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黎明

日本大公国が無条件降伏を受け入れて大韓女権帝国の軍門に降り、戦争が終わったのが女権暦20年8月、帝国が正式に日本を併合したのが女権暦21年1月である。


その20年前の女権暦元年、つまり韓国で世界初の女権革命が成就し、当時30歳のイ・ヨンアが帝国の初代皇帝に即位した年、韓日の国力の差はまだそれほど隔絶したものではなかった。円がウォンに対して乱高下を繰り返していた時期のため正確に比較することは難しいが、韓日のGDP比は、おおむね100対80。これが女権暦元年の国力比較として、実感に近い数値であった。


確かに日本は落日だった。バブル以後の長きにわたる構造不況は人心を萎縮させ、かつて『世界第二の経済大国』・『アジアの盟主』と賞賛された強国日本は見る影も無かった。国を支えた経済は不調で政治は混乱を極め、『失われた25年[四半世紀]』を経たかの国は、完全に『老国』・『アジアの田舎』として世界の潮流から取り残されつつあった。


一方、共和制時代の当時の韓国は、文化・経済の両輪がまさに黎明期として輝きを開花させていた。北朝鮮を無血併合し、経済的にも急成長を遂げて名実共に東アジア共同体のリーダーとなっていた。経済は日本・続いて中国を抜き、世界第2位の水準にあった。

文化面での発展も著しく、『K-POP』と呼ばれた韓国発のメディア・コンテンツは全面的な国家の庇護の下、世界各国を席巻し、国の強力な外貨獲得手段となり、同時に韓国のイメージ躍進に大きく貢献した。映画・ドラマ・ポップミュージック・ファッションデザイン等、膨大な市場を持つソフト・コンテンツ産業である。


これはその後に続く『メイド・イン・コリア』の電子産業や自動車・家電産業の爆発的海外進出の地ならしとなった。日本を始め、中国や東南アジアの国々は、まるで競うように韓国製品を欲しがり、自ら進んで自国の市場を韓国企業に明け渡していった。

『K-POP』は韓国発展の尖兵として、その大任を十二分に果たしたと言える。


◆◆◆

この奇跡的な韓国の跳躍を象徴する『K-POP』を影で支えたのが、当時まだ世界に公表されていなかった『優生女性』の力であった。黎明期『第Ⅰ世代』の優生女性たちが、国策としてこのコンテンツ産業に動員されたのだった。

例えば女権暦前6年(女権革命の6年前)に、日本の年間ヒットチャートのトップ10を独占し、その年の日本のあらゆる音楽賞を総なめにして紅白で外国人初の大トリを勤めたアイドルグループ『K.C.J.』の構成員は、全員、第Ⅰ世代の優生女性である。

また、この年に10本の日本映画に出演し、日本企業25社とCM契約を結んで『CM女王』と呼ばれた女優ハ・ボミは、優生遺伝理論を完成させて後にノーベル医学生理学賞を取るハ・オボ博士の娘であり、同じく優生女性であった。


そして、女権暦前5年、この年の冬季オリンピックで五輪3連覇を果たし、その後ファッションデザイナー兼モデル兼実業家として世界的に名声を博した元フィギュアスケーターのイ・ヨンア―後の大韓女権帝国初代皇帝―も、この時期に韓国の世界史的雄飛を牽引した優生女性の一人であった。


◆◆◆

3度のオリンピックで、日本人を含む競合者を完膚なきまでに叩きのめし、『絶対王者』・『無敗の女王』の異名をほしいままにしたイ・ヨンアも、かつては『韓国国民の妹』と呼ばれた、可憐なフィギュア少女であった。


モデルのように長い手脚と完璧に整った美貌に恵まれ、並外れた運動神経と集中力は、まさに遺伝的な完成像である優生女性の特徴を先鋭的に現していた。


優生女性のメカニズムがまだ公表されていなかった時期である。彼女の輝かしい活躍は、掛け値なしに韓国国民の共感を呼び、精神的な拠り所となり、その存在は大韓共和国の絶対的な誇りとなった。


彼女の国内での人気を不動のものにしたのは、彼女が倒し、苦杯を舐めさせてきた競合者たちが、ほかならぬ日本の代表選手たちであったというその運命的な巡り合わせであった。

イ・ヨンアのキャリアにおいて、節目節目の大会でその対抗馬となったのは、常に日本人であり、彼女はそのたび毎にこの強敵[ライバル]たちを蹴散らしてきた。

当時の韓国人にとって、日本人に勝つこと、先んじることほど、己の複雑な鬱憤を晴らしてくれることは無かった。


成功に満ちた彼女の人生における第一のピークは、3度目のオリンピックにおいて、自己最高=世界最高得点で2位の日本人選手を35点近く引き離しての金メダルに輝いた瞬間だろう。国民は狂喜乱舞し、彼女の3連覇が決まった瞬間、『祝イ・ヨンア3連覇世界女王』等と大書された赤シャツを着た市民10万人がソウルの街にあふれ、『妹』の勝利を祝福した。この日は今でも国民の祝日となっている。彼女は帰国後民国最高栄誉賞を至上最年少で授与し、名誉国会議員職等、無数の国家的栄誉を得た。


第二のピークは、彼女が若き実業家となり、当時日本の国民的なファストファッションブランドだった『ユニック』を買収し、華々しく日本進出の第一歩を飾った時であった。

競技引退後、彼女はその世界的に隔絶した知名度と豊富な資金、『万能の天才』と謳われたビジネス感覚とファッション観、そして現役時代からさらに磨きの掛かった自らの美貌とを武器に、勇躍ファッション業界に進出した。さらに国民的な期待感と、コンテンツ産業を基幹産業に育てようとする国家戦略が、彼女の背中を押した。


彼女はデザイナー兼モデル(広告塔)として、ソウルで立ち上げた新しい服飾ブランドの総帥となった。西洋の気品とアジア的な躍動感とを兼ね備えたその独自のデザインは、彼女の卓越したファッションセンスを心臓として、爆発的な成功を収め、ブランド立ち上げ後わずか2年で、日本のファッションビジネスの象徴とも言える『ユニック』の買収を実現した。それはスポーツのような一握りの天才の存在が帰趨を決する勝負の世界のみならず、多くの一般人の、血の通った人々の築き上げるリアル・ビジネスの世界においても、韓国の象徴が日本の象徴に勝利した瞬間であった。

これに鼓舞された韓国産業は、時のウォン高円安の機運に乗じて、落ち目の日本ブランドを次々と買収・合併していった。国債の暴落で当時すでに国家財政を破綻させていた日本と、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの韓国の企業群との相克は、火を見るより明らかだった。その後、女権革命を挟んでの約10余年の間に、●ュンダイ自動車が●ヨタ自動車を、●ムスンが●ニーを、●G電子が●立製作所を、●宇造船が●菱重工業を、●リアン・エアが●ALを、●韓広告が●通を、それぞれ吸収し、傘下に組み込んで、韓国は着々と日本の経済界を我が物としていった。


◆◆◆

その後ほどなくして国政の世界に進出したイ・ヨンアは、女権暦前3年に首相兼コンテンツ戦略本部本部長、翌・前2年には早くも大統領に就任した。

大韓共和国に世界初の女権革命が成就し、国民の圧倒的な支持を背景に『大韓女権帝国皇帝』の座に就いた後、イ・ヨンアが真っ先に取り組んだのは韓日関係の融和だった。すでに2年前に公表されていた先天的優生女性の存在は、反感を呼ぶどころかイ・ヨンアの至高とも言える権威と相俟って、広く国民全体の支持を得ていた。「我々は皇帝陛下の赤子、忠実なる臣下である。皇帝陛下万歳! 帝政・貴族制万歳!」国民は口々に叫び、『女権革命』―帝政・貴族制・女性上位制の三本柱の確立―を、1789年のフランス大革命に匹敵する世界史的な成果として誇り合った。イ・ヨンアの政治基盤は磐石だった。


一方、イ・ヨンアの皇帝即位以前から長期にわたって韓国の経済的攻勢にさらされたことで、日本人の対韓感情は史上最悪期にあった。殆どの日本人は右傾化し、散発的に韓国製品不買運動などの動きも起きていた。


この沈静化のために皇帝[イ・ヨンア]が用いたのが、かつて大英帝国が落日の清王朝を飲み込んだ歴史に倣った、アヘン・アロー戦争前夜のアヘン貿易を模したやり口だった。


「あくまで商業的・民主導を装い、裏から日本を確実に弱体化させよ。日本人が気が付かぬ様に、毒を回して蝕むのだ。大樹を根から腐らせる。そして、熟し切った柿が自然と落ちてくるように、あの列島を我が帝国の手中に収める」


円安で購買力の落ちている日本人に、まるでアヘンのように売れるもの。先鋭化する反韓感情を和らげながら、日本の国力を根本から萎えさせる魔法は無いか…。

女権帝国の施政者たちは、当初本当に麻薬を密輸出することを考えていたが、ある政府高官【女性】の、「女権暦前のK-POPによる攻勢を、もう一回やってみるのは?」という冗談とも言えない一言で、数年前に日本を席巻したK-POP産業が、『韓日版アヘン戦争』の嚆矢として試みられることとなった。


結果は絵に書いたような成功だった。

その後わずか20年で、世界地図上に『日本大公国』の文字が消えた。そこには地域名を表す小さなフォントで『小倭』と記されている―それは国名を表す太く・大きなフォントと区別して、弱々しく、細いフォントで表されている。

地図で見ると、韓半島と同じ色に塗りつぶされたその列島は、まるで主人の周囲を守るように寄り添う奴隷たちの群れのように見える。

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