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対面

ぼんやりと腕組みをしながら、ソナはしばらくの間―といってもほんの数十秒の間だが―その倭奴が夢遊病状態で足許を四つん這いで這い進む姿を真横から眺めていた。

それからサンダルを履いた右足の裏で、おもむろに彼の左脇腹を軽く蹴った。

その蹴りは殆ど触れただけと言っていいほどの強さであったが、丸山はスローモーションのように横向きに倒れ込んだ。そして地面に頭部を打って、ようやく目覚めたようだった。


「・・・・・???」

目をしばつかせながら辺りを見渡していた丸山だったが、傍らにソナが立っているのを視認して、ハッと弾かれるようにソナのほうに向き直ってその足許に両手を衝いた。

そして土下座の姿勢になろうと、頭を下げようとした。まるで形状記憶金属のように、彼の神経系には基本姿勢である土下座平伏がインプットされていた。

しかしあまりにも長時間四つん這いでいたため、腕全体が強張って、肘が曲がらなかった。彼の腕には土下座する力さえ残っていなかったのだ。


「そのままでいいわ」

凛としたソナの声に丸山の四肢の動きはピタリと停止した。

丸山は腕を伸ばした四つん這いで、顔は正面を向き、少しうつむいていた姿勢で止まった。

ソナは半歩だけ丸山に近付いた。丸山の視界にソナの両脚の膝から下半分がクローズアップして入ってきた。


「…今日いちにち亀になってもらったんだけど、どうだった? 十分楽しめたかしら?」

脚の主の声に、丸山は必死で答えようとするのだが、顎と舌の筋肉が強張って、言葉を発することが出来なかった。


「疲れたでしょう。外してあげるわ」

ソナは腕を伸ばして丸山の背中から矯正用ランドセルを取り外してやった。そして再び丸山に向き直って正対した。丸山はその間ピクリとも動かなかった。


「…お前は6人の中で一番最初に逝っちゃったよ。そのことは知ってた?」

丸山はようやく微かに動くようになってきた口元から「もうしわけございません」と声を絞り出したが、その声は蚊が鳴くほどにも空気を震わせることは出来なかった。


ソナは腰を折って四つん這いの丸山の目の前に屈み込んだ。そして右手の人差し指でうつむく丸山の顎を持ち上げて上を向かせ、その顔を正面から覗き込んだ。


「情けないね。悔しくないのかしら? ん?」

言って僅かに口を開き、歯を見せて微笑みかけてやった。


(あぁ、なんて御麗しい、、、ソナ様の御尊顔、、、)

自分の生命を自由に出来る絶対者の『御尊顔』を至近距離で見て、普段の丸山だったら泡を吹いて失神するか、恐怖の余り半狂乱になっていたところだろう。そもそもこんな間近に韓国貴族女性の顔を見るのは捕虜になってから有り得ないことだった。しかし今の丸山の精神状態は、妙に『空白』だった。雑味がなく、ありのままだった。


涼しげで余裕あふれる目許と、意志の強そうな両の瞳。白皙の肌。ふくよかな頬とシャープな顎のラインとが奇跡的なほどに調和して、口許には優美な笑窪が形作られていた。豊かな頭髪は、まるで丸山の積み上げてきた50年の歳月を残らず吸い込んでしまう魔女の森のような奥行きを湛えていた。

間近で見るソナの顔は、黄金率のように均整のとれた、完璧な美貌として丸山の眼に映った。

『美しいということは、それだけ神に近いということだ』―かつてどこかで聞いた金言を、丸山は想起せずにはいられなかった。


「お? 意識、ちゃんとしてきたかな」

丸山の眼の焦点が定まってきたことにソナも気付いたようだった。

「じゃぁ感想、聞かせてくれる?」

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