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第三話




 部室棟から少し離れたところにポツンとたたずむユニットハウス。そこにヒーロー部はあった。その存在の無名ぶりにそぐわない優遇ぶりを不思議に思いながら、まなかは部室の扉をノックする。

「どうぞ」との返しに扉を開くと、面前に鈴木弥生が立っていた。

「ようこそ、土方まなかさん。あと、そちらは?」

 出迎えの会釈を済ませた弥生が、不思議そうにまなかの背後を覗き込む。

「二年二組、不知火夏海!」

 夏海は、威嚇でもするかのように名乗りを上げた。

「ごめんね。どうしてもって言うから……」

 まなかは、申し訳なさを表情へにじませた。

「そうですか。不知火さん……ですね。まぁ、ひとりで、と念を押していなかったのは私の落ち度。とりあえず、中へどうぞ」

 まなかと夏海は、部室の一角にあるミーティングスペースへと通された。

「姉さん。お茶をお願いします」

「は~い」

 春菜へ声をかけると、弥生はふたりに席をすすめた。

 まなか、夏海が並んで座り、テーブルを挟んで対面する形で弥生が腰掛けた。

「熱いから気をつけてね」

 春菜が運んできたお茶が、それぞれの前に供される。

「ありがとう」

「あ、ども」

 ふたりのお礼に笑顔で答えて、春菜は弥生の隣に落ち着いた。それを待っていたかのように、弥生が口を開く。

「わざわざお呼び立てしてすみませんでした。お察しとは思いますが、これはとても重大な案件ですので。つきましては、本題に入る前にちょっと立ち入ったことをお伺いします」

「なに?」

「お二人の関係、それはどういったものでしょうか?」

「どういったって、なっちゃんは私の一番の友……」

「そ、そんなこと関係ないでしょ!」

 夏海がまなかの言葉を遮った。夏海の反応にキョトンとしながらも、弥生は応じる。

「それがそうもいかないのです。なにぶん、これは機密事項に関する事柄。こちらといたしましても、いたずらに漏洩の可能性を増やすリスクを犯すわけにもいかないので」

「なに? そのもったいぶった言い方。学園祭の出し物見られちゃったくらいでさ!」

 夏海が不機嫌そうにそっぽを向く。

「はぁ、まぁ、そうですね」

 弥生が、まなかへ視線を移す。まなかは、口の前に人差し指を立てて微笑んだ。苦笑しながら弥生は続ける。

「わかりました。では、余計な詮索はやめにしましょう。でも、そんなたわいもない呼び出しにまでついてくるなんて、不知火さんはよっぽど土方さんのことが大事なんですね」

「そんなの当たり前! マナはあたしのマナなんだから!」

 夏海が、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。あっけに取られている鈴木姉妹とは対照的に、まなかはころころと笑い声をたてた。

「やだなぁ、なっちゃんてば。またそれ?」

 その言葉を聞くや否や、夏海のテンションは一気に下がり、暗い顔でうつむいた。

「なるほど、お二人はそういう関係ですか」

 弥生はその様子を見ると、納得がいったようにお茶をすすった。

「そういう関係ってどういう関係?」

 春菜が弥生の顔を覗き込む。

「姉さんには到底理解できない関係です」

「またそうやって人を小馬鹿にする……。やめてよ、そういうの」

 春菜が弥生に抗議の視線を送る。

「そういうことは、今回みたいなミスをしなくなってから言ってくださいね」

 弥生が澄ました様子でお茶をすする。

「スミマセン……」

 春菜は暗い顔でうつむいた。

「では、本題に入りましょうか」

 弥生は、湯飲み茶碗をテーブルに置くと、まなかのほうへ向き直った。

「土方さん」

「なに?」

「単刀直入に言います。今回、あなたが見たこと全部、きれいさっぱり忘れていただけませんか?」

「え?」

まなかは目を瞬かせる。

「もちろん、ただでとは言いません」

 そう言って、弥生は封筒をスッと差し出した。

「なに、これ?」

「学食の各種デザート食券一年分です」

「え!? ウソ!? すごい!」

 まなかの横で、今度は夏海が目を瞬かせた。

「あなたひとりが騒ぎ立てても、おそらく誰もまともに取り合ってくれないでしょう。ですからこれは、あながち悪い条件ではないはずです。それと、もしお望みなら、リアルなほうをお渡しすることもできますよ?」

 弥生が笑みをうかべて同意を誘う。

「……いらない」

 まなかは悲しみに満ちた表情をうかべ、封筒を押し返した。

「え~、なんで~?」

 夏海が物欲しげに封筒を見つめる。

「私、そういうつもりで来たんじゃないから……」

「では、どういうつもりだったのです? まさか、単なる好奇心とか言うつもりですか? もしそうだと言うのなら、こちらとしても断固とした処置をとらざるをえなくなります。詳細はお話できませんが、私たちはことさら真剣に事に取り組んでいるのです。物見胡散で首を突っ込まれるのは甚だ迷惑なことなのです」

 弥生が真顔でまなかを見つめる。

「そうだよね、迷惑だよね……。確かに好奇心からっていうのもホント。でも、それだけじゃないの。私、鈴木さん……、春菜さんのしたことがすごいなって思って……。穴を開けたとかそっちじゃなくて、人が困っているところに真っ先に駆けつけたこと。私にはそんなことできないから……。だから、そういうことができる春菜さんがどういう人か知りたくて、お話してみたくて、それで……」

 まなかは、そこまで言うと黙ってうつむいた。

「なるほど、そうですか……」

 弥生は背もたれに背中を預けると、大きくため息をついた。

 照れ笑いをうかべる春菜。まなかの肩を抱き、キッと弥生をにらむ夏海。そして、弥生は再び口を開く。

「あなたがたは面白いですね。よい意味で単純。とても興味深いです。わかりました。では、もうひとつ選択肢を提示しましょう」

 弥生はずいと身を乗り出すと、営業スマイル全開で告げた。

「私たちと一緒に戦いませんか?」


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