第八話
「シークレット……」
「ガーデン?」
まなかと夏海が繰り返す。
「そ。ここに関わる人間は、ここのことを『ガーデン』って呼んでるわ。覚えておいてね」
「はい」
「わかりました」
まなかと夏海の返事にうなずくと、桜子はくるりと背を向けた。
「じゃ、行きましょうか」
桜子に先導されて、四人はいかにも研究施設という建物内を移動する。
「ここ、元は研究施設だけだったのよ。そこに、あなたたちが所属する戦闘部門が後付で併設されたの。だから、ちょっと手狭な感じがするけど、そこは我慢してね」
「へ~、そうなんですかぁ」
「てことは、鈴木さんのお母さんもメインの仕事は研究ってことなんですか? その格好からして」
「そうよん。で、戦闘のあるときはこっちに出向いてくるってわけ。今のところ、それで問題なくまわっているから、当分あなたたちの面倒をみるのは私ってことになるわね。とういうことで、指揮命令者として、これだけは言っておくわ」
桜子が、まなかと夏海にズイッと顔を近づける。
「はい?」
「な、なんでしょう?」
顔を強張らせるふたり。
「私のことは名前で呼んでね! 『桜子』ってね!」
桜子はにこやかに告げた。
一通り施設内を見て回った一行は、最後にミーティングルームへとやってきた。
「あなたたちが関係する箇所は、ざっとこんなものかしら。何か質問ある?」
桜子の問いかけに、夏海がすかさず手をあげる。
「はい、はい! なんか働いてる人、女の人ばっかりだったんですけど、なにか理由とかあるんですか?」
「まあ! 男の人がいなくて張り合いがない? 夏海ちゃんたらおませさんね!」
桜子が、ひやかすように夏海を見つめた。
「ちがっ! あたしはただ、思ったことを言っただけで、そういう意味じゃなくて!」
夏海が、まなかのほうをチラチラうかがう。
さらに夏海をからかうかと思われていた桜子は、ふっと表情を曇らせ、いわくありげに言葉を吐いた。
「男なんて獣よ!」
その様子を見た夏海は、不安げに弥生に耳打ちした。
「もしかしてあたし、なにか地雷踏んじゃった?」
弥生は、そんな夏海に苦笑で返す。
「まともに取り合うだけ無駄ですよ」
「三人の子持ちがなに言ってるのさ……」
春菜が呆れた様子でため息をつく。つっこまれた桜子が、年甲斐もなく舌をちょっと出しておどけて見せると、弥生はほらねとばかりに夏海に微笑んだ。
「三人? 三人きょうだいなの?」
「ええ、兄がいます」
「一番上にね」
まなかの疑問に弥生と春菜が答える。
「へ~、そうなんだ」
「女性職員が多いことについては、特にこれといって理由はないわね。研究セクションにはちゃんと男の人もいるし。だから、ここに関しては、気づいたらそうなってたって感じかしら? でも、今はそのほうがいいとも思っているわ。思春期真っ盛りのあなたたちのメンタルのことを考えるとね」
「はぁ、そうですか……」
夏海は疲れたようにため息をついた。
「じゃ、このあと二人には身体測定と健康診断を受けてもらうわ、スーツをつくるためにね。で、明日からは研修のはじまり」
「研修……ですか?」
まなかが桜子を見る。
「そ、何もわからないまま実戦参加なんて、させられるわけないでしょう?」
「確かに……そうですよね」
夏海がうなずく。
「ということで、あなたたち二人に教官を紹介しま~す。学課担当、オペレーター兼バックアップの鈴木弥生ちゃんです!」
弥生は桜子の紹介に合わせて会釈をした。
「そしてそして、実技担当、フォワードの……」
「もしかして」
「この展開は」
まなかと夏海が揃って目線を移すと、春菜はコホンッと咳払いをして居住まいを正した。
「鈴木春菜ちゃんです!
「やっぱり」
「え~」
「なに! その反応!」
春菜は、不平の声をあげる夏海に不満の視線を送った。