第四話
「え?」
「はぁ!?」
まなかと夏海はそれぞれ目をみはる。
「なにそれ? あー! この部特有の勧誘文句? ヒーロー部なだけに。でも、あんまりおもしろくな~い」
さっきの仕打ちのお返しとばかりに、夏海はうそぶいてみせた。
「違う、違う! わたしたちは本当に……」
反論しようとする春菜を弥生がとどめる。
「これでいいのですよ。むしろ、こうでなくては困ります。今の言葉を真に受けるようなら、私はその人の頭の構造を疑ってしまいます」
平然として湯飲み茶碗を持ち上げ、その中を覗き込みながら弥生は続けた。
「私たちが携わっていることは、今の一般常識からはかけ離れたものです。いくら言葉を尽くして説明したとしても、それを受け入れる人がいるとは思えません。ですので、ここはひとつ、実際に見てもらいましょう。姉さん、お願いします」
「うん、わかった」
春菜は、弥生の要請を受けて立ち上がると、比較的、周りに物がないところに移動した。
「見ててね」
そう言って、腕のブレスレットを操作した次の瞬間。春菜の体は白いボディスーツとヘルメットで覆われていた。
「すごい!」
「ウソ!?」
興奮気味のまなかは反して、夏海は驚愕の声をあげて立ち上がった。
「これ、なに!?」
春菜の周りをくるくる回り、上へ下へと目を配る。
「いわゆる、パワードスーツというものです。装着者の筋力を増強し、常人を遥かに超えるパワーが発揮できるようになります」
「だから、こんなこともお茶の子さいさい」
春菜は夏海の脇の下に両手を差し込むと、赤ちゃんでも抱えるように、夏海の体をヒョイと持ち上げた。
「あわわ! 降ろして! 降ろして!」
夏海が手足をバタつかせる。
「じゃ、降ろすよ」
春菜がゆっくりと夏海の体を下に降ろす。床に足をつけた夏海は、安堵のため息をつくと、引きつった顔をまなかに向けた。
「もしかして、マナが見たのってこれ?」
「うん、そう!」
まなかはそれに笑顔で応えた。
「だったら最初から言ってよぉ。あたしひとりだけ空回りして、なんかバカみたいじゃない!」
「ごめんね。だけど、私もやっぱり信じてもらえないと思ったから」
「そんなことない! あたし、マナの言うことなら何でも信じる。だから、今回のこともきっと信じてた!」
夏海がむくれた顔で抗議する。
「本当? じゃあ、もし私がなっちゃんのこと嫌いになったって言っても信じる?」
「それは……信じない。信じたくない……」
沈んだ表情をうかべて口ごもる夏海。
「なっちゃんてば、オーバーなんだから! それに、私がなっちゃんのこと嫌いになるなんてこと、あるわけないじゃない」
「マナー!」
目を潤ませた夏海がまなかに抱きつく。
「うんうん。美しい友情だねぇ~」
スーツの装着を解いた春菜がパチパチと手を叩く。
「ま、表面上はそう見えなくもないですね」
澄ました調子で弥生はお茶をすすった。
「どういうこと?」
「姉さんはわからなくてもいいことです」
「……」
春菜がむくれた顔で、弥生の横顔を見つめた。
「ところで弥生さん」
四人全員が再び席についたところで、まなかは切り出した。
「はい、なんでしょう?」
「さっきの一緒に戦うってどういうこと? なっちゃんも私と同じところまで来たことだし、そろそろ聞かせて」
「そうですね。では、お話しましょう。まだ、込み入った事情までは話せませんので、あくまで概略のみですが」
そう言うと、弥生は居住まいを正した。
「実は私たちは今、とある組織と抗争の真っ最中なのです。人知れず何度も戦火を交えてきましたが、そこも私たちと同じノウハウを持っているため、実力伯仲、一進一退を繰り返す日々が続いています。そこで、私たちの所属する組織は、現状を打破するため、新機軸として新たな戦い手を投入しようと、そういう結論になった次第です」
「あんなすごい技術を持った組織が他にもあるんだ」
「ええ、よくあることですよ。元々同じ目的を持って活動してきた者同士が方向性の違いで分裂、そして対立へ、という比較的わかりやすい構造です」
「それだけ聞くと、なんかミュージシャンみたい」
「だね」
夏海のつぶやきに、まなかは苦笑した。
「じゃあ、弥生さんたちは、その対立する組織を壊滅させるために戦ってるの?」
「壊滅とまでは言いませんが、少なくとも彼らの野望を打ち砕く必要はあると考えています」
「へ~、そうなんだ。で、その対立組織の野望ってなに?」
「それは……」
「それは?」
まなかと夏海が身を乗り出す。弥生はキリリと顔を引き締めて告げた。
「ズバリ、世界平和です!」