EP 8
狂信者(タダ働き)を使った超速DIY! 難攻不落の『要塞村ポポロ』爆誕
「オラァッ! 手ェ動かせお前ら! 堀の深さは最低3メートルだ! 掘り出した土は防壁の内側に盛って、土塁を作れ!」
「「「イエッサー!! 姉御のためにぃぃぃッ!!」」」
ポポロ村の防壁の外側では、異様な光景が広がっていた。
昨日まで村を略奪しようとしていた100人のハグレ兵や野盗たちが、上半身裸になり、汗と泥にまみれながらツルハシやスコップを振るっているのだ。
彼らの顔に疲労の色はない。あるのは、次回の満月の夜にキャルルから与えられる『極上のご褒美(物理と回復の無限地獄)』への狂信的な期待だけである。
「よしよし、いい動きだ。お前ら、地球の派遣バイトよりよっぽど優秀じゃねぇか」
優也は、魔石ハイブリッド・ディーゼルエンジンが唸りを上げるユンボ(油圧ショベル)の運転席から、満足げにタクト(操作レバー)を振っていた。
ガシャン! とアームを伸ばし、硬い岩盤や木の根が邪魔な部分だけをユンボのバケット(爪)で正確にえぐり取る。そして、細かな土砂の運搬や地固めは100人の狂信者たちに『人海戦術』でやらせる。
重機の圧倒的なパワーと、100人の洗脳済みマンパワーの完璧な融合。
たった数時間で、ポポロ村の周囲には、魔獣はおろか正規軍の騎兵ですら突破不可能な『V字型の深い空堀』と、丸太の壁を補強する『強固な土塁』が完成しつつあった。
「……信じられないわ」
その様子を、村長室(元・ポポロ村の長老の家)の窓からそっと覗き見ながら、キャルルが胃薬(陽薬草)をボリボリと齧っていた。
「私のやらかしで生まれた被害者(野盗)たちが、あんなキラキラした目でドブ浚いをしてるなんて……。っていうか、なんで私、『キャルル村長』って書かれたタスキを掛けられてるのよぉ!」
キャルルは、優也がどこからか召喚した『本日の主役』的な赤いタスキをかなぐり捨てようとした。
「諦めなさいキャルルちゃん。これも立派な村起こしよ」
「アンタのせいだからねルナちゃん!? アンタがハッピードリームとかいうヤバい葉っぱで役人を追い返したから、こんな防衛戦(土木工事)をするハメになったんでしょ!」
「あら、そうだったかしら♡」
ルナはどこ吹く風で、優雅に紅茶を飲んでいる。
「……お姉様方、そんなところでサボっていないで、私を手伝ってくださいぃ!」
バンッ! と村長室のドアが開き、リーザが大量のペットボトル(優也がポイントで召喚した空容器)と、大きな寸胴鍋を抱えて転がり込んできた。
寸胴鍋の中には、ポポロ村の井戸水に『太陽芋の葉っぱ』を煮出して作った、謎の冷やしハーブティーがなみなみと入っている。
「リーザちゃん? あんた、そのお茶どうするの?」
「決まってるじゃないですかぁ! 炎天下でタダ働きしているお兄さんたち(狂信者)に、『キャルル村長公認・特製エナジードリンク』として、一杯500円で売りつけるんですぅぅっ!」
「あんたって子は!!」
キャルルがツッコミを入れるが、リーザの守銭奴モードは止まらない。
「材料費ゼロ! 容器代ゼロ! 労働者たちは、昨夜私が回収しそびれた小銭をまだポケットに隠し持っているはずですぅ! 今こそ、村の経済(私の胃袋)を回す時ですぅぅっ!」
リーザは首から「ポポロ村公式グッズ販売所」という段ボールの看板をぶら下げ、外へと飛び出していった。
数分後、外からは「姉御の特製ドリンクだぁぁっ!」「500円!? 安い! 10杯くれぇぇっ!」という狂信者たちの怒号と、チャリンチャリンという硬貨の音が響き渡ってきた。
「……もう、この村の道徳観念、完全に終わってるわ」
キャルルは窓枠に突っ伏して、深いため息をついた。
かくして。
優也のブラックな現場監督ぶりと、リーザの悪徳商法がフル回転した結果、その日の夕方にはポポロ村の『要塞化DIY』が完了した。
「よし、本日の業務は終了だ! お前ら、よくやった!」
優也がユンボのエンジンを切り、拡声器(ポイント消費:10p)で叫ぶ。
「「「ウオォォォォォォォォォッ!!」」」
夕日に照らされた要塞村の完成を前に、泥だらけの狂信者たちが涙を流して歓喜の雄叫びを上げた。
かつての限界集落は、見る影もなかった。
高さ4メートルの強固な丸太の防壁。その外側には幅3メートル・深さ3メートルの空堀。村の入り口には、優也が『玉掛』の資格とユンボのウインチ機能を使って組み上げた、跳ね上げ式の頑丈な大門がそびえ立っている。
それはファンタジーの村というより、近代戦に特化した『前哨基地(FOB)』そのものだった。
「す、すげぇ……。これなら、タイガの野郎が正規軍を連れてきても絶対に破られねぇぞ……!」
村の長老が、震える手で防壁を撫でて男泣きしている。
「ふぅ。まぁ、土木工事はこんなもんか。あとは……飯の問題だな」
優也は首のタオルで汗を拭いながら、村の内側に広がる畑へと目を向けた。
今朝、エルフの王女・ルナが『世界樹の杖』から莫大な魔力を放出していた場所だ。
水路が復旧し、水が行き渡った大地に、エルフの規格外の自然魔法が注ぎ込まれた結果。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ。
「……ん? なんか、地面が揺れてねぇか?」
優也が足元の異変に気づいた。地震ではない。地面の下から、何かが『膨張』して押し上げてくるような、不気味な震動だ。
「きゃあああああっ!? 優也様ぁぁっ!」
売上金を数えていたリーザが、悲鳴を上げて逃げてきた。
その背後、ポポロ村の畑の土が、火山のようにドーム状に盛り上がり――。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
鼓膜を突き破るような、100デシベル超えの凄まじい絶叫と共に、地面から『それ』が飛び出した。
「な、なんだアレは!?」
優也が思わず鉄パイプを構える。
それは、人間の子供ほどの大きさがある、手足の生えた巨大なオレンジ色の物体。
マンルシア大陸に生息する、引き抜くと悲鳴を上げて逃げ出すという根菜――『人参マンドラ』である。
しかし、通常の人参マンドラはせいぜい大根サイズのはずだ。目の前を猛スピードで走り抜けていくそれは、どう見ても大型犬以上のサイズにまで巨大化(突然変異)していた。
「あははっ! 元気な子が育ったわねぇ♡」
ルナが、村長室の窓から満面の笑みで手を振っている。
「ギャァァァァァッ!!」
「ブオォォォォンッ!!」
巨大化した人参マンドラだけではない。
畑のあちこちから、家を押し潰すほどに巨大化した『ハニーかぼちゃ』がズズンッと実を結び、不用意に近づいた狂信者たちのズボンを強制的に脱がす『ダイズラ豆』が、機関銃のように豆のサヤを振り乱していた。
「お、俺のズボンがぁぁっ!?」
「ひぃぃっ! 人参が噛み付いてきたぁぁっ!」
悲鳴を上げて逃げ惑う狂信者と村人たち。
「おいルナァァァッ!! てめぇ、畑にどんな魔法をかけやがったァァァッ!!」
優也の怒号が、要塞村に響き渡る。
外敵からの完全防衛を成し遂げた要塞村ポポロは、その日の夕方、エルフの王女が引き起こした『規格外の巨大野菜パニック(内なるバイオハザード)』によって、別の意味で壊滅の危機に瀕するのであった。




