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体育祭 閉会式後(加咲)

私たち一家は、久しぶりに四人で夕食を囲んだ。


「ほら、たわわ、お父さんにビール継いであげなさい」


お母さんに促され、私はビールをお父さんのコップに注いだ。


「こら、稔、あんたは勝手に食べない」

「えー、食べるくらいいじゃん」


稔がステーキを食べかける手を止める。


「ダメ、まずはお父さんが食べてから」


ここら辺、お母さんは厳しい。

お母さんは「お父さんファースト」なのである。お父さんが家にいる時は、だいたいこんな感じだ。


「別にいいですよ、食べたかったら食べてください」


一方で、お父さんは温和に対応している。

お父さんはいつも通り物腰柔らかだ。娘である私達に対しても敬語で話す。


「最初に乾杯、その後食べるの……まず、たわわ、今日はお疲れ様」


私は頷いた。


「あとお父さんも、私達のために働いてくれてありがとう」

「満さんもですね」


お父さんに言われてお母さんが照れる。

本当に両親の惚気というのは非常に心をえぐられる。なんでそんなものを見せられているんだ、という気分だ。


結婚してからもう十八年目らしいけど、いまだにお母さんはお父さんにベタ惚れ状態である。友達に聞いてみても、ここまで仲の良い両親というのは珍しいらしい。まあ、離婚しているところとかに比べれば、マシだろうけど。


「はいはい、乾杯乾杯」


稔も私と同じ気持ちだったらしく、コップを突き出して両親の惚気を止めさせた。

乾杯を済ませ、ようやく私もステーキを食べることができる。


久しぶりにお父さんと囲む夕食ということで、お母さんはかなり気合を入れて夕食を作った。このステーキも特売品だが、和牛を使っているらしい。


「そういえばさ、お父さん、玉城さんと何を話したの?」

「玉城君とは大切な話し合いをしましたよ」


それはちょっと気になるところだ。先輩が私を見る目が変だった。もしかして、私の濃いオタク趣味をばらしてしまったのではないか……そんな心配をしてしまうくらいに。


「……お父さん、どんな事を話したの?」

「ですから大切な話です」

「大切な話じゃわからないって」

「たわわには話せませんね」

「な、なんで……?」


お父さんは基本的に私や稔に甘い。頼めばお小遣いとかも普通にくれる。そんなお父さんが私のお願いをきっぱり拒絶するなんて本当に珍しい。


「男同士の大切な話です」

「そういうことみたいだから、深く聞くのは止めな、たわわ」


おそらくお母さんも事情は分かっていないだろう。でも、こういう時、お母さんは常にお父さんの味方である。


「むー……お父さん、私のことで変な事言っていない?」

「言ってませんよ、僕はたわわと玉城君のことを考えて、ちょっとお話をしただけです」


私と玉城先輩の事……まあ、ここまで聞いても答えてくれないのなら、お父さんはきっと教えてくれないだろう。


「たわわ、あんたは男同士の話に入ってくるんじゃないの」


お母さんに諭される。

仕方ない。私は黙った。今日は大人しく目の前の美味しそうなステーキを食べよう。


「満さんの個人的な事を引き合いに出してしまいましたが、たわわの変な事は誓って言っていません」

「……え?」


お父さんの何気ない一言に、お母さんが目を剥いた。


「お、お父さん……私の事を、何か言ったの?」

「ちょっと昔の話を引き合いに出してしまいました、すみません」

「……待って、何で謝るの? ……どんな話をしたの……?」

「それは言えません」

「ちょっと、正君!」


お母さんがお父さんをゆする。しかし、お父さんはマイペースにステーキを食べ始めている。


「お母さん、深く聞いちゃいけないんじゃないの?」


稔が楽しそうにチャチャを入れる。

お母さんがキッと稔を睨んだ。先ほどとは立場が逆転している。お母さんが何とかお父さんから話を聞きだそうと四苦八苦しているのを見ながら、私はステーキに舌鼓を打った。


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