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夜のスカイプ(玉城)


『先輩スカイプしましょうよ』


秋名からラインが来た。

時刻は9時。夕ご飯も食べ終え、見たいテレビもないので風呂にでも入ろうかと思っていたところだ。


『これから風呂に入ろうと思っていたんだが、急ぎの用事でもあるか?』

『いえ、まったくないです。お風呂先にどうぞ』

『わかった、風呂から出たらこっちからかける』

『(≧∇≦)b』


長風呂の趣味もないのだが、後輩を待たせていると思うと意識して早風呂になってしまう。

カラスの行水を済ませ、身体を拭く。髪は自然乾燥でいいだろう。


部屋に戻ると、パソコンを起動してマイクとwebカメラをセッティングする。何度かやっているので慣れたものだ。

パソコンは自前だが、このマイクとwebカメラは秋名からの借り物である。ただ、秋名本人のものではなく兄のお古らしいが。


秋名にスカイプをかけると、半コールでパソコンの画面に秋名があらわれた。


「こんばんは! 先輩」

「ああ」


どうやらこいつはパソコンの前でスタンバイしていたらしい。


「……いいですね~」

「あん?」

「いや、こちらの話です」


秋名がニヤニヤしている。こういう顔をする時は大抵イヤらしいことを考えている時だ。といっても俺にはコイツがこんな顔をする心当たりがない。

俺の格好に何か問題があったのか、と思って一旦手でカメラを隠して自分の姿を確認するが、特に問題はなかった。


「ちょっと、何するんですか先輩!?」

「いや、なんでもない……」


カメラを隠していた手を離す。こいつだけが俺の知らないところでなにか良い思いをしているのだと思うとちょっとムカつくが、見当たらないのなら仕方ない。


「先輩、お風呂どうでした?」

「良い湯だったぞ」

「ちなみにどこから洗いました?」

「どこからだったかな……」


あまり気にしたことはないが、多分腕あたりだった気がする。

俺が教えようとした時、ふと、疑問が浮かぶ。


こいつ、なぜそんなことを聞くんだ?


「……」

「どうしたんですか、先輩?」

「そんなこと聞いてどうする?」

「いやあ、本で読んだんですけどね、何でも最初にどこで洗うかでその人の性格が出るらしいんですよ」

「……」

「私は首元ですけど、これはですね、好奇心旺盛なタイプで何でも挑戦していく人なんですよ」

「……」

「先輩はどこから洗うかなーって本当に純粋に疑問に思っただけでして、これ先輩だけじゃなくて咲ちゃんとかにも聞いたんですけど、咲ちゃんは足から洗う派で……」


俺が疑うと途端にマシンガントークを始める秋名。こいつのこういうところはわかりやすい。

恐らく洗う場所から、なにかしらの下ネタに持って行こうとしたのだろう。秋名との付き合い方に慣れてきたのでこいつの思考パターンも予想できるようになってきた。



この「夜のスカイプ」は秋名が提案してきたことだ。何か特別な事をやるでもなく、ただ世間話をするだけで、俺としては特にやる意味があるとは思えない。

ただ、秋名の事だから、きっと何らかの自分の性的な欲求を満たすためにこのスカイプを提案したのだろう。

まあ、そこら辺の事をひっくるめてその提案を受け入れている俺も俺だが。

正直言うと、秋名に性的な目で見られるというのは悪い気はしないのだ。モテる……とも少し違うかもしれないが、それでも気分が高揚してしまう自分がいる。


「本によると足から洗う人はむっつりだそうで、私この結果を見て『この本は正確だ』って思ったんですよ、それでですね……」

「……俺は腕から洗うぞ」

「え? あ、腕ですか?」

「腕はどうなんだ?」


秋名のマシンガントークの弾が切れるまで聞いてやるのも面白いと思ったが、さすがにそれは時間の無駄だ。

それに必死に『自分は下心ありませんアピール』をする秋名に、あまり意地悪をしてやるのも可哀そうだし。


「腕はですね……おおらかな性格な人です」

「おおらか」

「はい、何でも受け入れちゃうようなタイプです」


おおらか、と言われてもピンとこない。確かにあまり怒ったことはないが、そんな何でも受け入れちゃうタイプではないと思う。


「ちなみに次に洗うのはどこですか?」

「次? ……腕からそのまま肩かな」

「その次は?」

「胸とか背中とか……」

「胸!? 胸を洗うんですね!?」

「そうだが」

「どんなふうに洗うんですか!?」

「……」


俺が答える度に、画面に映る秋名の顔がアップになっていく。画面越しでもわかるくらいに鼻の穴が開いている。


「……普通にタオルで洗うだけだが」

「洗い方の話ですよ! こう、胸の肉つきにそって洗う感じですか?」


コイツは一体何を言ってるんだ。


「胸の肉つきなんて、よほど大胸筋が発達してないと出来ないぞ」

「先輩は発達していないんですか? 結構固いですよね?」


そうか、そういえばこいつは毎日俺の胸に顔をうずめて満員電車に乗ってるんだったな。


「固いのは当たり前だ、むしろ体を鍛えると柔らかい筋肉の方が発達するんだよ」

「なるほど」

「わかったか?」

「はい、それでどう洗ってるんですか?」

「だから普通に洗うって言ってるだろうが、お前と大して変わらないと思うぞ」


画面越しの秋名の平面な胸を見ながら言った。こいつが自分自身の胸をどう洗うかを想像すれば、それが正解だ。ちなみに秋名は今現在キャミソールという結構露出度の高い格好しているが、胸に起伏がないせいで色香を全く感じない


「……」

「そんな顔したって答えは変わらないぞ」


俺の答えに不満があるのか秋名は唇を尖らせた。どうやらコイツ的には俺の身体の洗い方が重要だったらしい。

元の世界に置き換えてみれば男子が女子の洗う箇所や洗い方を聞くようなものだ。

……待てよ、これはもしかしたら……


「……秋名、そんな事を言うのなら、お前はどうなんだ?」

「私ですか?」

「お前は身体をどうやって洗う?」


男が女にこんなことを聞くなんて、元の世界ならセクハラだが、この世界ならセーフだ。それに話の流れから「やり返している」という形を取れる。

まあ、相手がまな板の秋名のせいであまり興奮はしないだろうが、それでも女性であることには変わりないし、何よりもこっちは普段からセクハラされているんだ。ちょっとくらいはいい思いをしてもバチは当たらないだろう。


「私はボディタオルにボディソープつけて洗いますよ」

「ボディタオル?」

「知らないんですか? めっちゃ泡立つんですよ」

「それでどうやって洗うんだ?」

「どうやってって……こう……」


秋名はカメラの前で身体中をこする仕草をする。

いたって普通の洗い方だ。俺と変わらない。


「普通だな」

「普通ですよ」


どうしよう、予想以上に興奮しない。

やはり相手が悪かったか。これが加咲のような巨乳少女であれば想像も捗ったのかもしれないが……


「私の事はどうでもいいので、先輩ですよ、先輩!」

「これ以上何を聞きたいんだ?」

「胸を洗ったんですよね?」

「ああ」

「その次はどこを洗いましたか?」

「それは……腹だろう」

「その次は!?」

「その次って……」


身体を上から洗っていくのなら順当にいけば腹の次は股間になる。

だが、目をぎらぎらさせながらこっちの次のセリフを待っている秋名を見ると、なんとなくそのまま言うのははばかられた。


「……頭を洗うかな」

「頭!? その流れで頭ですか!? 胸と腹からきて!?」

「悪いか?」

「……」


そうじゃないでしょ、という表情の秋名。こいつは不満を隠そうともしない。

やはりこいつは股間を洗うことを話してほしいがためにこの話題を振っているらしい。


「頭をどう洗ったか聞きたいか?」

「……それは別にいいです」

「そうか」

「……頭の次はどこを洗ったんですか?」

「……」


こいつも諦めないな。

むしろ、このエロに関しての不屈の探求心は見習うべきことかもしれない。

その後、どうにか股間を洗うことを言わせようとする秋名と、それを上手くすっとぼける俺、というなんとも不毛なやりあいが、日付が変わるまで続いた


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