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魔王を仲間にして世界を救ったはずなのに、昏睡中の私に“無色の魔法使い”が魔王の人生と理想の世界の話をしてくる件について  作者: きりりんが
第2章: 語られる魔王の過去

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ブラニカの死

悲しい、嫌な記憶を引っ張り出してしまった。


止まったケイゴの手。

静かに曇る表情。


そのすべてが、この話がまだ生傷のまま彼の心を蝕んでいるのだと伝えてくる。


それでも――

一度口にしてしまった言葉は、取り消せない。


「言いたくなかったら、言わなくてもいいんだよ」


できる唯一の気遣いを見せる。


ケイゴは少し目を閉じたあと、ゆっくり息を吐いた。


「いや、話すよ。お前も知って損はない話だしな」


緑茶を一口飲む。

まるで覚悟を決める儀式のようだった。


「ニイルの彼女は、ブラニカって女学生だったんだ」


語り始めたケイゴの目には、まだ悲しみが残っている。


それでも彼は続けた。


ブラニカは天才だった。

しかも、珍しい恋愛魔法と友愛魔法の二重使い手。


学園に入る前から彼女は国中の誇りで、有名人だった。


学園に入ると、その才能はさらに輝く。


圧倒的な成績。

誰よりも早い魔法習得。

誰よりも強い精神力。


当然――嫉妬の的になった。


しかも当時のこの世界は、今よりずっと女性蔑視が酷かった。


だからこそ、彼女を潰そうとする動きも当然のように生まれた。


それでも。

彼女は折れなかった。


どんな嫌がらせを受けても、

どんな陰口を言われても、

必死に食らいつき、努力を続けた。


そして卒業後。


彼女は軍の魔法団に就職する。


ケイゴは静かに言った。


「今思えば……それが運命の分かれ道だった」


軍部は、この世界で最も女性蔑視の色が濃い場所だった。


だから――


彼女は最前線に送られた。

そして、こき使われた。


それだけじゃない。


ケイゴの声が低くなる。


「……慰め物としても使われた」


何度も。


何度も。


何度も。


無理やり辱められた。


どれだけ心が強くても。


いや――


強い女性だったからこそ。


ブラニカは、ニイルに相談することができなかった。


弱さを見せられなかった。


そうやって彼女は――命を絶った。


「そんな……おかしいよ……」


気づいたら、言葉が漏れていた。


力をいいように使われて。


心も。

体も。

全部。


ただの道具のように扱われて。


そんなの――


「ニイルは被害者じゃん!」


気づけば立ち上がっていた。


「恋人を殺されたも同然じゃん!こんなのバカげてるよ!」


握った湯呑みを、そのまま床に叩きつける。

鈍い音が部屋に響いた。


「あぁ」


ケイゴは静かに言う。


「おかしいよ。狂ってる」


その声には。


憎しみも。

悲しみも。

悔しさも。


全部が込められていた。


「でも……これが事実だ」


その言葉は重かった。


「ごめん、感情的になって……」


床を見る。


湯呑みは転がっていたが、割れてはいなかった。


「……割れなくてよかった」


「気にするな」


ケイゴは少し笑った。


「逆に怒ってくれて嬉しいよ」


その表情は、ほんの少しだけ楽になっているように見えた。


私はもう一度聞く。


「ねぇ、その時の責任者は誰だったの?」


ケイゴは少し沈黙してから言った。


「六老人って知ってるか?」


六老人。


聞いたことがない。

でも、名前からして嫌な感じしかしない。


「六老人ってのはね」


たんぽくんが口を開く。


「昔から王を補佐する役目を担っている組織だよ」

「そうだ」


ケイゴが続ける。


「その六老人は……王をしのぐ権力を持っている」

「補佐する立場なのに?」

「おかしいだろ?」


確かに。


でも――


「お前も知ってる通りだ」


ケイゴは言う。


「王の耳に入る情報は操作される」

「そして、情報ってのは生き物だ」


あぁ。

なるほど。


噂と同じだ。


内容よりも――

誰が言ったか。


そして内容は、簡単に歪められる。


「理解したって顔だな」


補佐するはずの彼らは。

その権力を、自分のために使う。


よくある話だ。


でも、ケイゴは続けた。


「一番怖いのはそいつらじゃない」

「彼らに学園の生徒の情報を渡している……学園長だ」


――やっぱり。


あの時感じた違和感。

それは、これだったんだ。


「恨んで仕方ないよ……こんなの」


ふと、この世界に来たばかりの頃を思い出す。


慣れなかった頃。

突き刺さる視線。

歓迎だけじゃなかった。


陰口。

ひそひそ話。

異世界人を見る蔑視の目。


この世界に無理やり連れて来たくせに。


そう思った。


私の意思じゃないのに。


あの時支えてくれたのはティアだった。


「俺が支えてやるべきだったんだ」


ケイゴが呟く。


「親友として、気づいてやるべきだった」


その声には。


痛いほどの後悔が滲んでいた。


もし許されるなら。


時を巻き戻したい。


そう思っているのが伝わってくる。


「ねぇ、ケイゴ」


私は言う。


「覆水盆に返らずだよ」

「……そうだけど」


それでも彼は、自分を許せていない。


多分一生許せないのかもしれない。


それでも。

私は言う。


「戦ってわかったんだ」

「魔王は――いや、ニイルは」

「ケイゴのこと恨んでなんかいない」


ケイゴが顔を上げる。


「なんで言い切れる」


私は笑う。


「だって」

「仲間になってくれるって約束してくれたもん」


今回、確かに戦いには負けた。


でも、私は魔王から――直筆の書状を貰っている。


「は?」


ケイゴが固まる。


「仲間になった?」


「そうだよ」


たんぽくんが言う。


「アキナは魔王を仲間にしたんだ」


ケイゴが言葉を失う。


私は静かに思う。


新しい風を。

作れるかもしれない。


いや。


違う。


私が作るんだ。

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