文化祭 準備編(秋名)
「お母さんってさ、執事喫茶に行ったことある?」
「あるわよ」
「ええ!?」
玉城先輩のクラスで執事喫茶が行われることを知ったその日、家に帰ってから何気なくお母さんに聞いてみると、意外な返事が返ってきた。
「マジで? 何やってのお母さん、恥ずかしい」
「何で発子が恥ずかしがるのよ」
「いい年こいて……」
「失礼ね、あそこに行くとみんな『お嬢様』って呼ばれるのよ、年とか関係ないんだから」
それは知ってる。というか執事喫茶の常識的な知識だ。
「それにね、お母さんはちゃんとオシャレしていったんだから、きっと周りの女の人たちよりも若く見えたわよ」
「うげえ」
私は思わずえずいてしまった。なんでうちの母親は年相応に振る舞おうと思わないのか。もう40過ぎのオバサンなのに。
確かにお母さんの見た目は大学生くらいに見えるけど、それは若々しいというよりは幼く見えるだけだ。というかそもそも『大学生に見える母親』なんて何の自慢になるというんだ。
「本当に失礼ね」
えずく私に、お母さんは不機嫌そうにつぶやく。
「でも、なんでいきなりそんなこと聞くの? ここら辺に執事喫茶でもオープンした?」
「文化祭でね、玉城先輩が……」
「え、玉城君?」
やべえ、お母さんの前で玉城先輩の名前を出してしまった。
「なに、玉城君、もしかして執事喫茶でもやるの?」
これだよ。
あの体育祭以来、なぜだかお母さんに玉城先輩に興味を持ってしまったようだ。娘を置いてけぼりにしてハッスルするなと言いたい。
「玉城君の執事喫茶、お母さんはいいと思うわ、行ってみるわね」
「いや、来なくていいんで……」
「何よ、別に発子のところに行くわけじゃないわ、玉城君のところに行くの」
「行かなくていいってばあ……」
「あ、そういえば発子は何かやるの?」
「私のところは人形劇」
私達のクラスの出し物は童話を元にした人形劇である。一応、演劇って扱いだけど、台本ガン見しながらやっていいわけだし、かなり楽な部類の演劇だと思う。
「そう、じゃあそれもついでに……」
「来なくていいからね」
人形劇とはいえ、なんで母親に自分の演技をしているところを見せねばならないのか。
「そうなの、それなら玉城君の所だけに行くわね」
「それもダーメー!」
まったく、この母親は何で言っても分からないのだろう。
私は無駄だと思いつつも、その後も説得を続けた。