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炎天

続いてソナの訓示である。

再び倭奴全員を土下座させ、もちろん自分は壇上の椅子に着座したままである。

脚を高々と組み換えて、ソナは眼下の倭奴たちに向けて訓示を始めた。

「今から定例の捕虜審問・および教育を始める。私は大韓女権帝国空軍少尉パク・ソナよ。初めての人はよろしくね。

まだ10代だけど、ここではお前たち全員の生殺与奪の権利が、この私の手のひらに握られてること、くれぐれも忘れないでね。私が少しでも気に入らないことがあったら、そいつは、『豚』に降格どころか、あっさりと殺されちゃうんだから、そのつもりでね」

「もちろん、従順で賢明な倭奴クンは殺したりしないから、安心しなさい。私が許さないのは、『まぁテキトーにやってればそのうち戦争も終わって、俺たちも自由の身になれるだろう』って気軽に考えてるバカな倭奴よ。もう気付いてると思うけど、お前たちは、戦争が終わっても、ずっと私たち韓国人の奴隷なのよ。一生、死ぬまでね」

「そのことをよーく分かってる賢い倭奴クンには、今の私の姿が、それこそ慈悲深い女神様のように見えるでしょうね。そういう子はたっぷり私たちの御靴磨きとか、トイレの床磨きとか、させてあげるわ。たまには靴の裏で頭をナデナデしてあげてもいいわよ」

「一方で、韓国のことをまだ敵だと思ってて、薄っぺらな意地やプライドを大事にヘラヘラしてる倭奴クンは、きっと大変な思いをすると思うよ。死んだほうがマシ、って思っちゃうかも。そういう倭奴クンにとったら、同じ私の顔が、閻魔様みたいに見えることね。

慈悲深い女神様のお足許で幸せに働けるか、閻魔様に地獄を見せられるか、それはお前たちの心の持ち様次第よ」


丸山にとっては、もちろんソナは女神様だった。現状の『犬』ランクだと、韓国人女性将校が履いている靴を磨くことが出来なかった。与えられる業務は屋外での土木業務ばかりだ。ごくまれに、女性将校が履いていない状態の靴―脱がれた状態の靴―であれば、磨くことが出来るが、丸山は一刻も早く『猿』ランクに復帰して、女性将校様がお履きになっている状態の靴を磨きたかった。そのお足許に土下座叩頭したかった。


壇上のソナが続けた。

「じゃぁ、早速始めるね。今日はお前たちに亀になってもらうわ。背中に重たい甲羅を背負って、外のグラウンドを四つん這いで何往復もしてもらうの。どぉ、楽しそうでしょ?

成績上位者は、来週から『猿』にランクアップさせてあげる。逆に下位の子には罰ゲームを用意してるから、そのつもりでね。この暑さだし、重たい甲羅も背負ってるし、けっこう大変だと思うけど、私たち韓国人に対する忠誠心があればスイスイ行けるはずよ。頑張ってね!」


丸山たち6人はソナに促されて外に出た。

8月の真夏日の昼の炎天下、うだるような暑さだった。土の地面はたっぷりと熱を含み、地表付近の体感温度は40度を超えていた。

外のグラウンドには若い韓国兵―見たところ全員平民の一般兵のようだ―が4人ほど日陰に座って談笑していたが、ソナの姿を見て慌てて立ち上がり、ソナに向かって挙手の敬礼をした。この奴隷教育におけるソナの助手たちであった。ソナはにこやかに敬礼を返した。兵の一人が言った。「少尉殿、準備万端であります。いつでも始められます」


丸山たちは全員同じ方向を向いて四つん這いにされ、背中にランドセルのようなものを括り付けられた。中に土嚢が入っているのか、すごく重い。丸山は早くも肘をガクガクと笑わせていた。それぞれのランドセルは、あらかじめ倭奴6人の基礎体力が測定してあり、その数値に従って僅かに重さを調節してあった。若く体力のある倭奴には重く、丸山のような老いた倭奴には比較的軽い―それでも30キロはあるだろう―ランドセルが割り当てられた。

地面はグラウンド特有の固い黒土で、倭奴たちの手のひらと膝頭はむき出しのまま、軍手もサポーターも与えられない。

おまけに、四つん這いの丸山の視界の端には、談笑しながら手に乗馬鞭や棒状の何かを持つ、ソナと助手たちの姿が見えた。おそらく地面を這いつくばらせて歩かせながら、後方から丸出しの臀部を鞭打つ気だろう。早口の韓国語でなにやら冗談を言い合っている韓国人女性将兵たちが、丸山の目には、このときばかりは地獄の鬼のように見えた。

左右を見ると、他の倭奴たちも同じように重りを背中に括り付けられ、同じようにスタートラインに沿って四つん這いで並ばされている。

丸山は前方を見た。本格的な、広いグラウンドである。いったいどれだけ歩かされるのだろう。何往復させられるのだろう。インターバルはあるのだろうか。

もちろん背後に立つソナ様に聞いてみる訳にはいかない。


◆◆◆

「スタート!」ソナが手にした鞭で軽く地面を打った。ピシッという乾いた音が倭奴たちの耳に響き渡った。

倭奴どもは一斉に見えないゴールに向かって這い出した。


若い将兵たちが笑いながら、手にした鞭や棒で、足許を必死に這い進んでゆく虫ケラたちを追い立てていった。

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