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樫で作られた棍棒のように硬く、ゴツゴツした質感のあるハイヒールブーツの靴底。それを頭頂部に押し当てられ、倭奴にはもはや首を微動だにする体力も残っていなかった。


「、、、1[イル]、、、2[イー]、、、3[サム]、、、」

レフェリー役のメイド【19歳♀】が、嬉々とした笑みをはばかることなく顔に浮かべながら、韓国語でカウントを始めている。カウントが10まで進むとゲームが終わる。『負けた方は『豚』ランクに降格』 という罰を、彼[77番]はもちろん忘れてはいなかった。2階級降格は倭奴にとって重すぎる罰である。一度『豚』ランクに落とされてしまったら、今度いつ『犬』ランクに上がることが出来るのだろうか。『豚』ランクの倭奴は、韓国人女性の眼中に入ることが許されず、そのお靴になんて指一本触れることさえ出来ないのだ。早くても1年、下手をしたらそのまま一生忘れ去られて『豚』ランクに留まることだって充分にありうる。


「、、、4[サー]、、、5[オー]、、、6[ユク]、、、」

それほどまで彼らにとって重大な人事を、彼らのご主人様とその妹君は、こんな束の間のゲームで、単なる『暇つぶし』の『余興』で決めようとしている・・・この残酷な仕打ちの意味は、彼にとってまさに人智を超えた天の配剤だった。その意図を推し量ろうとすることは、彼にとって無駄であるばかりか、『不敬』なことですらあった。はじめに言葉ありき。天命はただそこにある。


「、、7[チル]、、、」

しかし少なくとも一つ、彼にとって確かなことがあるとすれば、彼はソヨンの靴のお清めを今度からは心底真剣に行おうと、決意を新たにしたことだった。その決意は、彼が生まれ変わった証拠でもあった。それはもはや、彼にとっては命を懸けても守るべき『誓い』だった。


「、、8[パル]、、、、」

―俺は『豚』になる訳にはいかない・負けるわけにはいかない―彼は目に力を込めて、正面の鏡の中にあるソヨンの履いている靴を見た。その靴は、まるでそれ自体が光を発しているかのように、艶やかな光沢を纏っていた。


◆◆◆

ひときわ大きな歓声が、余興を楽しむ使用人たちの間で湧き上った。

77番はかろうじて首を動かすことで顎先を地面から離した―。カウントは9.5でフォールが解け、追い詰めたネズミをすんでのところで取り逃がしたソヨンは、彼の頭を右足で踏んだまま苦笑交じりに舌打ちした。


「アハハッ! 勝ちが見えて油断した? 惜しかったわね、お姉ちゃん」

隣でソナが声を上げた。見るとソナもフォールの体勢である。彼女の右足はしっかりと、ぐったりした51番倭奴の首筋を押さえつけていた。「レフェリーさん、ホラ、こっちこっち!」


レフェリーが間髪入れずに、新しいカウントを始めた。そしてソナの足の下ですでに全ての力を出し尽くしていた51番は、そのまま彼女の足の下で、10カウントまで動くことが出来なかった。ゲームはソナの逆転勝利に終わった。


見ていたギャラリーたちが、ご主人様姉妹の健闘を讃え―プラス、楽しい娯楽[見世物]を提供して頂いた感謝を込めて―拍手を送った。対照的に、床に座らされたまま一部始終を『見せしめ』として見学させられていた倭奴たちは、目を背けることも許されず、神妙な顔つきで身じろぎせずに固まっていた。


「うっそ・・・信じられない! 何なのこいつ」ソヨンは悔しさ紛れに爪先の裏で77番の後頭部を小突いた。「急に動いて。完全にイケたと思ったのにー」

「油断大敵! まさに『足許をすくわれた』わね、お姉ちゃん」


いつの間にかソナは51番の背中から降りて、姉のすぐ傍まで来て、屈みこんで77番の顔を覗き込んでいた。

まるで散歩中の子犬を見つけてその近くに屈みこみ、初めて会った飼い主に、『可愛いわんちゃんですね・撫でていいですか?』と言って手を差し伸べる犬好きの女の子のように、ホクホクしながら、ソナは77番の痣だらけの顔に手を触れた。倭奴はうつ伏せの体勢なのでプレイヤーは直接倭奴の顔を蹴ることは出来ないが、その代わり、首輪に繋がれたリード[引き鎖]を持ち上げて勢いをつけて顔を床に叩きつけることで、ソヨンは彼の顔面にも無数のダメージを負わせていた。77番の顔には、裏も表もたくさんの傷と痣が刻まれていた。


その頬の痣は上気して赤くなり、熱を帯びていた。ソナの手に触れられて、77番は『痛っッ』という顔をした。

「ごめん。大丈夫? 痛かった?」ソナは僅かに笑いながら言った。さっきまで自分が踏んでいた倭奴[51番]は、見捨てられた建築資材のように、もはや誰の目にも留まることなく、背後に置き去りにされていた。体中を蝕む深刻な痛みを抱えながら。


「おめでとう、77番クン。君を選んでよかったわ。約束どおりご褒美あげるね」ソナが言った。

ソヨンは負けを認めて、ようやく、右足を倭奴の背中から浮かせると、横向きになったまま動かない彼の顔の真ん前にその右足を着地させた。

77番から見ると、まるで戦艦のように巨大なソヨンの右足が、目の前に入ってきた。彼がどれほどの力を注いでも、ついにその背中から振り落とすことができなかった右足である。その右足は、愕然とするほど見事に底光りする漆黒のブーツに身を包んでいた。

右足は彼の目前で爪先から地面に触れ、『コツッ』という硬い、小さな音を立てた。


コツッ・・・ コッ・・・

まず爪先、続いて踵が床を打った。ソヨンは地上の人となった。

その音を至近で聞いた彼[77番]は―師匠格である倭奴丸山に遅れながらではあったが―今ここにいる二人の韓国人女性を、『絶対的な上位者』として、認識しつつあった。

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