試合
ソヨンとソナは、うつ伏せになって待っていたそれぞれの『絨毯』役の倭奴を跨いで立ち、正面の鏡に自分たちの姿を映した。
(ひゃぁ…、いい眺め)ソナは鏡の前で、同じ姿勢になって並び立つ自分と姉の姿を眺めて満足気だった。
鏡には、ブーツを履いた脚を心持ち開いて立つ、手にリード[引き鎖]と長鞭を持った若くて長身の女性と、その両足の間から顔を覗かせているうつ伏せの倭奴のコンビが2セット、映り込んでいる。
どちらの女性も顔に楽しげな表情を浮かべているのと真に対照的に、彼女らに跨がれている2体の倭奴は、緊張で極端に顔をこわばらせていた。
「大きい鏡があって、テンション上がるね」ソナが右手に持った鞭の先端を、左手の指先で軽く揉み解しながら言った。
「でしょ。それと、こいつらにとっても…」ソヨンは足許の倭奴を顎で指した。
「…鏡があるお蔭で、私たちの『勇姿』がたっぷり堪能できるかな、と思ってね」
倭奴にとっては、もちろんソヨンとソナの『御姿』は、惚れ惚れするほどに格好良かった―なにせ下級倭奴には、彼女らの御姿を『拝む』ことが出来る機会は滅多にないのだから。しかし、その『惚れ惚れするほど格好良い』お二人に、今から動けなくなるほどに鞭打たれ、踏まれ続けることになると分かっていると、その『御姿』は、もはや底無しの恐怖の対象でしかなかった。
「お姉ちゃんの靴、ピッタリじゃん。似合ってるよ」
「ソナのもいいじゃん。お揃いだね」
2人の女は楽しそうだった。
◆◆◆
奴隷番号77番は、うつ伏せの姿勢のまま、自分を跨いで立つソヨン様の御姿を見た。まるで登山者が遥かな山の頂を仰ぎ見るかのように。
『自分の上に山が乗っている』そんな感覚だった。
股下からの脚全体が突出して長く、腰の位置が異常なほどに高い。
太陽から突出したプロミネンス[紅炎]のような超自然的な美しさ。それは隣に立つソナも同じだった。
(それに比べて…)彼女らの足の間で、顎を床に引っ付けて正面の鏡を見る自分たち2匹の倭奴は、虫ケラも同然だった。もはや悔しささえも湧いてこない。
「そろそろ始めよっか」
ソヨンがその最後の音を発音し終わるか否かの刹那、「ぷぎゃぁぁぁぁぁっ」と、51番―ソナの絨毯―が奇声を発し、頭を持ち上げて身を起こそうとした。恐怖のあまり、突発的に発狂したようだった。
2人の対応は迅速だった。
51番を取り押さえようとする周りのギャラリーや倭奴も驚くほど素早く、ソナが振り向きざまに手にした鞭で彼の背中を打ち据えると、怯んだ彼に一歩近付いたソヨンが、その脇腹に鋭いトゥー・キックをお見舞いした。
51番は悲鳴を上げる間も無く、再び地面に倒れこんだ。
「きゃははっ。。何、お前? ひょっとして逃げようとしたの?」ソナが51番の臀部を踏んで、グッと体重を掛けながら言った。
「…倭奴ってほんと馬鹿ね。どうして無理と分かってることをするのかしら?」ソヨンは床に付いた彼の頭部の、左のこめかみを踏み付けながら言った。
「脳ミソ空っぽのお馬鹿さんか・・・ひょっとして、自殺志願者?」
ソナの冗談に、ソヨンはドッと笑った。
「…どっちでも良いけど、自殺するなら人目につかないところでして欲しいわね」ソヨンは足の下の顔に向けて話しかけるように言った「君たちは、単なる私たちの玩具なのよ。玩具は玩具らしく、壊れるまで、私たちのこと楽しませてくれなきゃ。私たちの手足を煩わせるなんて、もってのほかよ! 分かってる?」
◆◆◆
ソヨンとソナは『ゲーム』のルールを再確認した
―ゲームオーバーのパターンは、以下の2つ。①:プレーヤーが、『絨毯』の体から落ちて片足でも床を踏んでしまったら、負け。②:プレーヤーが、相手より先に『フォール』したまま10カウントできたら、その時点で勝ち。
―『フォール』は、どちらかの足で『絨毯』の頭を踏んだまま、『絨毯』が動けない状態。
―『絨毯』が本気になるように、先に『フォール』されてしまった『絨毯』は、罰として2階級降格で最下層の『豚』ランクになる。逆に、プレーヤーを振り落とすか、ゲームオーバーまで『フォール』されなかった『絨毯』は、勝ったプレーヤーから、『ご褒美』を与えられる。
2人はそれぞれの『絨毯』がしている首輪に、手にしたリードのもう一方の先端を結わえ付けた。
そして最後に、さきほど逃亡未遂を企てて取り押さえられたことで体力を消耗した51番に条件を合せるため、77番も、ソナから一発、蹴りを頂戴した。―77番にとっては、とばっちり以外の何物でもなかった。
そこまで準備を整えてから、、、
「よーい、スタート!」というソヨンの掛け声と同時に、2人はそれぞれの『絨毯』に飛び乗った―左手にリード、右手に長鞭を持って。
2人と2匹の、戦いが始まった。
次は回想2―丸山in新幹線の続き―を書く予定です。




