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脳裏

結局倭奴たちは全部で1時間半ほど、たっぷりとグラウンドを這わされ続けた。


片道150メートルほどの行程を這い歩くと、地面に白いラインが引いてあり、そこから180度回れ右して折り返し、もと来た道を這う。さらにスタートラインに戻ってきたら、再び折り返して這い続ける。


約1時間半の間、倭奴たちは一度のインターバルも与えられず、給水も出来なかった。


一方、倭奴たちの『苦行』を監督する10代の韓国軍女性将兵たちは、初めのうちこそ、のろい倭奴の臀部を鞭打ったり―それは追い手にとっては手首の返しだけのほんの小さな動作だったが、倭奴に尻から火の出るほどの痛みをもたらした―、あるいは棒の先端で臀部や大腿部を突付いたりして、足許を這う倭奴どもを面白がって追い立てていたが、しばらくすると、彼女らは暑さと飽きから、遠慮なく交代で休憩を取った。

この暑さである。もちろん倭奴が味わっている耐え難い苦しみとは比べるべくもなかったが、四つん這いで這い進む倭奴に合せてゆっくり歩きながら時折鞭を振るうだけでも、じっと汗が滲んだ。ソナは夏服のシャツの脇下を汗で湿らせていた。


ついには彼女らは全員、倭奴たちの傍を離れ、グラウンドの脇の木陰にあるあずまやへ下がっていった。そこにあるデッキチェアに腰掛け、ペットボトルから冷たいドリンクを飲みながら、少し離れたところを這い歩き続ける倭奴どもを鑑賞して、おしゃべりを楽しんでいた。


しかしその間も、倭奴たちは休むことは出来なかったし、追い手の攻撃から開放されることもなかった。


◆◆◆

それは倭奴たちが最初の折り返しを終えた少し後くらいだった。

「そろそろ鞭も飽きてきたし、コレ、試してみようか」

ソナが倭奴どもの後をゆっくりと歩きながら、鞭を振るう手を止めて、傍らの兵たちに言った。


ソナの一言で韓国軍将兵たちの鞭が止まり、丸山は『?』と思ったが、悠長に構えている暇は無い。その間も背後のソナたちの気配に追い立てられながら歩き続けたが、数秒後、急に背中に走った激痛に、「ぎゃあっっっ」と声を発して飛び上がった。


背後からソナたちの笑い声が聞こえた。

「キャハハハッ! いいじゃん、コレ、使えるね」


ソナが『コレ』と言ったのは、倭奴たちに背負わせているランドセルだった。

倭奴たちは四つん這いにされて背中に無理やりランドセルを装着させられたとき、最初それは単なる重りで、中身は土嚢か何かだろうと思っていた。

もちろん重りとしての役割は重要だったが、このランドセルにはそのほかにも機能があった。

中にバッテリーと電極が入っていて、リモコンで操作することで、遠くからでも、倭奴に電撃を加えて肉体的苦痛を与えることが可能だった。

さらにランドセルの前端―倭奴の後頭部のすぐ後方―には、スピーカーとマイクが付いていて、遠くから倭奴と会話が出来るようになっていた。

極めつけは『オートマチック機能』である。これは3次元の位置測定装置と電極を組み合わせたもので、倭奴があらかじめインプットされた座標から外れたり、規定の速度を下回ったりすると、自動で電撃を与え、矯正させることが出来るシステムである。

例えば倭奴が立ち上がろうと身を起こそうとしたり、コースを外れようと歩く方向を変えたり、歩くスピードがダウンしたりすると、自動で電極が起動し、倭奴の行動を罰して修正させることが出来た。


それらの機能を一通り試してから、ソナたちは木陰のあずまやに去っていった。

そして各々好みのドリンクを飲みながら―倭奴たちが死ぬほど欲しても手に入らないものだった―、倭奴どもの徒競走を肴にして談笑していた。


倭奴たちは視界の端のはるか遠くで楽しく談笑する女たちを見ながらも、必死で歩き続けることを止めることは許されなかった。少しでも這うスピードが落ちると背中に激痛が走った。

(木陰のあの方々から眺めたら、きっと俺たちって、つくづく惨めな虫ケラに見えるんだろうな…あぁ、少しでいいから休みたい…水を飲みたい……この境遇から開放されたい……)

もちろんそんな願いは『あの方々』には届くべくもなかった。


◆◆◆

丸山たちは延々と歩かされ続けた。時折あずまやから女たちがやってきて仲間内でおしゃべりしながら気の向くままに鞭を振るったり、首輪を引っ張って遊んだりしたが、殆どの時間帯、彼らは無言の中で、黙々と這い続けた。

もう何往復させられているか分からない。時間の概念が意味をなさない、そこは無限地獄だった。


(俺たちは玩具なんだ。なけなしの体力と気力を極限まで振り絞って、あの方々に束の間の娯楽を提供する玩具なんだ)


それ以上の存在意義を彼は見出すことが出来なかった。彼の耳には、遠く離れた場所で寛ぐ女たちの明朗な笑い声がこだましていた。


手のひらと膝は擦れて骨まで磨り減ってしまっているようだった。体中から汗が噴出し、あらゆる筋肉が痙攣していた。吐き気がずっと止まらなかったが、もし何かを吐こうとしたら、黒ずんで縮み上がった脳髄が口から出てきそうな感じがした。


(どうして俺はこんなことをさせられているんだ……俺は日本大公国の陸軍将校じゃなかったか……)


目をつぶると、壇上の椅子に腰掛け、後光を背負って輝くパク・ソナの麗姿が丸山の脳裏を占めた。


もはや俺は人間じゃないのかも知れない…。確かに敵国の女将校を神と崇めるなんて、正気の人間とは言えないな…。


これは天罰なんだ…。俺に対する天罰だ…。

正気じゃないなら正気じゃないなりに、必死で、生きていこう…。


神様…。


丸山は顔面から地面に崩れ落ちた。脳裏にはやはり美しい微笑を投げかける笑顔のパク・ソナがいた。

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