EP 6
マッハ1の暴力! 兎耳の極道が織りなす『アメとムチの無限地獄』
ポポロ村の防壁の外。
三国から逃げ出したハグレ兵と野盗の連合軍、約100人は、松明を掲げながらゲラゲラと下劣な笑い声を上げていた。
「ヒャハハハ! 限界集落だって聞いてたが、随分と立派な丸太の壁を作りやがって!」
「おいおい、防壁の前に誰か立ってるぜ? ……なんだぁ? 兎耳の女じゃねぇか!」
先頭に立っていた魔族の脱走兵が、月明かりの下にポツンと立つキャルルを見て、下卑た笑いを浮かべた。
「おいウサギちゃん! 震えて声も出ねぇか? 大人しく門を開けりゃ、命だけは――」
「――あはっ♡」
キャルルが、耳まで裂けんばかりの『極道の笑顔』を浮かべた。
その瞬間。
ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!
野盗たちの鼓膜が破れんばかりの轟音が炸裂した。
魔族の兵士が瞬きをした、わずか0.1秒後。
彼の視界から兎耳の少女の姿は完全に消え失せ、代わりに――自分の胸当て(鋼鉄製)が、内側にベコォッとひしゃげる感触を味わっていた。
「……え?」
「月影流――『鐘打ち』ッ!!」
ガギィィィィンッ!!
キャルルの特注靴によるマッハ1の回し蹴りが、魔族の兵士の胴体を真横から完璧に薙ぎ払った。
「あべぇぇぇぇぇっ!?」
人間離れした悲鳴を上げ、体重100キロを超える巨体が、後続の兵士たちをボウリングのピンのように巻き込みながら数十メートルも吹き飛んでいく。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
「見えねぇ! 速すぎるッ!!」
混乱に陥る野盗連合。
だが、キャルルの暴力の宴はまだ始まったばかりだった。
「あはははははっ! 遅い遅い遅ォォォォいッ!! 止まって見えるわよ、アンタたち!!」
紫色の闘気を全身から立ち昇らせたキャルルは、100人の軍勢のど真ん中を『音速のピンボール』のように跳ね回り始めた。
「月影流――『乱れ鐘打ち』ッ!!」
ドガッ! ゴキャッ! メキベキィッ!!
剣を振り下ろそうとした人間国ハグレ兵の腕が、関節とは逆の方向にへし折れる。
盾を構えた獣人兵の盾ごと、その顔面が蹴り砕かれる。
キャルルの蹴りが空を切るたびに、カマイタチのような真空波が発生し、野盗たちの粗悪な武装を紙切れのように切り裂いていく。
「ひ、ひぃぃぃぃっ! ば、化け物だぁぁぁっ!」
「逃げろ! 殺される! このウサギ、笑いながら骨を折ってきやがるぅぅっ!」
完全に戦意を喪失し、武器を放り出して背を向ける野盗たち。
だが、満月の光を浴びて『無限の闘争本能』がガンギマリ状態のキャルルが、おもちゃの逃走を許すはずもなかった。
「逃・が・さ・な・い・わ・よォ?♡」
キャルルはクラウチングスタートの姿勢を取ると、特注の靴に仕込まれた『雷竜石』を全解放した。
紫電の雷光がバチバチと彼女の脚を包み込む。
「喰らいなさい! 『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』ッッッ!!」
落雷のような轟音と共に、空高く跳躍したキャルルが、逃げ惑う野盗のど真ん中へと隕石のように急降下した。
チュドォォォォォォォォォォォンッ!!!
約33,750ジュールという、対物ライフル弾すら凌駕する物理的運動エネルギーが大地に激突。
凄まじいクレーターが穿たれ、周囲の数十人が爆風で宙を舞い、白目を剥いて地面に叩きつけられた。
戦闘開始から、わずか3分。
100人いた野盗連合は、たった一人の兎耳の少女によって、全員が手足を折られ、全身打撲で地面を這いずり回る『半死半生の肉塊』へと成り果てていた。
「うぅぅ……。い、痛てぇ……」
「た、助けて……悪かった、もう来ねぇから……」
血と泥にまみれ、命乞いをする野盗たち。
「あーあ。もう終わりぃ? つまんないの」
キャルルは不満そうに頬を膨らませた。しかし、ふと夜空に浮かぶ『満月』を見上げると、彼女の極道の笑みがさらに深く、ねっとりとしたものに変わった。
「そうだ。……私、お月様の力で『回復』できるんだったわ♡」
キャルルは両手を広げ、月兎族の真骨頂である癒やしの波動を広場一帯に放射した。
温かく、神々しい銀色の光が、地面で呻く100人の野盗たちを包み込む。
「あ……あれ? 痛みが……消えた?」
「折れた骨が治ってる! すげぇ、傷一つねぇぞ!」
奇跡の全回復。
野盗たちは自分の体を見つめ、歓喜の声を上げた。命が助かったのだ。このウサギのバケモノは、最後には慈悲を見せてくれたのだと――。
「あははははっ! よかったわねぇ、元気になって♡」
キャルルが、野盗のリーダーの胸ぐらを掴んで、ヒョイッと持ち上げた。
そして、マッハの速度で振りかぶった右の拳を、ギリギリと握りしめる。
「じゃあ……第二ラウンド、始めよっかァ?♡」
「…………は?」
野盗リーダーの顔面が、恐怖で完全に引きつった。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
「あべばぁぁぁぁぁぁっ!?」
完璧に治癒されたばかりのリーダーの顔面に、再び渾身のストレートが叩き込まれ、鼻血を噴き出しながらきりもみ回転して吹っ飛んでいく。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」
「いやだぁぁぁ! 治さないでくれぇぇぇっ! そのまま気絶させておいてくれぇぇぇっ!!」
そこからは、文字通りの『地獄』だった。
マッハ1で殴る、蹴る、骨を折る。
↓
全員が半死半生になったところで、満月の力で強制的に『完全回復』させる。
↓
「もう一回遊べるドン!♡」
↓
再びマッハ1で殴る、蹴る……。
永遠に死ぬことも、気絶したまま逃げることも許されない。
痛みと恐怖の絶頂から、癒やしの多幸感へと強制的に引き上げられ、再び暴力のドン底へ叩き落とされる『アメとムチの無限ループ』。
防壁の上から、そのあまりにも惨たらしく、そして手際の良い蹂躙劇を見下ろしていた優也は、咥えていたセブンスターをポトリと落とした。
「……俺のユンボの出番、完全に無くなったな」
ユンボのエンジンすらかける必要がなかった。
ガテン系の現場知識も、地球の粗大ゴミも、この狂ったファンタジーの理不尽な暴力の前には無力だったのだ。
「ひえぇぇ……。あ、悪魔じゃ……お月様の悪魔じゃぁ……!」
村人たちが、防壁の上でガタガタと震えながら抱き合っている。
「ふへへへ! ボロボロの剣! 割れた鎧の欠片! これ全部、鉄屑としてドワーフの工房に売れば……ルナミスバーガーのポテトLサイズが食べ放題ですぅぅっ!」
その防壁の下では、キャルルの巻き起こす衝撃波を這いつくばって避けながら、リーザが野盗の落とした武器を百均のレジ袋に狂ったように回収していた。
「……このパーティー、マジで俺が一番まともなんじゃねぇか?」
優也は天を仰ぎ、ルナミス帝国にいるソシャゲ廃人の女神に向かって、深い深いため息をつくのだった。




