まれてしまうところだった。


「すみません、さっきの俺の話は無かったことにしてください、早く警察に連絡を」

「え!? な、なんですか!?」


今度は痴姦OLが俺を信じられないものを見る目で見る番だった。



ほどなくして警察が到着し、その場で事情聴取が行われた。


痴姦OLはその時になって、「私はやっていない」としらを切り始めたが、俺とキャリアウーマンが痴姦の様子を詳細に再現し、駅員の証言もあって、すぐに警察に連れて行かれた。



警察からもう帰ってもいい、と言われ、駅の事務所を出たのは10時ごろ。一応、事務所に連れていかれた時点で学校には連絡を入れていたが、学校に着くのは4限ごろだろう。まあ、適当にサボれたと考えればいいか。


俺は広々とした電車でどっしりと座りながら学校に向かった。


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