EP 3
ポイント全ツッパ! 廃棄「ユンボ(油圧ショベル)」の召喚と、魔石ハイブリッド魔改造
悪徳役人タイガが『合法(?)ハッピードリーム』でラリって帰って行った後、ポポロ村には不気味なほどの平和が訪れていた。
「……さて。邪魔者も消えたことだし、そろそろ本業(現場仕事)を始めるとするか」
優也はジャージの袖をまくり上げ、ポポロ村の惨状を改めて見渡した。
村長の話によれば、村の生命線である水路は上流からの土砂崩れと巨大な岩で完全に塞がれ、魔獣よけの防壁(木柵)は腐って全壊状態。これを村の老人やガリガリに痩せた若者たちの手作業で直そうとすれば、何年かかるか分からない。
「優也様ぁ。これ、本当に私たちが直すんですかぁ? 私のこの白魚のような手がマメだらけになっちゃいますぅ……」
リーザが自分の手をさすりながら、露骨に嫌そうな顔をする。
「お前にはやらせねぇよ。お前はただの『マスコット(看板娘)』だ」
「わぁい! さすが優也様、分かってらっしゃるぅ!」
「リーザちゃん、少しは働きなさいよ……。でも優也君、どうするつもり? 私が岩を全部蹴り砕いてもいいけど、水路の泥をかき出すのは無理よ?」
キャルルが腕を組みながら現実的な疑問をぶつける。
優也はニヤリと笑い、空中にスキルボードを呼び出した。
現在の保有ポイントは『5250p』。先日の森林火災鎮圧という大規模な地域貢献で跳ね上がった、これまでの全財産だ。
「キャルル。人間の文明ってのはな、こういうクソ面倒な土木作業を『ラクして終わらせるため』に進化してきたんだよ」
優也は検索窓にイメージを打ち込む。
地球の建築現場で最も愛され、最も酷使される、汎用性最強の「鉄の獣」を。
『産廃業者引き取り拒否・不動の小型油圧ショベル(通称:ユンボ)3トンクラス:消費ポイント 5000p』
「全ポイント、ツッパだッ!!」
優也が決定ボタンを強く押し込んだ瞬間。
ゴアァァァァァッ……!! と、村の広場の上空の空間が大きく歪んだ。
「な、なんだ!? 空が割れたぞ!?」
「神様……いや、魔王の呪いか!?」
村人たちがパニックに陥り、身を寄せ合う。
ズドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
凄まじい地響きと共に、広場の中央に『それ』は落下した。
黄色い塗装は剥げ落ちて赤錆が浮き、キャタピラは泥にまみれ、油圧ホースからは黒い作動油が滲み出ている。
アームの先には、土砂をえぐるための鋭い爪がついた、無骨な鉄の塊。
「な……なんだ、この巨大な鉄のゴーレムは……!?」
村長が震える指でユンボを指差した。
「鉄のゴーレムじゃない。こいつは『ユンボ』だ。……ただ、完全にバッテリーは上がってるし、エンジンも死んでる『粗大ゴミ(不動車)』だがな」
優也はユンボに近づき、ボンネット(エンジンカバー)をガコンッ! と乱暴に開けた。
むせ返るような鉄の錆びた匂いと、古い軽油の匂いが漂う。
「優也君……これ、動かないの? ただの鉄のオブジェじゃないのよ」
キャルルが呆れたように兎耳を垂らす。
「動かすんだよ。俺の資格でな」
優也は首に巻いていたタオルを頭に巻き直し、キリリと結んだ。
日本の工事現場における、本気のスイッチが入った合図だ。
「リーザ! オークから剥ぎ取った魔石のうち、一番小っちぇやつを一つ貸せ! 火属性のやつだ!」
「ひぇっ!? ま、魔石!? ダメですぅ、あれは私のプレミアムロールケーキの……っ!」
「あとでルナミスーパー銭湯の『フルーツ牛乳』も奢ってやる。早くしろ!」
「……っ! フルーツ牛乳! 貸しますぅ!」
リーザから親指大の赤い魔石(火属性)を受け取った優也は、ユンボのエンジンルームに顔を突っ込んだ。
ここからが、『機械保全技能士』と『第二種電気工事士』、そして『危険物取扱者』の資格を持つ男の独壇場である。
「セルモーター(始動機)の配線はイキ生きてるな。だが、プラグとバッテリーが完全に死んでる。なら……」
優也は残りの250pを使って「工具セット」と「耐熱配線」、「強力ダクトテープ」を召喚。
手際よくバッテリーの配線をぶった切り、エンジンのシリンダー(燃焼室)の予熱プラグ付近に、リーザから借りた『火属性の魔石』をダクトテープとワイヤーで強制的に直結・固定した。
さらに、村長から貰った『度数80度の密造芋焼酎』を、エンジンオイルと古い軽油のタンクに絶妙な配合で流し込む。
「魔石の熱エネルギーを、バッテリーとグロープラグ(点火源)の代わりに使う。燃料の劣化は、アルコールで無理やり爆発力を補う……! 異世界限定の、魔石ハイブリッド・ディーゼルエンジンだ!」
村人たちは、謎の呪文(専門用語)をブツブツと唱えながら鉄の塊をいじる優也を、まるで狂気を帯びた錬金術師を見るような目で囲んでいた。
「よし……配線完了。頼むぞ、鉄屑。ここで動かなきゃ、ただの巨大なゴミだ」
優也は運転席に飛び乗り、キーをシリンダーに差し込んで、力強く捻った。
カシュン……カシュン、カシュン……
セルモーターが苦しそうに回る音が響く。
「……動かないじゃないの」とキャルルが呟いた、次の瞬間。
直結された魔石が真っ赤に発光し、エンジンの燃焼室に超高温の熱を送り込んだ。
キュルルルルッ……!! バロンッ! ボロロロロロロロォォォォォォッ!!!
ユンボの排気筒から、真っ黒な煙が天高く噴き上がった。
大地を震わせるような、ディーゼルエンジン特有の重低音。
死んでいたはずの鉄の獣が、異世界の魔石の力とブルーカラーの執念によって、完全に蘇ったのだ。
「おおおおおおっ!?」
「ご、ゴーレムが息を吹き返したぞぉぉっ!」
悲鳴を上げて後ずさる村人たち。
優也は運転席でニヤリと笑うと、おもむろに操作レバー(ジョイスティック)を握り込んだ。
ウィィィィン……ガシャンッ!
油圧ポンプが作動し、ユンボの巨大なアームが生き物のように滑らかに持ち上がる。
バケット(爪)が太陽の光を反射してギラリと輝いた。
「これなら……水路の土砂崩れも、巨大な岩も、防壁の丸太の打ち込みも……全部俺一人で、たったの数日で終わらせられる!!」
優也がアームを振り下ろし、広場の硬い地面をあっさりと豆腐のようにえぐり取ってみせると、村人たちはついに恐怖を通り越し、畏敬の念を抱いて一斉にその場にひれ伏した。
「ど、土の神様の御使いじゃあああ……っ!」
「神獣様が、ポポロ村を救いに来てくだすっただぁぁっ!」
地面に額をこすりつける村長と村人たち。
「ふふふ……皆様、お聞きなさい!」
その狂乱のどさくさに紛れて、リーザが空のペール缶をひっくり返してその上に立ち、アイドルスマイルを全開にした。
「あの土の神様の御使いを操るのは、私専属のプロデューサー(財布)の優也様ですぅ! 御使い様に村を直してほしい方は、こちらの『お賽銭箱』に、お心付け(チップ)をお願いしますぅぅっ!!」
リーザの前に置かれたヘルメットの中へ、熱狂した村人たちから次々とシワシワのルチアナ紙幣や、泥付きの野菜が投げ込まれ始めた。
「……アンタたち、たくましすぎるわよ」
キャルルは、爆音を立てる重機の上で笑う優也と、集金モードに入ったリーザを見上げながら、深く深いため息をつくのだった。
かくして、魔法も闘気も通用しない圧倒的な『土木作業の暴力』が、ポポロ村の歴史を強制的に動かし始めたのである。




