EP 2
路地裏に落ちて、公園で鳩と戦う美少女(人魚)を救ったら1000ポイント貰えた件
「イッテエッ……!」
ドスッ、という鈍い音と共に、優也は硬いアスファルトの上に転がった。
柔道で培った受け身が咄嗟に出たおかげで骨折は免れたが、尻には確実にルチアナの健康サンダルの跡が刻まれているだろう。
「はぁ……はぁ……ここは?」
優也は痛む腰をさすりながら立ち上がり、辺りを見渡した。
薄暗い路地裏を抜けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「……マジかよ」
煌びやかなネオンサイン。コンクリートのビル群。そこら中を走る、角の生えた巨大な牛が引くバス。
そして何より――道を歩いているのは、スマホでQR決済をしている犬耳のサラリーマンや、クレープをかじる猫耳の女子高生、そしてスーツを着こなしたエルフたちだった。
「犬耳や猫耳の人やエルフが居る。これがアナステシア……って、なんで100均やファミレスの看板があるんだよ」
日本の見慣れた景色と、ゴリゴリのファンタジーが交通事故を起こしたような街並み。これが、かつての転生者・佐藤太郎が作り上げた「ルナミス帝国」の姿である。
「まあいい。海外のヤバいスラムに放り出されるよりはマシだ。とりあえず状況把握だ。え〜と……『リサイクルマスター』」
優也がスキル名を呟くと、目の前の空間に半透明のスキルボードがふわりと浮かび上がった。
『保有ポイント:0 p』
『※スキルを使用したければ、善行を積んでポイントを稼ぎましょう』
「おぉ、出た出た。何々……0pか。なるほど、良い事をしないとゴミすら出せないってわけか」
MMAの試合でも、期間工の現場でも、まずはルールと環境の把握が命だ。
優也はバックパックを背負い直し、ポイントを稼ぐ手段を探すべく、ルナミス帝国の街を歩き始めた。
しばらく歩くと、緑豊かな大きな公園に辿り着いた。
のどかな昼下がり。ベンチで休む獣人たち。平和な光景だ。
――ただ一箇所、激しい『生存競争』が繰り広げられている場所を除いては。
「クルックー! クルッ、クルックー!!」
「イタタタッ! 痛い、突っつかないで! 良いじゃないですか、私だってお腹空いてるんですぅぅっ!」
優也は目を疑った。
公園の広場の中央で、どう見ても絶世の美少女(ただし服は少しボロボロ)が、数十羽の鳩とマジの殴り合い(奪い合い)をしていたのだ。
青みがかった美しい髪を振り乱し、彼女――人魚姫のリーザは、地面に落ちたパンの耳や豆を巡って、鳩の群れと熾烈な縄張り争いを繰り広げている。
「な、なんだアレは……?」
あまりの光景に、数々の修羅場を潜り抜けてきた優也すら足が止まる。
そこに、のんびりとした足取りで「餌やりおじさん(ドワーフ)」がやってきた。
「ほらほら、お前たち喧嘩しないの。今日は大盤振る舞いじゃぞ〜」
バサァッ!
おじさんが袋から大量の鳩の餌(パンの切れ端や穀物)をばら撒いた。
「クルックー!!(威嚇)」
鳩たちが一斉に群がる中、リーザは負けじと四つん這いになり、鳩の群れに突っ込んだ。
「クルックー!!(私にもください!!)」
もはや鳩の鳴き真似をして同化しようとするリーザ。その悲壮な姿は、アイドルの欠片もなかった。
「……えぇっと、だから……」
見かねた優也は、思わずため息をつきながら歩み寄った。
そして、鳩の群れをヒョイヒョイと避け、地面に落ちる直前の比較的綺麗なパンの切れ端を空中でキャッチし、四つん這いで涙目になっているリーザの目の前に差し出した。
「ほら。これ、食うか?」
「……えっ?」
リーザは顔を上げ、優也と、その手に握られたパンの切れ端を交互に見た。
次の瞬間、彼女の瞳に星が輝いた。
「餌あああああっ!! ありがとうございますぅぅっ! 命の恩人ですぅぅ!!」
リーザは優也の手からパンを両手で受け取ると、神様を拝むような勢いで頭を下げ、大事そうに齧り始めた。
その瞬間。
ピローン♪という軽快な電子音が優也の脳内に響いた。
『システム:善行を確認しました。人命救助(餓死寸前の人魚の救済)により、1000 p をプラスします。』
『現在の保有ポイント:1000 p』
優也は、目の前でパンの耳をモグモグと頬張る美少女と、空中に浮かぶ「1000p」の文字を交互に見比べた。
「……こんなんで良いのかよ!!」
南米の格闘技道場を目指していた男の、異世界での記念すべき初ポイントは、公園で鳩と争う底辺アイドル(人魚)にパンの耳を恵むことで獲得されたのだった。




