EP 3
廃棄弁当で餌付けした人魚姫に、家賃要員としてシェアハウスへ連行される件
ルナミス帝国の緑豊かな公園。
そのベンチで、絶世の美少女(人魚姫)リーザは、鳩と死闘の末に勝ち取ったパンの切れ端と豆を、実に幸せそうにモグモグと頬張っていた。
「はぁ……美味しいですぅ。やっぱり鳩の餌より、人間様が落としたパンの方が味がしっかりしてますね」
「……お前、それ本当にアイドルか?」
隣に座った優也は、呆れ半分、感心半分でその逞しすぎる姿を眺めていた。
異世界に来て数十分。状況は相変わらずカオスだが、とりあえず腹が減った。期間工の夜勤明けと同じくらい、胃袋がエネルギーを求めている。
「さて……スキルを見るか。俺も腹が減ったしな」
優也は空中に浮かぶ半透明のスキルボードを操作した。
現在、鳩からリーザを救った(?)ことで得たポイントは『1000p』。
検索窓のような部分に「弁当」と念じると、ズラリとリストが表示された。
『消費期限切れ10分前・唐揚げ弁当(大手コンビニ廃棄品):消費ポイント 5p』
『型落ち・保温機能付き魔法瓶(麦茶入り):消費ポイント 3p』
「おっ、すげぇな。本当にコンビニの廃棄弁当が出せるのか。しかもたった5ポイント……」
優也が決定ボタンをタップした瞬間。
ポンッ、という軽い音と共に、優也の手の上に「見慣れたビニール袋に入った唐揚げ弁当」と「割り箸」、そして「おしぼり」が出現した。
その瞬間だった。
「ひぇっ!? お、お肉……っ!?」
隣に座っていたリーザが、弾かれたように顔を上げた。
ほんのりと温かい弁当箱から漏れ出す、ニンニクと醤油が焦げたようなジャンクで暴力的な唐揚げの匂い。
長年、パンの耳と公園の雑草サラダで命を繋いできたリーザの野生の勘が、完全にその匂いをロックオンした。
ギュルルルルルルルルッ!!
リーザのほっそりとした腹の底から、S級魔獣の咆哮のような凄まじい音が鳴り響いた。
「…………」
「あ、あはは……鳩と戦ったら、少しお腹が空いちゃったみたいですぅ……(じゅるり)」
口元から一筋のヨダレを垂らしながら、弁当に釘付けになっている人魚姫。
そのあまりに悲惨で純粋な瞳に見つめられ、優也は短くため息をついた。
「……仕方ないな」
優也は再びスキルボードを操作し、もう一つ『唐揚げ弁当(5p)』を召喚した。
「ほらよ、リーザ。食え」
「あ、ありがとうございますぅぅっ! 優也様ぁぁぁっ!!」
もはや「様」付けである。
リーザはひったくるように弁当を受け取ると、蓋を開けるなり、割り箸を割るのももどかしく唐揚げに齧り付いた。
「んんっ! 美味ひぃっ! お肉から肉汁が……っ! こんな温かくて美味しいお肉、いつ以来でしょうかぁぁっ!」
涙をポロポロと流しながら唐揚げをガツガツと貪り食うリーザ。
その横で、優也も自分の弁当を開け、唐揚げを口に放り込んだ。
「うん、普通のコンビニ弁当だな。美味い」
期間工時代、疲れ果てて寮に帰った時によく食べていた味だ。異世界で食べると、ジャンクな脂が妙に体に染み渡る。
「さてと……これからどうするべきか。当面の飯はどうにかなるとして、泊まる所とか、拠点を探さないとな」
優也が顎をさすりながら独り言を呟いた、その時だった。
唐揚げを飲み込んだリーザの瞳の奥で、**「強欲」**という名のルナミス帝国のネオンサインがピカッと点灯した。
(……!! この優也様というお方、何もない空間から温かいお弁当を無限に出せる神様!? しかも寝床を探している!? これはお近づきになれば、食費が永遠にタダになるのでは……!?)
リーザは唐揚げの油でテカテカになった唇を拭い、アイドルスマイル(営業用)を全開にして身を乗り出した。
「はいはいっ! 優也様! 私が住んでいるシェアハウスマンションに、ちょうど一つ空き部屋がありますっ!」
「シェアハウスマンション? アナステシアにそんなもんがあるのか」
「はいっ! 家賃は1人あたり月3万円の4LDKです! 私の他に、キャルルちゃんっていう兎の獣人さんと、ルナちゃんっていうエルフの女の子が居ますけど……私が『命の恩人です!』って言えば絶対大丈夫です!」
「いや、ちょっと待て。キャルルにルナ? 女性ばかりのマンションに、今日会ったばかりの俺(男)が住んで良いわけないだろ。警戒されるって」
至極真っ当な優也のツッコミ。しかし、リーザの頭の中はすでに「唐揚げ弁当」と「月末の家賃滞納からの解放」で一杯だった。
「構いませんっ! 優也様が住んでくだされば、私の家賃も優也様が払ってくれてゲフンゲフンッ!!」
「……え? お前、今なんて」
「い、いえっ! 困っている方がいたら全力で助けるのが、世界を救うアイドルの使命ですからっ!(キリッ)」
リーザは誤魔化すように空を指差し、ビシッとウインクを決めた。
家賃を肩代わりさせようとする下心が完全に漏れていたが、優也は「まあ、スラムの安宿で身包み剥がされるよりは、ツテがあった方が安全か」と現実的な計算を巡らせた。
「……まぁ、家賃3万なら安いしな。とりあえず挨拶だけでもさせてくれるか? 断られたら別の宿を探すし」
「お任せ下さいっ! 私がバッチリ交渉してみせますぅ!」
(よっしゃああああっ! これで今日からパンの耳と雑草生活からおさらばですぅぅっ!!)
心の中でガッツポーズを決めるリーザ。
こうして高木優也は、底辺人魚姫に手を引かれ、やがてルナミス帝国を揺るがすことになる「カオスな女たちのシェアハウス」へと足を踏み入れることになったのである。




