04
町はルミエラに分け与えられた聖水によって、葡萄や小麦を育て、この長い年月を生きながらえていた。地下水を汲み上げるだけでは、農業を営むには到底間に合わなかったからである。
元々ラーテ川というのは北の森から流れてくる川だが、この土地で干上がってしまい、涸れ川となっていた。草木の生えない不毛の土地だったところを、ルミエラが自分のためにも水の豊かな土地に変えたのである。
これを町の人たちは、経緯は分からないにしても、伝え聞いていたはずだ。ルミエラからの援助が打ち切られるのは、死活問題に直結したろう。
だからこそ、町長は別の収入源を求めて、隣国の金貸しと手を組んだのかもしれない。
それも今までの積み重ねの上にできていた作戦のようだったから、正直お粗末としか言いようがない計画である。
更に金貸しは、町長を動かし最終的に【木】を自分の物にしようとしていた。
全ては、自分たちのために。
人々の思惑を裏切り、【木】は土地を捨てた。彼女からすれば水の問題は些細な話で、小さなオアシスである【森】を支えるだけの水は、地下水で十分補えるのだった。
そうして、とうとう町は一度国に返還され、ベッティーネ伯の領地となった。この通知が届いたのは、城が火事になった日から数えて一週間後のことである。以前から事情を察していた伯爵が、事前に手続きを取っていたらしい。
そんなことが慌ただしく日々を駆け巡ったが、まだメルキオールからの返事はない。
さては丸めこまれたかなと思い始めた頃、オーレリーは夢を見た。
どこかで雫が水面に落ちる音がしたかと思うと、目の奥で紅い光が弾けた。
――オーレリー?
【森】を離れたとき以来、久しく聞いていない声。それは少年の声ではなく、クロエだった。
――聞いてる? 私はもう、【森】から出られないの。あなたがその目を持ってて良かったわ。言伝があるのよ。
獣がそう規制したのだろう。あんな宣言をした以上、町に【森】が関わる訳にはいかないのだから。
――明日、発つって。
誰からと尋ねようとして、目が覚めた。
月明かりが、開いた窓から差しこんで、部屋の中の様子がはっきり見える。まだ朝は遠い、真夜中なのだ。
今のは待ちくたびれたせいで見た夢か、それとも本当なのか。
彼の夢がどうのと言っていたが、クロエが夢にまで干渉できるとは思わなかった。
そう思いながらも、瞼が重くなっていく。
今度は、夢も、見ない。