前夜
ハン・ジョンファはソウル帝国大学校の3回生(21歳時)の夏季休暇の期間中、KSM社の『ゲーム企画部長代理』の資格でスマホゲーム『CANDY』の日本国内での普及・販売促進の任に当たった。同い年のウォン・ミリも、主幹研究員としてサポートした。
二人とも、ちょうど同世代の学生仲間がやっている就職前の『インターンシップ』に近い感覚だったが、『CANDY』の拡販は女権帝国の国策事業の一つであり、なおかつ売上規模は下手な日本向け一般輸出品の数十倍もある。
そのため、彼女らは本国での身分はあくまで大学生に過ぎなかったが、一方、日本において彼女らが手にした力―影響力・権力―は、段違いに絶大だった。
このころすでに、『CANDY』は、羽柴秀志朗とその仲間たち―少数のテスター集団―によるプロトタイプ試行の期間を終えて本格的に日本市場への参入を開始しており、その日本における市場独占率は(ある統計では)すでに30パーセントを超えていた。
スマホゲーム『CANDY』は、着々と『日本人からの富の収奪と民度の低下』という当初の目的を達しつつあったが、ジョンファとミリの夏季休暇中の『陣頭指揮』はその成果に拍車を掛ける形になった。
二人はユーザーを『管理』するというやり方を大事にした。
現役のアイドルグループ『WHIPs』の主要メンバーだった時代から、いわばコンセプトとして、彼女らはファンが『来るのを待つ』ではなく、『捕まえて、育てて、管理する』というマインドだった。
つまり、ファンを野生動物に例えていえば、その棲み処の近くに固定的な罠[ワナ]を仕掛けるやり方ではなく、広く狩りをして、さらに家畜化する、というのであった。
具体的には、ファンひとりひとりを会員番号―WHIPsではスラングとして『奴隷番号』と呼んでいた―を割り付けして、その番号のファン活動を膨大なデータとしてクラウド的に吸い上げる。
コンサートやファンミーティングといったチケットの購買履歴はもちろん、関連するすべてのファングッズを、数百円のTシャツ・タペストリーであっても、購入時に番号を提示させて記録した。
金を落とせば落とすほど有用な奴隷である、と見なされるのは当然だった。さらにシングルスやアルバム・コンサートDVDの先行予約の速さも、『購買意欲』という形でファンの忠誠心を計るスコアになった。
さらに重要な情報はSNS上での発信による『貢献』だった。
各種のイベント―集会―への参加や、楽曲等の感想を、ファン仲間やそうでない一般人―ファン予備軍―に向けてどれだけ効果的に発信できているか、それはどれだけ将来的にWHIPsへの収益をもたらすか、ということだった。
こうしたファンとしての『貢献度』は、韓国の進んだIT技術を駆使し、本国の優秀なスタッフの手で集計されて、『ファン管理』の重要なツールになった。端的に言えば『長期的に見てどれだけ日本のファンから銭を巻き上げられるか』なのである。
『ファンを管理する』とは『ファンの忠誠心を競い合わさせる』ことで、『忠誠心』とは『WHIPsにどれだけお金を献上できるか』だった。
この点で、つまりファンを管理する、という観点で、スマホゲーム『CANDY』は最終兵器的な効力を発揮した。
まず、『CANDY』自体が、ファンのお金と時間をバキュームする強力な課金ツールであるのみならず、これはジョンファのアイディアだが、ファン専用SNSと連動させて、写真/動画投稿機能・つぶやき機能・イイね機能を追加させ、一人一人のファン自らが拡販・普及に衝き動かされる仕組みを作った。
彼らを文字通り運営側の『走狗』として―CANDYの主人公アバターは犬のキャラクターだった―、しかもその成果に対するご褒美は、実態のないゲーム内だけのアイテムで事足りる。それでも走狗となったファンたちは、せっせと課金し、せっせとプレイ情報を拡散して新規奴隷を開拓し、嬉々としてノメリ込んでいった。
◆◆◆
一か月後―夏季休暇後半―KSM社東京本社のとある会議室―
「簡単すぎて笑いが止まらないね」とジョンファが言うと、ミリも
「止まらないね。濡れ手にアワ。金のなる木。最高のゲームだね、これ」と応じた。
会議の席上、彼女らは部下である日本人研究員の報告を、肘掛けの付いた安楽椅子に深く凭れて聞きながらほくそ笑んでいた。本当に笑いが止まらなかった。なんて『ボロい』商売なんだろう、とジョンファとミリも思っていた。
「仰る通りです。。ジョンファ様、ミリ様。私も韓国とお二人にこれだけの利益を短期間でもたらしたことを報告できることを大変うれしく思います」
「登録者数と課金数の報告は以上なんですが、話題と注目度の高さを示す情報をいくつか御報告させて頂きます」
「WHIPsを筆頭とする我が社の所属タレントと、『CANDY』ゲームの愛好家[ユーザー]らの専用SNSとしてスタートした『CANDYワールド』のユーザー数は、すでに単体でツイッ●ーやインスタグ●ムの登録者数を超えています。もちろん日本国内だけの集計ですが(笑)。当然それに費やす時間もダントツです。日本人はこのゲームがほんとうに大好きです」
「こちらの写真は、日本の大手レコード販売ショップチェーンと『CANDY』がコラボした時の、限定グッズ販売のために深夜から開店を待つ行列です。韓国のテレビニュースでも流れていたので、お二人もご存じかもしれませんが。限定グッズというのは、『CANDY』の『神女』が限定コスチュームで写っている写真のプリントされたクリアファイルとビニールバッグです。原価はむちゃくちゃ安いです(笑)」
「こちらは、KSM社から今年の春にデビューしたばかりの平均年齢13歳の『ピンクベルベット』のデビューシングルCDを、推定で300枚『爆買い』する日本人のファンの写真です。CDにはオマケとして、ゲームで使用するQRコード付きの『神女カード』が付いているので、それで爆買いしています。同じCDを、300枚、です。この奴隷[ファン]は、翌日のSNSで『CDの束が重すぎて筋肉痛になった』と自慢げに投稿しています(笑)。」・・・and so on・・・
「前回会議でミリ様が仰っていらした『フライドチキン骨までしゃぶる』作戦の実行案をまとめて参りました。そろそろ実行しても宜しいかと・・・
法的な懸案はすべてクリアされていて、ご決裁頂けましたらすぐに動けるように準備整っております!」
◆◆◆
ジョンファとミリの決裁を経て、『CANDY』ゲームは『全方位コラボ』をスタートさせた。この時点では、ゲーム登録者数は日本の既存類似ゲームの追随を許さないほど圧倒しており、飽和状態だったので、運営として、一人あたまの課金金額最大化を第一目標とする段階に入っていた。
①まず、急増する課金破産者や前借り課金者を離さないため、金融機関とタッグした。
KSM社傘下の金融機関―当然、韓国籍の会社―で、日本で営業許可を受けた銀行・消費者金融・カード会社が、ゲーム画面上で簡単にお金の足りなくなったユーザーに融資できる仕組みを作った。韓国政府の息のかかった小波渡政権下の日本金融当局は、気前よくその認可を下ろしてくれた。金利や担保といった融資条件も、ほぼフリーハンドで、つまり韓国の親会社の自由で恣意的な判断で決めることが出来た。
②そして、実際に最終的に破産したユーザーや、破産寸前のユーザー、前述の融資の返却に追われるユーザーのために、最低限の生活基盤の提供を、オール韓国企業で提供することにした。住まいと働き口で、住まいは日本に進出した韓国の不動産大手企業が提供する最低限の低家賃の通称『奴隷小屋』、働き口はKSM社と広域スポンサー契約を結んでいるある自動車会社の孫請けの部品製作工場での低賃金労働である。
つまり麻薬的に『CANDY』にのめり込んで依存症となったユーザーは、韓国の金融会社からゲームを続けるお金を借金して、韓国の大手自動車会社の孫請けの部品会社の工場で、低賃金で長時間働く。
もちろんどちらもブラックだが、韓国政府および日本の小波渡政権によるお墨付きで、世間的にはホワイトとされた。
その証拠に、ユーザーの捕獲実績はウナギ上りに増え続け、水をも漏らさぬこの制度は大成功を収めた。
韓日版『アヘン戦争』の下地・温床は着々と準備されていった。
その行き着く先は、もちろん韓日開戦→全日本人の奴隷化と、女権帝国による小倭列島の領有である。




