泥
「いよいよ水を使います」講師役のソナが言って、アシスタント役のメイドに合図して水入りのペットボトルを受け取った。
そして土の地面を、ガーデニング用ブーツのかかとで少し削ってごく浅いくぼみを作った。
それから二匹の倭奴―丸山と77番―を、そのくぼみの上に顔面が来るように、頭を近づけた『ハ』の字型に並ばせて土下座させた。もちろん両腕は後ろ手に縛ったままである。
丸山は、ソナが初めに言った言葉を思い出していた。『土下座のコツはね、私たちが立っているこの地面よりも、もっと頭が低くなるよう、頭から地面に潜り込むってくらい額を地面に擦り付けることなのよ。それから、脇は締めて臍に力を入れること。全力でね。そしたらきっと、いい土下座になるからさ』
それは彼にとっては神の言葉だった。絶対に守らなければいけない言葉だった。
◆◆◆
ソナはメイドから受け取ったペットボトルの水を、二匹の倭奴の顔面の前にある地面の浅いくぼみにこぼし、小さな水溜りを作った。
『ハ』の字型に並んだ二匹は、上から見ると、家畜の水飲み風景にそっくりで、三人は面白がって笑った。
ほぼ同時に、丸山の後頭部と、77番の後頭部が、グイッと下方向に踏み込まれた。
丸山をソナが、77番をソヨンが踏んだ。
二人は目の前の泥の海に顔面から突っ込んだ。
笑い声が聞こえる。女神たちの笑い声だ。
このとき丸山は不思議にも、ソナに感謝していた。
神であるソナ様が、自分たち倭奴のことを考えて、慮って、準備してくれたのである。地面に小さなくぼみを作り、そこに水を入れてくれたのは、土を柔らかくして、倭奴がより頭を低く出来るように、正しい土下座が出来るようにという大御心なのである。愚かにも韓国人様のお屋敷の中で喧嘩をし、土下座も満足に出来ない我々に対して、身に余るほどの優しさではないか。
一方のソナは、ほとんどそんな『教育』とか『善導』といったような意識は無かった。あったとしてもほんのオマケ程度のもので、今日の工事現場で土の地面で土下座する倭奴を踏んだときの爽快な体験をヒントに思いついた『遊び』だった。
◆◆◆
充分に体重をかけた足で女神たちに踏まれているので、首の力だけでは到底顔を水溜りから浮かせることが出来ない。
鼻と口に泥水が入り、苦しさのあまり顔を動かすと、地面が擦れて、余計に水溜りが深くなって苦しくなった。
ソナたち三人は、代わる代わる踏む倭奴を交替し、余った一人は倭奴の背中に座ったり、水溜りの近くに身を屈めて―まるで皿のミルクを飲む子猫を近くで観察するように―倭奴の表情や仕草を見て楽しんだ。
水は随時補給され、また、倭奴が頭を動かしたり、女性たちが強く頭を踏み込んだため、水溜りは少しずつ深くなり、彼らの額の高さはそれに合わせて少しずつ低くなっていった。
「そうよ、その調子! 地面に潜るくらい頭を低くするのよ」とソヨン。
「キャハハッ! ほらほらもっと地面を掘らなきゃ!」ソナ。
「そっち、私にも踏ませて下さい。どんどん潜ってミミズみたいですね。楽しいです」メイドも、負けじと楽しんでいた。
◆◆◆
やがてペットボトルが空になり、地面の水が染み込んで消えてなくなったころ、ソヨンとソナは遊びに飽きて倭奴の頭から足を降ろした。
ソナは自分の履いていたブーツを見た。泥で遊んでいたわりに、そのブーツは倭奴を踏んでいたお陰でほとんど汚れてはいなかった。よく見ると少しだけ泥が跳ねているだけだ。
「さて、他の倭奴にブーツを磨かせて、そろそろ終わりにしよっか」
「そうね、ちょっと眠たくなってきたわね」
当然、二人の倭奴が顔全体を泥だらけにしていることなど一顧だにされなかった。




