文化祭編 トラブル(玉城)
「おい、玉ちゃん、やべえぞ」
「どうした?」
「教室の外に人がめっちゃ並んでる」
「そうか」
やはり物珍しさも相まって、うちの執事喫茶は人気を博しているようだ。
といってもまだ始まって一時間も経っていない。いずれは落ちつくだろう。
「さっきSNSのタイムライン見たら、普通にうちのクラスの話題があったぜ」
「なに? ネットで話題になってるってことか」
「ネットつうか、俺がフォローしてる連中ほとんどうちの学校だし」
なるほど、SNS上の身内で盛り上がっているということか。いくら物珍しいからといって、ネットで話題になるわけがないか。
「それなら大したことじゃないだろう」
「いや、大したことだって、玉ちゃんの画像もアップされてるぜ」
「さっきから写真を撮りまくっているからな」
執事喫茶をやる以上、執事喫茶特有の出し物をしたいと考え、『写真撮影』や『壁ドン』など、実際に執事喫茶でやっているいくつかのサービスをそのままやっている。
もうすでに二桁の女子と写真撮影をしているし、おそらく、写真を撮った何人かの女子が、面白半分でアップしたのだろう。
「これからも客めっちゃ来るぜ、玉ちゃん目当てで」
「それがどうし……」
「すみませーん、いいですか」
「……いかがいたしましたか、お嬢様」
お嬢様から声をかけられれば、一旦すべてを中断してそれに答える。これも本物の執事喫茶で教え込まれたことだ。
「もう、この反応がガチ中のガチだぜ、玉ちゃん」
なんだガチ中のガチって。
俺は心の中でツッコみを入れた。
「あ、ハセ、そろそろ交代の時間だよ」
「そうだな、じゃあ玉ちゃん、俺行くわ」
俺たちは一時間で一人づつ交代する。ちょうど先に休憩していた二人の男子のうちの一人が帰ってきた。
「あの、この『特別サービス』の壁ドンというのをお願いします」
「かしこまりました、お嬢様」
長谷川は俺目当てで客が来る、と言っていた。
確かに稔以降、いろんな客(全員女子)が『特別サービス』を頼み、そのサービスのほとんどを俺がこなした。俺がそういうことをする執事(男子)だという話はSNSを通じてこの学校の女子たちに広まっているだろう。
まあ、忙しくなるのは悪くない。俺も執事の端くれ、お嬢様たちの求めに応じるのは本望だ。なんかモテてる感じになって気分もいいし。