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貴種

かつての大英帝国やドイツ第二帝国の貴族像を理想とする大韓女権帝国の貴族には、『貴族は軍の先頭に立つ』というノーブレス・オブリージュが脈々と受け継がれていた。

パク・ソナを筆頭とする若き貴族子女たちの一斉志願という救国の行動は、彼女らを英雄にしたてて好戦的な世論を喚起しようとする軍の思惑と相俟って、国民から熱狂的な支持を得た。

『パク・ソナに続け』は、『リメンバー・独島』と並ぶ軍のスローガンとなり、貴族・平民全体の一体感を醸成し、対日戦争意欲を否が応にもかき立てることとなった。


遡ること30余年、韓国に女性上位制・貴族主義が打ち立てられた時の原動力となったのは、ひとえに『優生女性』、すなわち特殊優生X染色体を持つ女性たちの、生物学的に優れた身体的・頭脳的な能力であった。

後に韓国初のノーベル医学生理学賞を受賞するハ・オボ博士【♀】が確立した、卵巣手術によるX染色体のクリーニング法は、優生学の観点から、先天的に胎児の生理的特性を改善して―遺伝子を『改良』して―韓国女性貴族制度の基盤となった。

すなわち、卵巣手術によってX染色体のクリーニングが施された母体から生まれた女子は、子々孫々まで優れた遺伝子を継承する。これはXX型、すなわち女性だけに優性となる因子で、XY型の男性には現れない。

つまり、卵巣の優生手術を施された女性(第0世代)は、自分は優生女性にはなれないが、その女性から生まれた女性(第Ⅰ世代)は、必ず優生女性となる。その娘以降(第Ⅱ・Ⅲ…世代)も、必ず優生女性となる。第Ⅰ世代以降は、手術も、卵子や胚の遺伝子操作も必要ない。

一方、優生女性から生まれた男性は優生男性とはならず、遺伝子的アドバンテージを得ることはできない。すなわち『優生女性』はあっても『優生男性』は存在しえない。『優生』は女性だけに現れるのだ。これはX染色体に対するY染色体の密度的ミスマッチ―ヒトのY染色体はX染色体に比して極端に密度が低く、小さい―に起因している。


優生女性は遺伝的にまさに万能である。生物工学[バイオテクノロジー]の最高到達点と言っても過言ではない。

彼女らは、生物学的に説明しうるあらゆる利点・長所を、生まれながらに持つのである。

例えば、運動神経や体力、筋力が飛躍的に高い。生物学的な耐用年数、すなわち寿命が長い。知能指数[IQ]が高い。集中力や記憶力、あるいは高身長や均整の取れた体格・肥満にならない体質だって保障される。大病・難病に抗体がある。身体各部の能力(視力・聴力・・・)といった生理的長所、長い脚・小さい顔・艶のある髪・美しい肌といった審美的長所。あらゆる遺伝的財産が約束された。


優生女性とそうでない一般人との格差は各統計にも如実に表れている。

例えば知能指数は、女権帝国一般人の平均を1.0とすると、優生女性の平均は1.45(日本人の平均は0.97)である。

身体能力については、100メートル走の平均的なタイムで見ると、優生女性の高校2年生は、すでに韓国人の一般男性のピークを凌駕している。(ちなみに日本人の一般男性の平均は、韓国優生女性の中学3年生の平均にさえ及ばない。)


身体能力の基盤である身長は、女権帝国一般人の成人男性平均172.1cm、成人女性162.9cmに対して、成人した女権帝国優生女性の平均は178.5cmである。(日本人の成人男性平均は169.6cm、女性は158.5cm。もっとも、身長については遺伝的要因もさることながら食生活の要因も大きく、特に現在の日本人は敗戦による物資困窮・食料難で栄養失調が甚だしいため、身長を含めた身体にかかわる数値は、全般的に著しく押し下がっている。)


ここで身体能力を総合的に数値化すると、各グループの平均値はおおむね次のようになる。(『成人時』はピーク時を指す。)

 ・ 優生女性(成人時)・・・・・・100

 ・ 優生女性(高校生平均)・・・・90

 ・ 優生女性(中学生平均)・・・・78


 ・ 韓国人一般男性(成人時)・・89

 ・ 韓国人一般女性(成人時)・・71


 ・ 日本人一般男性(成人時)・・73

 ・ 日本人一般女性(成人時)・・66

つまり、優生女性の高校生は、すでに韓国人の一般男性のピークを上回り、中学生の段階で日本人一般男性のピークを完全に圧倒するほどの身体能力を有しているのである。


女権帝国の優生女性と日本人一般男性との隔絶した身体能力の開きを示す挿話がある。大戦勃発の前年に、女権帝国の貴族学校の中等部【13~15歳・♀】のアイス・ホッケー部が、日本大公国の男子代表チームと親善試合を行い、日本代表チームは0-8で惨敗している。この試合で3得点[ハットトリック]を決めた貴族学校中等部アイス・ホッケー部のエースFWチョン・ソンヒ【15歳・♀】は試合後、取材に来ていた韓国人の記者にこう述べた。


――予想以上の大差がついたが。

『相手にならない、っていうか、私たちのシュート練習みたいになっちゃいましたね…。選手がみんな背が低くて当たりが弱いやつばかりだったので、正直、超、楽でした。第一ピリオドの20分で私の3点を含めて5点も入っちゃって、もう楽勝って感じだったから、第二・第三ピリオドは控えの1年生を中心にメンバー・チェンジしたんです。でも思った以上に点差が開いちゃいましたね(苦笑)。ハンデをあげたつもりだったんだけどな…』

――試合終了後に相手の選手と何か話していたが?

『あの、笑っちゃうんですけど、試合でボロボロにされて手も足も出なくて、よっぽど悔しかったんでしょうね、試合後リンクで泣いちゃってる選手がいたんです。それで、あまりに惨めだったから、声を掛けてあげたんです。「結果は残念だけど、これに懲りずに、アイス・ホッケーは続けてね」って。それでポン・ポンって肩を叩いてあげました。彼はリンクに立ちすくんで、上を向いて泣いていたんですけど、私にそう言われて、睨むどころか、私の顔も見れなかったみたいです。目を泳がせながら、何かぶつぶつ言ってました。ま、悔しさを感じるくらいには、最低限のプライドはあったみたいですね(笑)』

――確かに観ている我々も思わず苦笑してしまうような内容だった。

『ですよね。ちょっとイジメ入っちゃってたかも(笑)』

――試合の意義はあったか?

『うーん、今日のは親善試合だったんですが、どうなんでしょうね。あ、「日本の男は女権帝国の貴族女性には絶対勝てない、敵いっこない」って分かってくれたら、いいんですけどね』

――最後に韓国国民にひとこと。

『えーっと、一方的な試合になってしまいましたが、ある意味で(笑)、面白いゲームをお見せできたと思います。応援ありがとうございました』

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