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第一部 第三章 初めてのダンジョン


朝。


目が覚める前から、心臓がうるさかった。


どくどくと、早鐘を打っている。


理由は、わかっている。


今日は――


初めて、ダンジョンに行く。


ベッドから起き上がり、手を開く。


少しだけ、震えている。


怖い。


当たり前だ。


俺はまだ、Fランク。


昨日まで、木箱を運んでいた人間だ。


でも。


スキル《マルチ》。


それがある。


見習い剣士。


たったそれだけでも、昨日の俺とは違う。


深呼吸。


一つ。


二つ。


安宿を出る。



ギルド。


朝のギルドは、昼とは違う空気だ。


静か。


だが、張り詰めている。


装備を整える冒険者。


仲間と作戦を確認する冒険者。


それぞれが、自分の戦場へ向かう準備をしている。


俺は、掲示板を見る。


端っこ。


【初心者向けダンジョン:ラド地下洞】


【危険度:低】


【主な魔物:スライム、ゴブリン】


紙を、じっと見る。


手を伸ばす。


引き剥がす。


指が、震える。


マリンさんが気づいた。


「カインさん?」


「……これ、受けたいです」


一瞬、驚いた顔。


すぐに、優しく微笑む。


「わかりました」


「無理は、しないでくださいね」


「はい」


登録を済ませる。


木札を渡される。


【ラド地下洞 許可証】


重い。


実際の重さは軽いのに。


責任の重さが、乗っている気がする。



ラド地下洞。


王都から、徒歩一時間。


森の奥にある、小さな洞窟だ。


入口は、ただの岩穴。


派手さはない。


だが。


近づくほど、心臓が早くなる。


俺は、ナイフを握る。


《マルチ》起動。


【職種:見習い剣士】


よし。


入る。



中は、暗い。


松明に火をつける。


壁に、影が揺れる。


湿った匂い。


水滴が、ぽたりと落ちる音。


一歩。


また一歩。


足音が、やけに大きく聞こえる。


奥。


何かが、動いた。


「……来る」


緑色の小さな影。


スライム。


拳サイズ。


ぷるぷるしている。


教本で見たことがある。


弱い魔物。


だが。


実物は。


普通に、気持ち悪い。


「……はぁ」


息を整える。


近づいてくる。


ゆっくり。


だが、確実に。


俺は、構える。


頭で、昨日得た知識を思い出す。


振り下ろす。


――外れる。


「っ!」


スライムが、跳ねる。


腕に、当たる。


ぬるり。


冷たい。


思わず、叫びそうになる。


だが。


歯を食いしばる。


横薙ぎ。


今度は、当たる。


ぐにゃ。


スライムが、割れる。


動かない。


「……倒した」


膝が、震える。


生きてる。


俺も。


スライムも死んだ。


俺が、殺した。


初めての実感。


怖い。


でも。


嬉しい。



さらに進む。


二体目。


三体目。


少しずつ、慣れる。


斬り方が、安定する。


呼吸も、整う。


奥。


物音。


小さな影。


ゴブリン。


小柄。


だが、手に錆びた短剣。


スライムより、明らかに危険。


向こうも、俺に気づく。


甲高い声。


突っ込んでくる。


「くっ!」


剣士の知識。


正面から受けるな。


半身になる。


短剣が、かすめる。


痛い。


だが、浅い。


ナイフを、突き出す。


腹に、刺さる。


ゴブリンが、悲鳴。


暴れる。


怖い。


抜く。


横から斬る。


倒れる。


動かない。


息が、荒い。


血。


初めて見る量。


吐きそうになる。


だが。


目を逸らさない。


これが、冒険者だ。



洞窟の奥で、小さな宝箱を見つける。


中身。


銅貨数枚。


回復薬一本。


当たりだ。


胸が、少し温かくなる。



帰り道。


足が、重い。


体も、重い。


だが。


心は、軽い。


ギルドへ戻る。


マリンさんが迎える。


「おかえりなさい」


「……行ってきました」


素材と許可証を渡す。


査定。


銅貨。


少しだけ、増えた。


だが。


それ以上のものを、手に入れた。


自信。



安宿。


ベッドに倒れ込む。


天井を見る。


「……俺」


「冒険者だ」


小さく、笑った。



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