尻
(ソナ様に…選ばれたい…)
丸山は、極めて異常な心理ではあったが、ソナに自分が指名されたいと、このとき強く願っていた。
指名されることによる結果がどのようなものか、どのような災難が自分の身に降りかかってくるか、彼はもちろん知っていた。彼は以前このゲームの『絨毯』になり、大怪我を負って―確か肋骨2本の骨折だった―病院送りにされた同僚の倭奴を知っていた。
そのときの光景がありありと瞼に浮かぶにもかかわらず、彼はそれでも『絨毯になりたい』という異常な欲求を打ち消すことが出来なかった。彼は目に力を込めて、顔をしゃんと上に向けていた。
しかし、幸か不幸か、彼は選ばれなかった。ソナは顔を背けるように恐怖感を露わにしている若い倭奴を―恐怖感が爆発することで大きな力が発揮されることを期待して―ソヨン[対戦相手]の絨毯に指名した。あるいは単に丸山は彼女の目に『歳を取りすぎていて非力な倭奴』と映り、選考から外されてしまったのかもしれない。
「よし、決ーめた! キミにしよう。こっちへおいで」
ソナは、両手を床につけて正座し、顔をややうつむき加減にして震えていたその若い倭奴の前に立ち、腰をちょっと屈めてその肩に手で触れた。ソナに触れられ、彼―奴隷番号77番・ランク『猿』―は顔を上げるなり号泣した。涙と鼻水と涎をだらしなく垂らして、顔をぐちゃぐちゃにしていた。
(やだ…汚いわね…)醜いその顔面の有様に若干躊躇しながらも、ソナはその倭奴の顔を正面から見た。倭奴にしてはハンサムだったが、前歯が少し欠けていた。
(…どうか…お許しください…ソナ様…)まるで無力な子犬のように、彼は訴えかけるようにソナを見上げていた。
(ふふっ、、、いい表情するじゃない。。。よっぽどソヨンが恐いのね。ご愁傷さま)
もちろん77番の哀願はソナに届くはずも無かった。
ソナはくるりと身を返して、足許で依然、正座したまま上を向いて泣きじゃくる倭奴に背を向けた。そしてお尻を軽く倭奴のほうに突き出し、ぽんぽんと手で叩いて促した。まるで足許の犬を促すように。
「ホラ、こっちへおいで。わんわん」
半身だけ振り返りながら、ソナは歩き出した。そして、歩きながらもう一度、後ろの四つん這いの倭奴に向かって、自分のお尻をぽんぽんと叩いた。77番は観念したように―それでも涙は止まらなかったが―四つん這いで歩いていった。
目の前で、形の良い豊満なソナのお尻が、ふわふわと動いていた。香水の良い匂いが鼻腔をくすぐった。
ソナのお尻の匂いを嗅いで、彼は今すぐ立ち上がってこの部屋[プレイルーム]から逃げ出したい衝動に駆られたが、もちろんそんなことは出来なかった。
彼の首輪には、今はまだ鎖が繋がれていなくとも、彼の心は、しっかりと、ソナが持つ重い鎖に繋がれていた。彼女の意に添わない行動は、倭奴には絶対に取れなかった。77番はなおも涙を流しながら、目の前で揺れるお尻に、遅れまいと付いて行った。ソナは足許の倭奴が付いて来れるようゆっくりと歩き、時折振り返って「こっちよ」とお尻を叩いて導いてやった。
◆◆◆
壁が鏡になっている部屋の隅のスペースに、ソナは77番を付き従えて歩いてきた。
ここが『試合会場』である。すでにソヨンは自分が選んだ倭奴を、その床にうつ伏せに寝かせていた。
「決まった? 早く始めようよ」
ピンク色のシュシュで長い髪を纏めながら、ソヨンが言った。健康的なうなじが露わになっていた。
「あら、大きい鏡があって、いい感じじゃん。リードと鞭はある?」―『リード』は首輪につける引き鎖で、絨毯ロデオでは、通常プレイヤーは鞭を持っていない方の手で、倭奴の首輪に繋がれたリードを握り、体のバランスを取る。
「もう準備してあるわ」ソヨンの手には2セットのリードと、2本の長い一本鞭が握られていた。ソナは自分の分を受け取った。




