韓手1
この時期―女権暦10年台前半―の、日本大公国国民の対韓感情は、大きく分けて二種類である。
①「韓国の力は経済・軍事・国際外交・文化…すべての面で我が国を大きく凌駕している。総合的な国力の差は歴然で、残念ながら全く太刀打ちできない。国力の差は、今後、縮まるどころか、さらに開いていくだろう。地政学的に近すぎるこの強大国に対して、むしろその『近さ』を前向きに捉え、韓国の『一番弟子』となり、あるいは『衛星国』、あるいは『番犬』となって、韓国の冊封体制に自ら進んで入れてもらい朝貢し恭順の意を表することで、国の命運を保つしか我が国に道はない」
②「戦わずして韓国の軍門に下るなど正気の沙汰ではない。韓国は嘘を嘘で塗り固める整形大国で、火病の女どもが支配する見掛け倒し・コケ脅しの二流国だ。確かに最近の経済発展だけは目覚ましいが、それもこれも全部日本の猿マネで、独創性が無く、歴史修正しか能が無い。仮に、もし万一戦争になったとしても、韓国女など軟弱なアマ軍団に過ぎず、屈強な日本兵一人で韓国兵十人は相手にできる筈だ。だから韓国に対しては、開戦も辞さず、心を強く持って、常に強硬姿勢で臨むべきだ」
―じわじわと、まるで氷水の入った小さなヤカンをとろ火で熱していくように、日本の世論は②の『対韓強硬派』から①の『対韓従属派』へと進んでいく。
その進みは不可逆的だった。ヤカンの中で熱せられた水が氷に戻ることはないのだ。
コンロの前に立って火力調整のツマミに手を掛けているのは、、韓国なのだから。
◆◆◆
『強硬派』の最大勢力で、おそらく最後の牙城となりうるのは、日本の軍隊だった。
彼らは、自らの組織の存在意義である『外敵排除』という目的からすれば当然のことだったが、精神を右傾化させ、ますます排他的になっていった。
しかし韓国側の『布石』は、ずっと的確だった。
意地悪なほどに賢く、彼らの急所を突くものだった。
韓国東倭会社―日本植民地化のための韓国の出先機関―は、日本の軍隊内教育に目を付けた。
日本の軍隊は、人数(兵員の頭数)的に陸軍がその8割を占め、根幹といってもいい勢力だったが、その陸軍における平時の訓練の主なものに『徒手格闘術』がある。
これは日本軍人の白兵戦技術の向上だけでなく、精神鍛錬や、組織内の上下関係(俗な言い方をすると『超体育会的』な雰囲気)の醸成をも目的としていて、軍隊内で重んじられていた。
つまり、教育的な側面であった。
そのベースとなっているのは、日本古来の『武道』で、さらに柔道・相撲・合気道・カラテといった伝統的な形式がミックスされていた。
それらは日本の『誇り』なのだった。
一方で、この時期の日本のスポーツ(特に男子スポーツ)は、韓国のそれに大きく水を開けられ、後塵を拝している状況だった。
テコンドーなどはその顕著な例で、男子日本代表のテコンドー選手でも、韓国の中学在学中の一般の女子生徒(優性女性)と、ようやく互角に戦えるかどうか、というレベルだった。相手が部活でテコンドーをやっているような生徒となると、全く歯が立たないような有様だった。
日本大公国テコンドー協会は、大韓女権帝国テコンドー連盟の傘下に組み込まれ、後に正式に吸収合併された。韓テ連の理事長は自動的に公テ協の理事長を兼務し、公テ協の理事会は5人中3人を韓国国籍を持つ生粋の韓国人にしなければならない、という会則にされた。
高校を卒業した韓国人であれば、日本国内で誰でもテコンドー教室を開くことができ、しかも時の小波渡政権から税制等の優遇を受けることが出来た。小波渡政権はテコンドーの準国技化をさえ模索していた。
日本スポーツ界におけるこうした政治的・組織運営的な動きの背後に韓国東倭会社スポーツ部の暗躍があったことは言うまでもない。
韓国スポーツの日本国での普及を通して、日本人一般の韓国崇拝熱を高めること・頑固な国粋主義者の過信を挫くことを目的としていた東倭会社スポーツ部が、次のターゲットに設定したのが、前述の、日本軍隊における格闘教育だった。
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中村少佐(日本陸軍教導隊所属・32歳・♂)は、忌々しい思いで教練場の壁に貼られた横断幕を睨んでいた。
『日本大公国陸軍教導隊主催 韓手[カラテ]普及のための対韓パートナーシップ協定締結記念式典』
―そう大書された横断幕の上に、旭日旗と太極旗が並んで掲げられている。
少し狭く天井の低い体育館のような教練場のステージの上には、演台が置かれ、その演台に向かって約50名の教導隊員が起立して整列している。中村はその一番前の列だった。
暑い秋の日で、教練場は壁や床に染み込んだ隊員たちの汗の臭いでむわっ・としていた。整列している教導隊員たちは、全員半袖の軽兵装だった。
中村少佐が目を疑ったのは、横断幕の中の『韓手[カラテ]』の文字だった。
当然、『空手』のことである、と推測したが、『韓手』と書いて、さらにわざわざその後ろにカッコ書きで読み仮名が書いてある。
『??? 軍上層部が、韓国に媚びへつらう高級政治屋どもにプッシュされた結果だろうか…。空手はむしろテコンドーなどの源流で、当然我が国発祥の武道のはずなのに…』
キビキビとした『気を付け』の軍隊式号令と、その後の軍人勅諭の奉唱―こうした式典の開幕にツキモノ―を行っても、中村の疑問は頭から去らなかった。
『悔しく思っているのは俺だけだろうか。畜生…韓国の歴史改竄癖どもめ…日本を…ナメるな…』
さらに彼は、その目ばかりではなく、耳をも疑うことになる。
それは陸軍教育総監部のお偉方―渡辺少将(♂)―の要旨説明だった。渡辺少将は前面の演台に立って、起立して整列する自分たち教導隊員に向けてこう言った。趣旨は以下である。
・カラテは『韓手』と書くのが正しく、字の通り韓国起源である
・(周知の通り)韓国の現代スポーツとしての格闘技のレベルは世界最高峰で、日本としても大いに見習うべきで、その一丁目一番地はテコンドーをベースとした『韓手』である
・韓国に見習うべきは日本国民全体について言えることだが、まずは陸軍教導隊が日本国民に広くその範を示さなければならない
・我が陸軍教導隊は、大韓女権帝国の陸軍士官学校・および陸軍中央幼年学校と、軍隊格闘技―マーシャルアーツ―のレベル向上に関わるパートナーシップ協定を締結し、日本陸軍全体への韓手・およびその精神の普及のため、誠心誠意、努めることとする
・今後は日本陸軍の必須訓練科目である徒手格闘術のベースは、韓手・およびテコンドーとなる
・進んでいる師匠に遅れている弟子が教えを乞うに際しては、礼を逸してはならない
・また、遅れているものは、師の前で、自らのレベルを客観的にわきまえていないといけない
・韓手を通じた各員のより一層の心身鍛錬を期待する
◆◆◆
渡辺中将の冒頭の要旨説明が終わり、中将がステージ脇のパイプ椅子に着座したあと、演台に登場したのはハン・ジョンファだった。
長身の女は渡辺中将が使っていたマイクの高さを調整し―20センチくらい支柱を上に引き伸ばして―韓国語で話し始めた。
いつの間にか登場していた通訳による日本語を聞いていても、中村少佐は上の空だった。
胸中には怒りが渦巻いていた。。
空手が韓国起源? テコンドーが軍隊内の必須科目になる? 韓国の士官学校と、よりによってその下の中央幼年学校とのパートナーシップ協定?? せめて韓国陸軍と、だろ???
その胸中の『怒り』が『愕然』に化けたのは、ステージ上のハン・ジョンファの紹介の合図で、教練場の前面のドアから、12人ほどの女子学生―韓国陸軍士官学校と中央幼年学校の生徒たち―が登場してきた時だった。
ジョンファが言った。
「彼女たちが、本日からあなた方の先生役になります。年は皆さんより若くても、未来の韓国陸軍を背負って立つ精鋭揃いです。皆、その胸を借りる思いで、張り切って韓手のレヴェル向上に励んで下さい! 皆さんの上達を期待していますよ」




