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文化祭 準備編(ヒロミ)

文化祭で、僕のクラスは『執事喫茶』をやることになってしまった。

なぜか僕が執事役で。


まあズボンも履いているし、男扱いされるのは慣れてるけど、露骨に男役っていうのもなんだか納得いかないものがある。

スカートを履いてみる? ……いやでも、結構違和感あるんだよね、スカートって。


そんなことをつらつらと考えながら歩く帰り道、


「なんでヒロミも執事やることになったんだ?」


隣を歩いている玉ちゃんから話しかけられた。


「……成り行き、かな?」


それ以外の返答はしようがない。ハセがドンドンと決めちゃって、僕は流されるままに執事に任命されてしまったのだから。本当にああいう時のハセのリーダーシップは凄まじい。


「長谷川、執事喫茶やるのは良いんだが、衣装とかあるのか?」

「それにはアテがあるから大丈夫だぜ」

「あて?」

「ああ、さっき電話で聞いてみたけどOKって言われたしな」

「電話……?」


ここまで言われて、僕はピンときた。


「ハセ、もしかしてバイト先?」

「そうだ、ヒロミは知ってるよな」

「うん」


以前、僕はハセのアルバイト先にお邪魔したことがある。「コスプレ衣装屋」さんだと紹介され、興味本位でいってみたのだ。

なかなか強烈だった。お店の中も、お店の店長も。


「……俺は知らないんだが」

「あ、ごめんね、玉ちゃん……」

「今から俺のバイト先に行くから、そん時に説明するぜ」

「お前のバイト先? ……コンビニとかじゃないのか?」

「ちげえって」


玉ちゃんはハセのバイト先を勘違いしているようだ。

まあ「コスプレ衣装屋」なんて、ハセのイメージに合わないし、思いつかないのは仕方ないことかもだけど。



『ジュラジュラ』


それがこのコスプレ衣装屋さんの店舗名である。

チェーン店らしく、関東近県にいくつかテンポがあって、ここもその一つだ。


お店の中に入る。

このお店には一度来ていたが、それでも大量の衣装がところせましとハンガーにかけられたこの店内の光景は圧倒されてしまう。


「こういうところには初めてくるが……すごいな」


玉ちゃんも圧倒されたようで、ハンガーから一着の服を取り出す。赤と白と青の装飾のドレスだった。


こういう店って、オタクの人たちしか使わないと思ってたけど、実は普通の人もくるらしい。宴会の余興目的で利用したり、演劇関係者やテレビ局の関係者が服を探しに来たりするそうだ。


「てんちょー、てんちょー!」


ハセが店の奥に向かって声をかける。

すぐにドタバタと慌ただしい音が聞こえて、店の奥から小太りの女性が出来てきた。


「長谷川君!」

「てんちょー、ラインで話したとおりね」

「分かってるよ、執事服を五着分ね! 今在庫見てみたけど、何とかなりそう」

「マジで? 本当に助かるわ、さすがてんちょー」

「いいんだよ~! 長谷川くーん~!」


小太りの女性はコロコロと笑う。

この人は中川さん。この店の店長でハセの雇い主だ。

良い人そうな見た目をしているんだけど……ちょっと色々とありそうな人で、僕は軽くだけど警戒している。


「ああ、姫野さんも来たんだ」

「お久しぶりです」


僕は頭を下げた。自己紹介は以前に済ませている。


「それで、そっちの子が……」

「玉ちゃんね、俺の友達」

「友達……どうも、この店の店長やってます、中川といいます」

「あ、どうも初めまして、玉城です」


中川さんが軽く会釈をし、玉ちゃんも会釈で返した。


「それでさ、来週のシフトなんだけどね、長谷川君、またちょっと追加で何日か来てほしいんだ」

「おう、いいよ」

「本当にありがとう~! バイト代、弾むから」

「うん」


シフトを追加、ね。店長とアルバイトの会話としては普通の部類の物なのだろうけど、中川さんがハセを見る目を考えると、ちょっと素直には受け取れない。


「あ、そうだ、長谷川君ってアイドルのライブとか見る」

「ライブ? あー、あんまり見ないかもしんねえ」

「そうなの? 実は友達がそういうのを企画してる仕事をしてるんだけど、チケットが手に入ってね……」

「ほーん」


中川さんがちょっと興奮気味に喋っている。一方で、ハセの顔には「興味ありません」と書いてあった。


「でさ、てんちょー、その執事服見せてよ」

「あ、うん、こっち……」


中川さんに連れられて、ハセが店の奥に行く。


「……なあ、ヒロミ」

「うん?」

「あの二人、ずいぶん仲が良いな」


玉ちゃんも、二人の間に流れる空気の『違和感』に気付いたようだ。


「……うん、まあ、いやそれは……」

「どうした?」

「……僕も前に一回ここに来たんだけどね」

「ああ」

「その時も大体あんな感じのやりとりがあったんだけど」

「ああ」

「多分、あの店長さん……ハセに彼女がいるって知らないんだと思うんだ」

「……」


多分、中川さんはハセにモーションをかけているのだ。こういっちゃあれだけど、あの人は普通にスケベおばさんである。いくらなんでも大人が現役高校生をそういう目で見るのはダメだと思う。


「もしかして臨時でシフトを入れるっていうのも?」

「はは、どうだろうね……」


僕は明言を避けた。


「ただ、前にハセから話を聞いたんだけどさ、臨時でシフトに入っても、あんまり混んだことないんだって」

「……」


でも、一応匂わせる発言くらいは残しておこう。


「……まあ、行くか」

「……そうだね」


僕と玉ちゃんはちょっと気まずくなりながらも、ハセ達の後を追って店の奥に進んだ。


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