夢2
【残酷な描写があります。苦手な方は飛ばして下さい】
目が覚めたとき私は新幹線の車中にいました。車両の中央通路の床に四つん這いになっていました。
それで私は、「これはまだ夢の続きだな」と分かりました。ただ先ほどのベッドの上から、場面が切り替わっただけで、それはまだ夢の続きでした。
私は新幹線の通路の床に這い蹲って、大事なものを探していました。
目の前に、ほんの数センチメートル先に、その『大事なもの』はありました。床に転がっていました。
それは人の手の親指と人差指とで作った輪より一回りほど小さな球体で、全体が赤色をしていました。
私は、「この場面は私が始めてユリと出会った新幹線の車中だ」と悟りました。細部に違いはあるものの、高速列車と床に転がる小さな赤い果実。まぎれもなくユリと最初に会ったときのシチュエーションです。それで私は、またユリに会える・どうやら悪夢ではなさそうだ、と思いました。
そして私は『大事なもの』を探しています。
その大事なもの―目の前に転がる小さな赤い球体―は、日本の国旗の中央に描かれた『日の丸』が、立体的に浮かび上がったモノのように見えました。それは、戦前まで軍人であった私にとっては、何よりも大切な―絶対的な忠誠の対象としての―国家のシンボル[象徴]でありました。
あるいは、人間の眼球が眼窩からこぼれ落ち、何かの作用で真っ赤に変色したモノのようにもみえました(いくぶんグロテスクではありますが…)。
または、単に熟した小野菜の実そのもののようにも見えました。
「早く拾い上げないと」と思って、その赤い球体に手を伸ばそうとしたとき―やはりというか当然にというか―その球体は上から降りてきた女性の足に踏み潰されました。『ブチュッ』と、無慈悲に踏み潰されました。
私は期待に駆られて、その足の主の顔を見上げました。
もう一度会えると思いました。
その女性はやはりレザーソールの黒いパンプス、紺の細身のデニムパンツを履いていて、タータンチェックのネルシャツを着ていました。彼女の服装は、私の胸の奥にある大切な思い出、何度も思い出しては心を暖める熱源となった尊いあの思い出そのままでした。
すべての衣類はぴったりと、彼女の四肢を包んで充足していました。衣服たちさえも幸福そうに見えました。両手に大ぶりな紙袋を提げているのも、思い出のままでした。
しかし、予想に反して、その顔はパク・ソナ様のお顔でした。
ソナ様はしゃんと背筋を伸ばし、心持ち顎を突き出して、まるで冷たい微笑を投げかけるように、足許に這い蹲る私を見下ろしておいででした。
私は、一気に恐慌に駆られました。全身の毛が逆立ち、前後から同時に失禁しました。
『ソナ様っっ!』私は大声で叫んで―このときは自然と叫び声を発することが出来ました―、彼女の御足許に叩頭しようと顔を下げました。
顔を下げようとするとき、彼女が両手に提げている大ぶりな紙袋が目に入りました。
先ほどは気付きませんでしたが―あるいは分かりませんでしたが―その紙袋は二つとも半透明になっていて、中身が透けて見えました。その中には人間の頭部が―切断された生首が―入っていました。
生首は右と左に5~6個ずつほど、それぞれ入っていました。
切断された首からはまだ赤黒い血糊が噴き出し、滲み出ていました。切断されて間もないのです。半透明の紙袋の底に、黒い血が溜まっているのが見えます。
夢なのに―あるいは夢だからこそ―その生首たちはリアルで生々しく私の目に映りました。
何個かは目蓋を閉じていて、また何個かは目蓋を開いていましたが、そこには眼球が無く、空っぽの眼窩には、かわりにどす黒く血糊が溜まっているのが見えました。
そして、その生首の中の一つが、ユリのものでした。ユリの生首も、目玉がくり抜かれていました。




