勇者
恵まれた、神に愛されたとしか言いようのない天性の器量と、類い稀な溌剌とした外向的性格を武器に、15歳で韓国芸能界(世界最高峰のステージと言い換えてもよい)で勇躍デビューして以来、ジョンファはカリスマ的アイドルとして生きるのに相応しい、確固とした世界観を構築するに至った。
『ファンに愛されるということは、ファンを征服するということだ』 という、世界観・職業観である。
ジョンファにとって、アイドル人生は、冒険的征服戦争であった。
その原動力は、絶対的な自信を持つ自らの器量と、未知の、広大な空白地を自分の色に染めていこうとする開拓者精神[フロンティア・スピリット]だった。
◆◆◆
物心が付いたときから「自分は特別である」、という《主人公感》の強い女の子だった。
アイドル(←『偶像』が原義である)という職業は、ある意味で、自分のことが大好きでないとやっていけない仕事である。
そのような意味合いにおいて、ジョンファは生まれながらのアイドルであった。
学校では何でも一番でないと気が済まなかった。勉強もスポーツも他人とのコミュニケーションも歌もダンスもピアノも、何でも上手だったし、好きだった。大人はみんな褒めてくれた。
人知れず努力もしたし、挫折も味わった。
しかし彼女の信念がブレることは無かった。小学二年生のときから、毎日、歌とダンスの練習に励み、ランニングや基礎トレーニングも欠かさなかった。楽器の練習もして、音楽のセンスも必死で磨いた。
このころからすでに、将来は人前に―非常に多くの人前に―出る仕事に就くことを夢見て、それに近付こうとしていた。
もちろん勉学と体育という学童の本分も、おろそかにすることはなかった。大人たち(教師や親)が、必死に薦めるそれらの『本分』が、それだけ必死に―馬鹿みたいに―大人たちがやれやれ言うからには、将来きっと役に立つだろうと考える素直さも持っていた。
最低でも一日二時間は必ず机に向かって勉強した。すべての学科で学年5位以内をキープすることが彼女の目標で、それは小学校入学から高校一年生でデビューするまで、一度の例外も無く守られた。
何にせよ、新しい事物を吸収すること、他人と長いスパンで競争すること、そのために一人で静かに自分と向き合うことは、彼女の性に合っていた。
夜、一人で机に向かい、数学や英語の問題を一問解くたびに、鏡を見て笑顔の練習をした。左右均等に頬に力を加え口角を引っ張り上げて、しっかりと歯を見せてにっこり微笑む。自分の理想とする笑顔を強く意識しながら―彼女は、すでにデビューしている『先輩』の女性アイドルの表情の作り方をよく研究していた。
満足のいく笑顔を鏡の中に作ることが出来たら、彼女はまた鏡を置き、問題集の次の設問に取りかかった。
これも小学生時代以来の、毎日の日課の一つだった―彼女には非常にたくさんの有益な日課があった。
彼女は、小さいときからやるべきことが分かっていたし、幸運にも、『やるべきこと』と『好きなこと』とが、ぴったり重なっていた。
◆◆◆
『ファンに愛されるということは、ファンを征服する、ということだ』、あるいは、『最良のアイドルは、沢山のファンの心をより深く侵略することができるアイドルだ』という彼女の世界観・職業観には、重要な続きがあった。
『主敵は、日本人男性である』という、強い、確固とした戦略意識だった。敵愾心だった。
ジョンファは、韓国のファンと、日本のファンとを明確に区別していた。
本国[韓国]のファンは、ジョンファにとっては、もちろん大事な宝物であり、価値観を共有できる仲間であった。彼女/彼らを励ますこともあれば、逆に励まされることだってある。共に歩むべき存在であった。無論、前述の『征服』なり『侵略』なりの対象とはなりえなかった。
一方で、日本人の男性ファンこそが、ジョンファが自ら持って生まれた器量でもって、『征服』あるいは『侵略』すべき対象[ターゲット]であった。
ここでジョンファ【17歳♀】の頭の中のイメージを、もう少し分かりやすく解読してみよう、、、
◇ジョンファ[自分自身]⇒⇒⇒この世界『ファンタジー的冒険世界』における『勇者』であり『王様』。押しも押されぬ絶対的主人公であるのはもちろんのこと、勇者に冒険を命じる王様の役割も兼ねている。自分の持って生まれた外見的器量や歌唱力やダンスといった『武器』・『装備』を持って、この世界を『冒険』し『探索』し、場合によっては『征服』するために、人生という旅を、あくまで自由に、自主的に楽しむ存在。
◇グループの他メンバーや事務所のマネージャー・裏方さん⇒⇒⇒『戦士』や『魔法使い』といった、ともに冒険して世界を切り開く仲間[パーティー]の一員。盟友であり戦友。心から頼りになる、信頼できる存在。
◇本国である韓国人のファンたち(女性ファン・男性ファンともに)⇒⇒⇒勇者一行を日に影にサポートし、温かく見守ってくれる『村人』・『町人』。まれに勇者一行の邪魔をする変な輩もいるにはいるが(ごく少数である)、大多数は有用な、少なくとも無害な人々。「ここは×××××の城下町だよ」、「北に行くと△△△の村があるよ」などと教えて、冒険を助けてくれたりする。タンスの中にこっそり毒消し草を入れておいてくれたりもする。
勇者の力が強くなるにつれて、『保護される存在』にもなる。「勇者様、私たちを守ってください」とか言ってくる。そのときはちゃんと恩返ししてあげないといけない。王様としての立場からは、『パンとサーカス』を与えてあげなくてはならない。
◇日本人の、主に男性ファン⇒⇒⇒ジョンファ=勇者にとって、『モンスター』。異世界に棲息する、意味の分からない言語を使い、異様な行動パターンに従って日々の生活を送る、無数の、魑魅魍魎とした、邪悪な心を持った、何をしでかすか分からない、『モンスター』であり『化け物』・『妖怪』・『ケダモノ』・『魔物』。シンプルに、『敵』である。
仲間と、人々の平和のために、『やっつける(駆逐)』あるいは『捕まえて飼い馴らす(馴致)』かすべき存在。
やっつけると、経験値とゴールドが稼げる。それで自分のレベルアップの踏み台にしたり、武器や道具を買って村の人に還元したりすることができる。
捕まえて飼い馴らすことが出来れば、奴らを家来のように使役することで、もっと長期的・継続的に役に立たせることができる。
◆◆◆
『ほら、私が誰だか言ってごらん。韓国語は出来るんでしょ?』
ジョンファは立ち上がって、足許に組み伏せられてこちらにうなじと後頭部を晒している哀れなモンスター=羽柴秀志朗に上から言葉を浴びせた。そして右脚の膝頭を羽柴の顔面に押し付けた。グレーの作業ズボンの粗い繊維が、羽柴の鼻頭を擦った。
『ジョ、、、ジョジョジョ、、、ジョ、ン、ファ、様ぁぁぁぁーーーっっ???!!!』羽柴は下を向いたまま―向かされたまま―異様な絶叫をあげた。
『正解! ご名答!! 大きい声でお返事できて大変よろしい(笑)。
そう、キミにとって憧れの存在、想い焦がれてやまない存在である「ジョンファ様」が、東京くんだりまで足を運んで来てあげたんだよ。ありがたく思いなさい』
ジョンファが朗らかに笑いながら言った。足許の男に向かって俯き気味で話していると、長い前髪が額に掛かった。それを鬱陶しそうにかき上げながら、続けて言った。
『ねぇ、この部屋暑いわよ。この服、脱いでもいいかしら』
言って羽柴を後ろから抑えつけていたミリに目で合図した。
今では2台に増えたカメラ―1台は女子アナに附いて最初からいたカメラ、もう1台は後からジョンファたちと一緒に来たカメラ―が、その様子をしっかりと捉えている。ジョンファは、最初の台本から進行がだいぶ違ってしまっていることに気付いていたが、気にしなかった。多分こちらのほうが面白くなるはずだ。生配信で見ている韓国のファンの皆も、きっと喜んでくれるだろう。
ジョンファの合図で、ミリはようやく羽柴を後ろ手に抑えていた両手を離し、ジョンファの横に並んで立った。そしてグレーの帽子を取った。ミリが頭を軽く振ると、豊かな金髪が『ふわっ』と露わになった。
『ミ、、、ミリ様もッッッ??!!』
床にしゃがみこんだまま、羽柴は顔を上げて再び絶叫した。そして改めて目の前に立つジョンファを見上げた。
『、、、あ、あああ、、、あがが、がが、、、、』大蛇を目の前にしたカエルのように、羽柴は何も言えなくなってしまった。ただ両目を最大限に見開いて、口をあんぐり開けているだけだった。
俺は今日、死ぬかもしれない・・・それくらいあり得ない事が起こっている・・・・・。
神様が・・・俺の家に・・・しかも二人揃って・・・・・・??!!
◆◆◆
『ねぇ、聞いてる? 「あが、あが」はもういいからさ(笑)』ジョンファは可笑しくなって笑いながら言った。ミリも隣でニヤニヤ笑っている。それでもやはり羽柴は何も言えなかった。
『ねぇ、ねぇってば!』ジョンファは続けて、スニーカーの爪先で床にへたり込んでいる羽柴の太ももの内側を押した。『あがっ、、あがががが、、、、』羽柴は先ほどから変わらず声にならない声を漏らし続けるだけだった。呆けたようなその様子を見て、ミリは『アハハハハッ』と両手を口に当てて笑った。
『…聞こえてないみたいね(笑)』
『…もぅ、いいや。脱いじゃおう、ミリ』
二人がほぼ同時に着ていたグレーの配達業者風作業着を脱ぎ始めた。
作業着は脱ぎやすいような加工がしてあり―ちょうどコンサートでのステージ上の衣装早替えのように―肩と腰のマジックテープを外すと、作業着が『はらり』と解けて足許に落ちた。
『じゃじゃーん!』
早替えを終えて、ジョンファが茶目っ気を込めて言った。
輝く金色のコルセットと、同じく金色のラメが割れた鏡のように胸元全体に散りばめられたスパンコールのキャミソール。サテンシフォンのビスチェ風の黒い七部袖はひじの辺りで「くしゅくしゅ」っと無造作に折りたたまれて手首が露わになっていた。薄手の生地が80パーセントの透けぐあいで気品を漂わせながら肩と上腕を覆っている。
コルセットの下は何段にも豊かに重なるフリルレースがあしらわれた淡い蒲公英色のショートパンツで、長い―長すぎるくらい長い―脚は、ヒップの付け根から爪先までがすべて一様の網タイツに彩られていた。網タイツは単純な黒ではなく微妙に茶色の混じった黒糸で、膝やふくらはぎといった起伏に富んだ長い脚の表面に、誠実に忠実に「ぴったり」と寄り添っていた。その幾何学的な菱型の目はところどころ広がって背伸びをし、またところどころ狭まって堅く守りを固めていた。『この網タイツに生まれ変わることが出来たら俺は何を犠牲にしてもいい』と思わせるような、完璧な―金甌無欠な―網タイツだった。
『これでよしっ、っと』
ジョンファとミリは黒い光沢のある手袋を両手に嵌めた。甲の側がV字に深く切り込まれた、真っ黒で、艶のある手袋だった。
それは羽柴にナチスドイツ的な洗練された冷厳さを連想させた。息も詰まるような、身の毛もよだつような、厳然とした命令系統と機能美との融合。しかしそんなことを連想するのは羽柴だけであろう。それは間違った連想だった。それはあくまで二人の女性の手に嵌められた、四つの黒い革手袋に過ぎなかったのだから。
そうして二人は新曲「ドミナガールズ」のステージ衣装になった。金と黒とを基調とした、ゴージャスでかつ洗練された、ある意味で『究極的な』コンセプト衣装であった。
二人とも、この衣装が、日本のファンの間で、『神服』とか『神衣装』とか呼ばれていることを知悉していた。
無論二人ともに大のお気に入りの衣装で、この格好になるだけで自然とテンションが上がった。
「ジョンファとミリは「ドミナガールズ」の衣装を装備した。→それぞれ守備力が+255上がった。魔法防御力が+255上がった。攻撃力が+90上がった。魔力が+150上がった。かっこよさが+255上がった」
「ハシバは全身の力が消えて行動不能におちいった。→ハシバの攻撃力と魔力と守備力と魔法防御力が0になった」
『×××××の城下町』はア●ア●ンで、『△△△は村』はレ●ベだったりします。
本文とは全く関係ありませんが、、、、
僕は勇者は必ず女性にして、『ドリス』って名前にしてました。仲間は基本的に女性で、性格はできるだけ『セクシーギャル』にしてました(←なぜかステータスの伸びが一番いい)。武道家とかの肉体労働者は男にすることはあっても、後で賢者にするキャラ・賢い一軍キャラは必ず女にして、種とかいい装備は優先的に彼女らに与えてました。(このゲームは強力な女性専用装備がたくさんあってそれも僕的に◎でした)
せめてゲームの世界くらいはしっかり女尊男卑・女性上位で行きたかったんです。
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