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第一部 第一章 最底辺Fランクの現実


朝の空気は、冷たかった。


王都グラディウスの東区。

石造りの建物が並ぶこの一角は、王都と呼ばれてはいるが、決して裕福とは言えない。


むしろ――貧民街寄りだ。


通りの端で、俺は木箱を抱えていた。


重い。


腕が、じんじんと痺れる。


「……よいしょ」


声に出して気合を入れ、荷馬車へと積み上げる。


これが今日、三十個目の木箱だ。


中身は、保存食と鍛冶素材。


冒険者ギルドの倉庫へ運ぶだけの、単純作業。


だが、俺にとっては大切な仕事だ。


なぜなら――


俺は、冒険者ランクF。


最底辺だからだ。



「おい、カイン」


振り向くと、太った商人が腕を組んで立っていた。


「まだ終わらねぇのか?」


「すみません。もう少しです」


「チッ……」


舌打ち。


だが、怒鳴られないだけマシだ。


もっとひどい人間もいる。


俺は、文句を言わない。


言える立場じゃない。


ランクFは、冒険者とは名ばかり。


魔物討伐の依頼は受けられない。


ダンジョンにも、基本的に入れない。


できるのは、荷運び、掃除、草むしり。


それでも。


俺は、冒険者だ。


冒険者でありたい。



昼。


仕事を終え、冒険者ギルドへ向かう。


石造りの大きな建物。


正面玄関は、いつも賑やかだ。


剣を腰に下げた男。


ローブ姿の魔術師。


軽装の斥候。


皆、輝いて見える。


俺は、無意識に自分の腰を見る。


剣はない。


あるのは、古びたナイフ一本。


何度も研ぎ直したせいで、刃は薄い。


それでも、大事な相棒だ。


中へ入る。


酒と汗の匂い。


冒険者たちの笑い声。


受付カウンターに、マリンさんがいる。


淡い青色の髪。


優しい笑顔。


「お疲れさまです、カインさん」


「はい……」


声が小さくなる。


情けない。


マリンさんは、気にせず言う。


「今日も倉庫の仕事ですか?」


「はい」


「ありがとうございます。助かっていますよ」


それだけで、胸が少し軽くなる。


誰かに必要とされている。


それが、嬉しい。



掲示板の前に立つ。


依頼書が、びっしり貼られている。


だが、ほとんどがDランク以上。


Fランクが受けられる依頼は、端っこの方に数枚。


【倉庫整理】


【下水掃除】


【草むしり】


わかっていた。


それでも。


目は、自然と上の方を見る。


Cランク。


Bランク。


Aランク。


大きな魔物の討伐。


ダンジョン攻略。


俺は、拳を握る。


いつか。


俺も、あそこに名前を載せる。



「ははっ、見てみろよ」


背後から、笑い声。


振り返る。


若い冒険者が二人。


革鎧に、剣。


Dランクだろう。


「またFランクが夢見てるぜ」


「木箱運びの英雄様だな」


笑われる。


胸が、ちくりと痛む。


だが、言い返さない。


言い返しても、現実は変わらない。


俺は、弱い。


それは事実だ。



ギルドを出る。


裏通りを歩く。


人の少ない道。


俺は、足を止める。


ナイフを抜く。


壁に向かって、振る。


カン。


情けない音。


それでも。


何度も振る。


腕が痛くなるまで。


汗が流れるまで。


誰も見ていなくても。


俺は、やる。


やめたら。


本当に、終わる気がするから。



夕方。


安宿へ戻る。


一泊十銅貨。


部屋は、狭い。


ベッドと、机と、椅子だけ。


だが、屋根がある。


雨をしのげる。


十分だ。


硬いパンを齧る。


水で流し込む。


味なんて、気にしない。


食べられるだけ、ありがたい。


ベッドに腰掛け、天井を見る。


ひび割れ。


そこに、星空を想像する。


冒険者になった理由。


昔、両親が魔物に殺された。


護衛の冒険者が、助けてくれた。


血だらけで。


それでも。


剣を握って、立っていた。


あの背中が、忘れられない。


俺も。


誰かを守れる冒険者になりたい。


そのためなら。


笑われてもいい。


最底辺でもいい。



俺は、手を握る。


「……強くなりたい」


小さな声。


だが、確かな本音。


まだ、何も始まっていない。


だが。


ここから始まる。


俺の物語は。


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