第二話 不穏な影
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・事件等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
蓮は稽古が終わり、大学の授業に出ていた。
神主である父が放った「雷鳴」の残響が、まだ耳の奥で鳴っているようだった。
授業が終わり、学食へ向かっていた。
「……君、いい体してるね」
背後からかけられた声に、蓮の肩が跳ねた。
振り返ると、そこにはヨレヨレのトレンチコートを着た中年男が立っていた。無精髭に、ひどく乾燥した目。大学のキャンパスにはおよそ似つかわしくない、鈍い生活感と鋭い知性が同居したような男――
「失礼、私は真壁というこの学校で調べものをしているんだが、君は神代蓮くんだね。ちょっと、散歩に付き合ってくれないか」
なぜか断ることができない雰囲気を男はだしていた。蓮は真壁について、人気のないテラス席へと向かった。
真壁は懐から数枚の写真を取り出し、テーブルに放り投げた。そこに写っていたのは、路地裏で倒れた男たちの姿だった。外傷は見られないが、その顔は一様に、何かに深く怯えたような、あるいは理解不能な衝撃を受けたような奇妙な表情で固まっていた。
「死んじゃいないが、彼らの神経系はズタズタだ。まるで、脳に直接雷が落ちたような症状でね。……君の家の神社でやってる『タチカキ体操』、あれの奥義に『雷鳴』なんて物騒な名前の技、なかったかな?」
蓮は喉の渇きを覚えた。
「……ただの健康体操ですよ。そんな、人を壊すようなものじゃありません」
「そうだろうな。少なくとも、表向きはな、」
真壁は身を乗り出し、蓮の目を覗き込んだ。
「だが、君の立ち方はどうだ。椅子に座っていても、足裏が地面を掴んで離さない。呼吸は深く、肩は一切揺れない。……それは、何百年も前から『何かを殺し、何かを守る』ために磨き上げられた一族の立ち方だ」
真壁の言葉は、鋭い針のように蓮の心を刺した。
「これ以上、プライベートに踏み込まないでください」
蓮は椅子を蹴るように立ち上がった。真壁は追わなかった。
「正義感だけで動かない組織が、君たちの『理』を狙っている」とだけ告げた。
その夜、神社の境内は異様な静寂に包まれていた。
凪が拝殿の戸締まりを終えた頃、森の木々が不自然にざわついた。




