03
そこで、ふと男に訊いてみた。
「そういや、あんたは誰なんだ?」
ここで、少女の場合と似たような確認作業が行われた。
相手の男も、目隠しをしながら足取りによどみのないオーレリーが気になっていたらしい。
しかし、簡潔な挨拶が済むと、相手は首を傾げた。
「どうした?」
「オーレリーというのは、本名?」
「いや、長い名前もあるけどな」
そう言うと、彼は疑わしげにオーレリーの全身を眺め回したが、すぐに首を振った。
「……何だ? 一体」
またしても訳が分からない。その上、やはりこの問いには答えてもらえなかった。
しかも、明るく。
「ああ、何でもないんだ。知ってる奴かと思ったけど、違ったみたいだなぁ」
見た目に反して、ひょうきんな性格のようである。
「いやな、ちょっと俺の弟がこの町の町長に用があって、ついでに俺も来ちゃったんだが、どうもあの子の話だと、かなりやばい話みたいでさ」
町長の仲間かと一瞬身構えたが、あの子というのがアルシオンだと気づくと、少しだけ肩の力を抜いた。
どういった経緯なのかは、あえてここでは聞かないでおく。
「どうも、あの町長は悪魔に操られているみたいだぜ」
「魔族が?」
少なくとも町長に会ったあの時、彼からは魔の臭いはしなかったように思う。
「……、どうして、そう分かった?」
「あの町長が胸に付けていた赤い石を外した途端、町長の口が裂けた」
何でも、町長が姉を直に手をかけて殺害した上、北の森の獣にその遺体を食わせたことを弾劾したらしい。
そこで、町長はおもむろに胸の石を毟り取り、投げ捨てた。次に、体がめきめきと爪や腕が厚く長く伸び、足も同様だった。服を破り、町長は町長ではなく、異形な生き物になったという。
ある意味お約束の展開ともいえる。
だが、内心オーレリーは感心すらしていた。町長は幽霊から身を守るだけでクロエを捕まえたわけではなく、自身の魔に侵略された体を隠すために、ザクロの石を求めたのだ。
「それで、ここまで逃げてきたってことか?」
「そうそう。町長がアルマって奴のことを口に出したら、あいつ血相を変えて、馬かっぱらってここまで来ちまったわけだよ。あんたはどういうことか、分かるかい?」
少女を信用するとして、アルマが魔族だとすると、町長を操っていたのはあの青い魔術士ということになる。
確かにこの【森】の結界は強固だ。それを破るために少女が必要で、今まで手出ししなかったのではないか?
そこまで考えて、オーレリーは誰かに見られている気がして、辺りを見渡した。
「どうした?」
今度は彼――スタンリーが、不思議そうにオーレリーの顔を覗き込む。
「……ルミエラの言う通り、確かに何かが近づいているみたいだな」
「その、アルマって奴か?」
驚いたようなスタンリーの表情には、まさか本当に何かが追ってくるとは思っていなかったようだ。
それならなぜ少女についてきたのだろう。
「……会ったことはないのか?」
「城にはそんな奴の気配はなかったなぁ」
まるきり他人事の口調である。魔族だと言われても、あまりぴんとこないのだろう。
確かに魔族が出没するのはごく稀なことで、町中に現れることは皆無である。
「それなら、何でここに来たんだ?」
頭痛がしてきたので、理由を聞いてしまうことにした。
が。
「あんたがイルゼだと聞いたんだがなぁ」
悪戯っぽい顔のスタンリーに、オーレリーは勢いよく振り返った。
何だって?
そう尋ねるはずだったが、豪風が二人の話を遮った。
風は二人が走ってきた方から、叩きつけている。受身をとっていなかった二人は吹き飛ばされそうになったが、慌てて両腕を顔の前で交差して、足を踏ん張る。
それでも風に幾分押し流されたが、地面に跡をつけて、吹き飛ばされるのは避けた。
「おい!」
スタンリーが風の向こうから、何かを叫ぶ。
誰かがこの風を起こしているだろうが、姿はまだ見えない。
「何だ!」
風にかき消されないように、オーレリーは怒鳴り返した。
「なぁ、あいつは俺が殺っていいか?」
横目でスタンリーを見ると、オーレリーと同じ体勢で、こちらを横目に見ていた。
あいつって誰のことだろう。
疑問を口に出す前に、更に疾風が迫ってくるのを、ほぼ勘でオーレリーは感じ取っていた。風圧で手を動かすのもままならないはずなのに、片手を伸ばして、掌を風上に向ける。
同時に口の中で唱えていた呪文を、発動させた。
あまりに風が押し寄せてくるのが速過ぎて、掌の前に壁ができるのと、全て薙ぎ倒す風が激突するのは、同時だった。
ばしゅっとかぶしゅっとかいう音がして、風が四散した、ようだった。
スタンリーが風を感じなくなり、そろりと腕を下ろすと、自分とオーレリーの周りだけ、風が避けていた。
「お前、魔術士だったのか」
スタンリーの前で、今は両手を掲げているオーレリーに、呆然と声をかけた。
「その名前を、どこで聞いた?」
質問は、またしても質問で返される。彼の声は、不自然なほど、固い。
「名前?」
「イルゼだ」
短い答えにスタンリーは、ああと自分で言ったことを忘れたように、間の抜けた声を出した。
「イリーズ・ゼドレス・ハフグレン=ディンケラのことか。今のところ、この国一番の賞金首だからなぁ。知らないほうがおかしいぞ」
オーレリーはきょとんとしたスタンリーの方を見ずに、静かに首を振る。
「そうじゃない。よく、その呼称を知ってたな」
スタンリーは、あーと呟いて、軽く頭を掻いた。
「まぁ、俺は賞金首専門で食ってるからな。ある程度情報は持ってるよ」
なるほど、とやはり短い返事が返ってくる。
そして、沈黙。
二人の周りは、耳の奥を激しく振動させる轟音が辺りを蹴散らしている。だから決して静かというわけではないのだが、スタンリーは二人の間に流れる沈黙が、何とはなしに気まずかった。
「なぁ」
「何だ」
「じゃあどうして、あんたはその名前を知ってるんだ?」
「……」
ぎりぎりと耳障りな音を立てて、見えない壁に風が体当たりする。
今壁を消せば、一瞬で切り刻まれるだろう。
オーレリーにとって、こんな壁を作るのは、息をするくらいに自然なことだったが、こんな風がいかにも自分たちを襲ってくるのはおかしい。
「本当に任せていいのか?」
「は?」
「魔族をだ」
質問に答えないまま、逆に質問をする。
スタンリーは躊躇いなく頷いた。それを確認して、オーレリーは一度片手を引くと、拳を握る。力を込めているようには見えないが、真っ直ぐに前に突き出した。
すると、今まで二人の前だけをかばっていた壁が、膨張した。
まるで襲い掛かってくる巨大な獣に、金色に輝く薄布が覆い被さるような、不思議な光景が目の前に広がった。
どうしたらそうなるのか、金色のカーテンに柔らかく包まれると、風はその威力を落としていく。
初めて見る魔法に、スタンリーは何度か目を瞬かせた。
オーレリーは風が沈静化したのを見届けてから、驚いて声が出ない様子のスタンリーを尻目に、跪いて手を地面に置く。
呪文を唱えながら、目を閉じた。
彼はスタンリーから聞いた名前から、この方法を思い出したことを苦々しく感じていた。繋がりというのは、切ってしまいたいのに、しぶとくどこまでも切れそうにない。
スタンリーはいきなり座りこんでしまったオーレリーを、ぼんやりと見るしかなかった。
風に乗って微かに聞こえる言葉は、聞いたことのない言語である。
今まで恐ろしいと言われていた殺人鬼を前にしても、震えなかった膝頭が、あろうことに僅かに震えだした。自分の理解できない未知なる生物を前にしている、奇妙な恐怖感。
その疑問を、頭の中でもみくちゃにする時間はなかった。呪文はそう長く続かなかったのだ。
オーレリーは手の下で土が蠢き、ぼこぼこと地面が盛り上がる。呪文が完成に近づくにつれ、その盛り上がりは彼の指先に沿って先に進み、もぐらが道を作っているようにも見える。
呪文が完成するのと同時に、獣たちの足取りを追うように、一本の道が作られていた。ただ土を掘り返した跡ではなく、綺麗に道として土が固められている。
「お前はこの道を行け」
なぜ、という顔で見るスタンリーに、立ち上がった彼は苦笑した。
「早めに行っておかないと、あの青い奴に全てやられちまうことになる。なにせ、あいつは飛べるだろうしな。
――お前に任せていいんだろう? 自分で言ったことは守れよ」
「ああ、分かってるよ」
そう言って、スタンリーは踵を返し、後ろを振り返らずに走り出した。
オーレリーはその背中が見えなくなるまで見送って、また小さく呪文を唱え始める。
この【森】で呪文が使えるということは、今この【森】は完全に無防備だということだ。その原因は、多分アルシオンだろう。魔法に関するもの全てを解除し、全てを無効にする。この場合は、良かったのか、悪かったのか。
相手はそう彼を待たせなかった。足元がおぼつかないのか、木々の向こう側から聞こえる足音が乱れているが、しっかりとこちらに向かってきている。
周辺の木々は途中から折られているものもあれば、根から半分引き抜かれていたり、木と木が重なって倒れていたりと酷い有様だった。その倒木の間から、小柄な影がふらりと現れる。
「……町長」
彼はたった一人、左足を引きずりながらオーレリーを睨んでいる。そのあまりにみすぼらしい姿に、彼は言葉を失った。
元は立派な仕立てだっただろう服は、見る影もなくずたずたに引き裂かれている。その下に、あちこち不自然に黒く染まった皮膚が見えた。病的なその染みも気になったが、この町に入ったときに見つめられた、あの威厳のある鋭い目線は最早なく、虚ろに濁った瞳がうろうろとしていることに驚いた。彼を魔族が冒していることは分かっていたが、あまりの変わり様に町長だとは思えないほどである。
「よくもやってくれたな……。さすが、お尋ね者にされるだけはある」
一気に十も年老いたように見える町長は、地の底を這う、がらがら声を漏らす。
オーレリーは眉を顰め、そうじゃないと首を振った。
「俺はお尋ね者じゃない。人違いだ」
「じゃあ、その背中の物は何だ!」
弱った体に似合わない一喝を、町長はオーレリーに浴びせた。
そんなことではびくともしないが、誤解は解いてやるべきだろう。
「そうとも。これはフィーラだ。言っておくが、フィーラという物は一本しかないわけじゃないんだぞ」
「何を訳の分からないことを!」
いきり立つ町長の言葉を遮り、オーレリーはきっぱりと言い切った。
「俺はイリーズ・ハフグレン=ディンケラじゃないと言ってるんだ。残念だったな、賞金首じゃなくて。ちゃんと手配書は確認しておいたほうが良いぞ」
たちまち町長の顔がそれでなくても青黒いのに、今にも死にそうな顔つきになる。それでも諦めきれないのか、町長はそんなわけがない、と叫び返した。
「たとえ何本もある物だとしてだ! なんでお前みたいのが、そんな物を持ってるんだ!」
「俺はその資格を持っているからさ」
首を竦めて言う彼に、町長は沸点に到達してしまったらしい。
「ふざけるな! そんな冗談が通じると思っているのか?」
「それが残念ながら、冗談じゃないんだ」
彼は言いながら、背中から荷物を降ろし、手早く布を取り去った。
「いいか、町長。俺が来る前にこの町に旅人が来て、宿屋の主人にこう言ったそうだ。『この町を生かすも殺すも、あなたがた次第だ』とな。これがどういう意味か分かるか?」
まずは長い柄の部分が見えた。
【鬼蛍】とは違い、名匠が施したと分かる意匠が刻まれ、鈍く紅い光を持つ大きな玉が、石突の真上に嵌めこまれている。柄は白光する石でできているようだったが、玉の上からは玉虫色の糸が表面に編みこまれ、口金の部分にも紅い玉と装飾が施されていた。続いて姿を見せた穂は、一般によく使われる平三角形の直槍の形をしている。見るからに実戦ではなく、祭典用である。
「あんたが何をしたいかなんて、知ったことじゃないがな。仮にも町長なんだから、やって良いことと悪いことの区別はつけろ。魔族に町を売ったりなんかするな!」
「魔族……?」
聞き慣れない単語を耳にしたように、町長は顔を歪めた。
「……アルマは、魔族だよ」
その表情は、とても嘘をついているようには見えない。それでも確認するために尋ねると、魔族なんて見たことがないという。
スタンリーの話だと、町長は変身までしたはずだが、本人が気づいていないなんてことがあるのだろうか。
「記憶がないことが、確かに何度かあったが……」
「それなら、考えればいい。あんたは、どうしてルミエラを食った」
「命が欲しかったからだ」
先程までの戸惑いはどこに行ったのか、打てば響くように返事が返ってきた。
町長は淡々と続ける。
「ルミエラは永遠の娘だ。いつ見ても変わらない、不変の娘。わたしは、いつまでも変わらぬ命が欲しかったのだ」
「……」
「だからアルマの言う通り、あの娘の肉を食べた。それが、この様だ……」
町長は惨めな自分の姿を見下ろし、力なく笑った。
その後、町長は体調を崩し、命も危ない状態にまで陥ったという。そこでアルマが【森】の入り口にあるザクロの実を食べるといい、と助言したらしい。さすがに疑ったが、死ぬわけにはいかない。縋る思いで部下に採ってこさせ、食べたところ、体調がたちまち良くなったようだ。
それからアルマの信頼は復活し、何やら色々施術してもらったらしいが、町長の口が回らなくなってきて、聞き取ることはできなかった。
「つまり、肉体を改造されたというわけだな。自業自得だろう」
オーレリーは蔑みが混じった口調で、町長を突き放した。
大方そんなことだろうと考えた通りだったことに、呆れ返る。
町長は聞いているのか、大きく肩で息をしていた。膝頭がぶるぶると震えている。
「……は、信念の……に」
声が潰れて聞こえるのは、気のせいだろうか。
「何?」
「わたしは……、ために……はない」
独り言だろうか。
しかし、どうも様子がおかしい。こちらまで息を吐く音が聞こえるし、血走った目を限界まで開ききり、瞬きもしない。
変化はすぐに訪れた。スタンリーが言っていた通り、口が先ず裂けた。頭を大きくのけぞらし、大きく深呼吸する。その吐いた息に、今までになかった、生臭い臭気がこちらまで届く。
町長が、人ではなくなる、瞬間。
全身の筋肉が異常なまでに盛り上がり、服を更に引き千切っていく。手と足の爪も同様に長く伸びて、鋭利な刃物になった。
顔は目と口が強調され、舌も長く伸びたのか、だらしなくだらりと口の端から覗かせて唾液を滴らせている。皮膚は真っ黒に染まり、じっとりとぬめっているのが遠目でも分かった。
無理な変化がたたってか、あちこちから血が流れている。
化け物と言えばそうだが、不完全なそれはあまりに、無様だ。
まだ口をぱくぱくとさせて何かを言っているようだったが、オーレリーにはもう聞く気もない。
怪物もどきは、今度は背を反らして頭を振るように仰け反らせると、大きく息を吸ったようだった。
オーレリーはそれを見て、皮肉そうに歪めていた顔を引き締める。
槍を相手に突き出すのと、怪物もどきが顔を戻すのは、ほぼ同時だった。
赤子が泣き叫ぶ、耳に劈くような悲鳴と共に、爆風がオーレリーを襲う。
さっきよりも、更に強い風だった。風より厄介なのは、鼓膜に直接刺激を与える絶叫で、びりびりと振動を振り撒く。周囲の被害も拡大し、槍を構えたオーレリーも、地面に轍を作り腰を低くした体勢でなんとか耐えている。
怪物もどきから、放射状に地面がめくりあがるのが見えた。
高速で唱えた呪文の、完成間近。
耳が限界に達する前。最期の一声を張り上げる直前に、第二波が押し寄せ、足を取られてしまう。
「!!」
体勢を崩したオーレリーは、風に体をすくいあげられ、吹き飛ばされた。
一瞬のことだったが、目の端に捉えた町長の姿を目標に、呪を解き放つ!
その術がどうなったかを見届けることなく、オーレリーの体は風にもみくちゃにされながら、まだ折れていない木に背中から激突するまで飛ばされた。
受身が取れるはずもなく、背中を打ちつけた途端、目の前が真っ暗になり、息ができなくなる。
地面にずり落ち、息ができるようになる頃には、風はやみ、あの不快な声もやんでいた。
顔だけ上げてみたが、町長らしき姿はどこにもない。
彼はまだ衝撃を吸収しきれていない自分の体を叱咤して、立ち上がった。吹き飛ばされながらも自分に張った結界のおかげで、背骨を折らずに済んだのである。
かなりの距離を移動してしまっていて、どうも力が入らず膝が笑っていたが、気力で走った。
足の踏み場もないほど散乱した木を跨ぎ、掘り返された地面に足を取られながらも、なんとか町長の所まで辿り着く。
そこには、見上げるほどの緑の柱が立っていた。中央には頭を垂れた町長が、磔になっている。
緑の柱は、蔓が幾重に絡まってできたもので、がっちりと町長の両手両足を固めていた。
姿は人の形に戻っているが、町長はぴくりとも動かない。まさか度重なる変身に体が耐え切れず、死んでしまったのだろうか。
出血が激しい様子はないのだが、力なく蔓に巻きつかれている状態は、瀕死の危機に見える。
そう考えて間近まで近寄ってみると、囁きに近い声が聞こえてきたのに、息を止めた。
「お前は、何しに来たんだ……」
「くだないことを聞いてくれるなよ……俺は【生命の木】に用があるのさ」
「【木】か……」
俯いたままなのでその表情は分からないが、声は少し笑ったようだった。
「この町は、……ずっと【木】に狂わされ続けるわけだ。わたしの力も、ここまでだな……」
確実に独白であることは分かっていたが、口を挟まずにいられない。
「それは思い上がりだ。あんたはあんたの力だけで、町長までのし上がったわけじゃないだろう?」
「……」
黙ってしまった町長の胸に、オーレリーは槍の穂先を押しつけた。
「良かったな、俺が本物のイルゼじゃなくて。もしそうだったら、今頃あんたはとうに死んでいるだろうよ」
全く反応のない町長に苛立ちを覚える。このまま終わりにしてしまったら、犠牲になり、幽霊になってまで町長を追い掛け回したクーア=パチルは納得しないのではないか。そんな一抹の迷いを振り切るように、槍に力を込めた。
「これが【浄化】のフィーラであんたは幸せだよ。化け物としてではなく、人間として死ねるからな」
ようやく、町長が死ねる、という辺りで反応を見せた。胸に付くほど垂れた頭を半分まで持ち上げ、憎しみの込められた目でオーレリーを見る。
「お前さえ来なければ、うまくいったのに……!」
それが本音か、と静かに呟いた声は、虚空で掻き消えた。