文化祭 準備編(加咲)
「咲ちゃんさん、聞きました?」
「何?」
従業合間の休み時間、むふふ、と笑いながらはっちゃんが話しかけてきた。
はっちゃんがこういう顔をする時は、イヤラシイ事を考えている時だ。それも玉城先輩がらみの。
ヤレヤレ、と思いながら私は耳を傾ける。友達として咲ちゃんのイヤラシイ話を聞いてあげよう。決して興味があるからではない。玉城先輩へのイヤラシイ事ならば私も参加したい、とかそんなことは全く思っていない。
「そろそろ文化祭じゃないですか」
「うん、そうだね」
「なんでも、うちの学校のとあるクラスで、出し物に『執事喫茶』をやるらしいですよ」
「へえ~」
私は小さく反応した。
執事喫茶に、実際に行ったことはない。というか、ぶっちゃけるとあの場所にそんな興味はないのだ。
よく勘違いされるけど、オタクだからってみんながみんな執事喫茶が好きなわけじゃない。どうせやる気のアルバイトがオタクを見下しながやっているのに決まっているのだ。そんな『執事喫茶』を文化祭の出し物程度の規模でやったって、寒いに決まっている。
「しかも、やるところは玉城先輩のクラスだとか」
「……マジで?」
「不確定な情報だけど、信憑性80%くらい、かな?」
信憑性80%ならほぼ確定じゃないか。
学生の執事喫茶なんて寒いだけだと思っていたが、玉城先輩のクラスでやるというのなら話は別だ。
だって、もしかしたら玉城先輩が執事になるかもしれないんだ。
あの大きな身体に執事服はきっと似合うだろう。それに先輩はああみえて接客の才能がある。きっと執事もそつなくこなすに違いない。
「まあでも、玉城先輩のクラスの出し物が執事喫茶でもさ、先輩が執事をやるとは限らないんだけどね」
「……あ、そっか……」
一瞬、盛り上がった気持ちがすぐに盛り下がる。
先輩以外の執事は正直あまり興味ない。先輩以下の、学生のおふざけ素人執事なんかたかが知れてるし。
「やるかもしれないし、やらないかもしれない、この辺りは先輩に直接聞くしかないね」
「うん、聞いてみてね、はっちゃん」
そういう切り込み隊長的な仕事ははっちゃんの役目だ。私は陰から応援するのが仕事。
はっちゃんのジト目を受け止めつつ、私は昼休みが来るのを待ち遠しく思いながら、次の授業の準備を始めた。