EP 7
アメとムチの無限地獄。全回復&強制労働による『狂信者』獲得と初代村長の誕生
ポポロ村の防壁の外で繰り広げられた、キャルルによる「暴行→完全回復→暴行」の無限ループは、空が白み始めるまで続いた。
初めは「ひぃぃ! 助けてくれぇ!」と泣き叫んでいたハグレ兵や野盗たちだったが、深夜を回る頃には、その悲鳴の質が明らかに変わってきていた。
「あべばぁぁッ! ……あ、治った。ふぉぉぉ……あったけぇ光……き、きもてぃぃ……ッ!」
「姉御! もっと! もっと蹴って下せぇ! そして私を治して下せぇぇっ!」
満月の癒やしの力は、疲労も痛みも全てをリセットし、極上の多幸感を脳髄に直接叩き込む。
極限の恐怖と骨が砕ける痛みの直後に与えられる、神の如き慈悲と快感。その異常すぎる落差の連続は、野盗たちの脳内麻薬をドバドバと分泌させ、彼らの精神構造を完全に破壊――いや、再構築してしまったのだ。
「あははははっ! アンタたち、タフで良いおもちゃねぇ! ほら、100本目の回し蹴りよォ!♡」
「「「ありがとうございますぅぅぅぅッ!!」」」
ドゴォォォォォォォォンッ!!
防壁の上からその狂気の大宴会を見下ろしていた優也は、手に持っていた缶コーヒーの味が全くしなくなっていることに気づいた。
「……完全に『宗教』が誕生しちまったな。異世界こえぇ」
期間工時代に見たどんなブラック現場よりも、今のポポロ村の門前の方がよっぽどブラック(かつハッピー)だった。
やがて、東の空から朝日が顔を出し、夜空から満月がスッと姿を消した。
「……あれ?」
その瞬間、キャルルの全身から立ち上っていた紫色の闘気が霧散した。
限界まで収縮していた瞳孔が元に戻り、いつもの優しくて常識的な光が瞳に宿る。
「私……なんでこんなところで、息切らしてるの? ……っていうか、この人たち誰!?」
正気に戻ったキャルルは、自分の足元を見て悲鳴を上げた。
そこには、ボロボロに引き裂かれた鎧を身にまといながらも、なぜか『傷一つないピカピカの笑顔』を浮かべた屈強な男たち100人が、綺麗に正座をして並んでいたのだ。
「あ、姉御ォォォッ!!」
魔族のハグレ兵のリーダーが、涙と鼻水を撒き散らしながら、ズサーッとキャルルの足元に額を擦り付けた。
「昨夜のご熱い指導、身に染みましたぁぁっ!! 我々のようなクズ共の骨を砕き、そして慈悲の光で癒やしてくださるなんて……! あなた様は、神だ! いや、女神だぁぁっ!!」
「「「姉御ォォォッ!! 一生ついていきますぅぅぅッ!!」」」
100人の男たちが、一糸乱れぬ動きでキャルルに向かって土下座をした。
その異様な光景に、キャルルはウサギ耳をパニック状態にバタバタと振るわせた。
「ひぃぃっ!? な、なにこれ!? 気持ち悪いっ! 私、また満月でやらかしたの!?」
「その通りだ。お前、完全にこいつらの教祖様になっちまってるぞ」
防壁の門がギギーッと開き、ヘルメットを被った優也が歩み出てきた。その後ろには、恐怖と尊敬で顔をクシャクシャにした村長たちも続いている。
「兎の女神様じゃ……! 100人の軍勢をたった一人で降伏(洗脳)させるなんて……!」
「俺たちのポポロ村を救ってくださった、村長じゃあぁぁっ!」
野盗たちだけでなく、村人たちまでもがキャルルに向かってひれ伏し始めた。
「そ、村長ぉ!? 待って、私そんなガラじゃないし、そもそも……っ!」
「おい、お前ら」
パニックになるキャルルを遮るように、優也が野盗たちに向かって低く凄みのある声をかけた。
「姉御に一生ついていくってのは、口だけじゃねぇよな?」
「「「おうともよ!! 姉御のためなら火の中水の中、何万回蹴り飛ばされても本望でさぁ!!」」」
完全に調教完了しているハグレ兵たちを見て、優也はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「よし。俺は姉御の専属現場監督だ。お前ら100人の溢れんばかりの忠誠心、俺が丸ごと受け取ってやる」
優也は親指で、村の中に停めてある鉄の獣を指し示した。
「お前ら、今日からポポロ村の『復興特別作業員(タダ働き)』だ。村の防壁強化、水路の拡張、そして瓦礫の撤去を死ぬ気でやれ。給料はもちろんゼロだ。……だが、真面目に働けば、次の満月の夜に、姉御から『極上のご褒美(蹴りと回復の光)』がもらえるかもしれねぇぞ?」
「「「うおおおおおおおおっ!!! 働かせてくだせぇぇぇぇっ!! 姉御のために、俺たちの命(労働力)を使ってくだせぇぇぇっ!!」」」
給料ゼロの過酷な土木作業を宣告されたというのに、野盗たちは狂喜乱舞し、血走った目で村の中へと突撃していった。
地球のブラック企業も真っ青の、圧倒的な『やりがい搾取(狂信)』システムが完成した瞬間である。
「ちょっと優也君! なんで私がご褒美あげることになってるのよ!?」
「いいじゃねぇか。100人分のタダの労働力が手に入ったんだ。これで俺のユンボの負担も減るし、村の要塞化が一気に進む」
優也が笑っている足元で、チャリンチャリンと金属音が響いた。
「ふへへ……。ボロボロの剣に、割れた盾……これ全部、鉄屑としてドワーフの工房に売れば……ルナミスデパートの地下惣菜が食べ放題ですぅぅ……♡」
リーザが、野盗たちが放り出した装備品を百均のレジ袋に狂ったように回収していた。彼女のハイエナ根性は、もはやブレることを知らない。
「ふぁぁ……。あら、ずいぶんと騒がしい朝ね」
そこへ、可愛らしいパジャマ姿のルナが、目をこすりながら村長の家から出てきた。
エルフの王女は、夜通し行われていた大殺戮(と全回復)の宴に全く気づかず、ぐっすりと熟睡していたらしい。
「あ、ルナちゃんおはよう。……はぁ、もう疲れたわ。私、ルナミスに帰りたい……」
キャルルがゲッソリと頬をこけて呟いた。
「だーめよ、キャルルさん。だってポポロ村は、今日から『キャルル村長』の村ですもの♡ さぁ、私も農業担当として、村の皆様に美味しいお野菜のジャングルをプレゼントしなきゃ!」
ルナがウインクと共に『世界樹の杖』を構えた。
「おい待て、ルナ! お前が本気出したら生態系が――」
優也が止める間もなく、杖の先端から莫大な緑色の魔力が、ポポロ村の干上がった畑に向けて放出された。
ポポロ村の防衛戦は、キャルルという最凶の兵器によってノーダメージ(野盗の精神的ダメージを除く)で終結した。
だが、彼らはまだ気づいていなかった。
エルフの王女の『善意』が、ハグレ兵の襲撃よりも遥かに恐ろしい『バイオハザード』を引き起こすことに。
いよいよ次回、ポポロ村は巨大野菜に飲み込まれる!




