第六話
「こんにちはー」
「たのもー!」
二日後の放課後、まなかと夏海は再びヒーロー部を訪れた。
「ようこそ」
「おつかれー」
当然ながら鈴木姉妹が出迎える。
「調査の結果、どうだったの?」
「ええ、お二人とも問題なしでしたよ」
「よかった」
まなかはホッと胸をなでおろした。
「さ、立ち話もなんですからどうぞ中へ」
弥生がふたりを招き入れる。
「だけど、おととい来たときも思ったけど、殺風景だよね、ここ」
机・イス・棚など、ありきたりなものが整然と配置されている部室の内部を見渡しながら、夏海がつぶやいた。
「ま、ここは私たちの一時待機場所みたいなものですから」
「にしても何もなさすぎ。せめてフィギュアとかポスターとか飾ればいいのに、ヒーロー部らしくさ」
「ダメ、ダメ! うちは本物志向なの! ああいう視聴者ありきのショーとはわけが違うんだから!」
春菜が座っていたイスにふんぞり返る。
「そうなの? けど、結構さまになってたよ、決めポーズ!」
まなかは、先日春菜がキメたポーズをそのまま再現して見せた。
「あ~、ダメ~!」
春菜がイスから腰を浮かせて手をバタつかせる。
「ぷぷぷ、なんだかんだ言って参考にしてるんじゃん」
失笑する夏海を前に、春菜は顔を赤らめてうつむいた。
「それはもう、熱心に」
ダメ押しとばかりに弥生が壁際にある棚の戸をスライドさせる。そこには特撮ヒーローのDVDがビッシリ収納されていた。
やるせない沈黙が流れるなか、春菜は顔を両手で覆い、フルフルと頭を振るわせた。
「で、今日はどうするの?」
「秘密のアジトでしょ?」
ベンチソファに腰を落ち着かせた、まなかと夏海が、弥生に問いかける。
「ええ、秘密の基地に、ご案内する予定です。でも、その前に会っていただきたい人がいます」
「それって、だれ?」
「私たちの監督責任者です」
「あ~、お偉いさんね。そりゃまぁ当然か」
夏海が、頭の後ろで両手を組んでつぶやいた。
「その人どんな人? こわい人?」
やや不安気味のまなかの質問に、春菜と弥生が顔を見合わせる。
「こわくは」
「ないですね」
「じゃあ、具体的にはどんな人?」
今度は夏海が質問する。
「どんな人って……」
春菜が弥生を見つめる。
「さぁ……」
弥生は素知らぬ体で小首をひねった。
「『さぁ』ってことはないでしょ! 『さぁ』ってことは!」
いきなり隣室に通じる扉が開け放たれ、白衣を着た女性が現れた。
「おや、来てたんですね」
何食わぬ顔で弥生は応じる。
「来てたわよ! スタンバイしてました! 狙ってたのに、噂話の真っ最中にご本人登場ってやつ! なのに、ぜんぶ台無しじゃない!」
白衣の女性が弥生に食って掛かかる。弥生は平然として、白衣の女性を手で指し示した。
「とまあ、こういう人です」
ぽかんと呆けるまなかと夏海。
「ほら、しょっぱなのサプライズがなかったから、二人ともしらけちゃってるじゃない!」
「いや~、二人とも驚いてるんだと思うよ、たぶん……」
春菜が心配そうに、まなかと夏海のほうへ歩み寄る。
「この人が……」
夏海がかろうじて口を開いた。
「ええ、この人が私たちの監督責任者。研究開発主任兼統括本部長の……」
弥生の言葉を遮り、白衣の女性は春菜と弥生を両脇に引き寄せ、満面の笑みで告げた。
「春菜と弥生の母、桜子です!」