体育祭 閉会式後(ヒロミ)
「あ、お疲れ~、姫野君~」
「お疲れ様です、キャプテン」
体育祭も終業式を終えた。生徒たちはここから一度教室に戻る。僕もそんな生徒たちの波に流されながら、下駄箱まで来たところで、小川キャプテンに話しかけられた。
「この後にね、チアのみんなで打ち上げやろうって話あるんだけど、どう?」
「えっと……行きたいんですけど、すみません、予定を入れちゃって……」
よくある断り文句じゃなくて、本当に予定が入っているのだ。放課後はハセと玉ちゃんから誘われている。
それがなかったら絶対に行ったんだけど……正直、先約が入っているハセ達の予定に断りを入れようかと思っているくらいには、心が揺れてしまった。
「あれ、もしかしてクラスの方の打ち上げとかあった?」
「いえ、クラスではないんですけど……僕と写真を撮った男子たちがいましたよね?」
「ああ、長谷川君とあの応援団の子ね」
「あの二人とちょっとどこかに食べに行こうかって話をしてたんです」
「へえ~」
小川キャプテンが目を細めながらこちらを見ている。
「な、なんですか?」
「両手にバラってやつ?」
「……」
確かにはた目から見たら僕は二人の男子と一緒にご飯食べるリア充女子だろう。でも、別に恋愛関係にあるとかそういうのじゃない。本当にただの友達で、友達だから一緒にご飯を食べたりするのだ。
「あー、でも、姫野君も男子みたいなものだから、ただの仲良し三人組かね」
「……知りません」
確かに仲良し三人組なんだけど、小川キャプテンから改めて言われるとちょっと反発したくなってしまった。
だって、小川キャプテンは確実に僕の事を男として勘定しているし。
「そう拗ねないでよ~、私、結構姫野君の事好きなんだからね~」
僕は思わず小川キャプテンから距離を取った。
「ちょっとちょっと、そんな逃げようとしないでって、別に取って食ったりはしないんだからさ」
「……」
普段の行いが行いだけに小川キャプテンのその言葉はリアリティがありすぎるのだ。
「まあとりあえず、打ち上げこれないってならさ、多分、これでもう私達接点とかなくなっちゃうじゃん?」
「……そうですね」
確かに、小川キャプテンとはチアリーダーだけの関係だった。短い間だったけど、それでも一緒にやってきたあの時間は楽しかったし、小川キャプテンを始め、チアのみんながまたバラバラになるのは少し名残惜しい。
「じゃあ、最後にハグでお別れしよう」
小川キャプテンが腕を広げた。
「……まあ、いいですけど」
どうせセクハラするつもりなんだろうけど、でもそれでもいいと思ってしまった。それぐらい、僕も小川キャプテンの事は好きなのだ。
「お、素直だね~、やっと私に惚れたかな~?」
「やっぱりハグは無しです」
「あー、ウソウソ、冗談だからね」
小川キャプテンはそのまま僕を抱きしめた。
僕は大人しく抱きしめられる。
小川キャプテンは小柄だ。こうして抱きしめられると、僕との身長差で余計そう感じる。こんな小さな体で、誰よりも頑張ってチアをやっていたんだな……と思うと、なんだかとても感慨深い。
「おー、良いケツしてますね~」
まあ、そんな感慨も、小川キャプテンのセクハラで吹き飛ぶんだけどね。
「おー……いだだだだ……」
僕はお尻を撫でまわすその手を思い切りひねりあげた。