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魔王を仲間にして世界を救ったはずなのに、昏睡中の私に“無色の魔法使い”が魔王の人生と理想の世界の話をしてくる件について  作者: きりりんが
第2章: 語られる魔王の過去

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人間だった男

おもむろに呟かれた言葉。


――同じだった。


「どういうこと?」


疑問を抱くのは当然だった。


私が魔王より危険?

意味がわからない。


ケイゴは湯呑を手に取り、ゆっくりと緑茶を一口飲む。


「混乱するよな。急にこんなこと言われても」

「だって……私は……」

「わかってる」


ケイゴは静かに頷いた。


「でも、あいつが悪い訳じゃない」


その言葉で、ある話を思い出す。

ミナから聞いた、魔王の過去。


――魔王は元々、人間だった。

そして、とても美しい女性と付き合っていた。

その女性は珍しい恋愛魔法と友愛魔法の二重使い手だった。


……そして。

自殺した。


「大まかな話は知ってるって顔だな」


ケイゴが私を見る。


「まぁ、情報屋が仲間だから」

「そうか。でも詳しくは知らないだろ?」

「うん。禁書扱いになってた」


ケイゴは苦笑した。


「やっぱりか……」


やっぱり?

どういうこと?


ケイゴは少し姿勢を正した。


「今から長い昔話をする」


湯呑を机に置く。


「300年前。俺がまだ勇者になる前の話だ」


少しの沈黙。


そしてケイゴは、懐かしそうに語り始めた。


「魔王が人間だった頃、あいつの名前はニイルだった」


その名前を口にした瞬間。

ケイゴの表情が、少し柔らかくなる。


「そして、あいつは――」


小さく笑った。


「俺の一番の親友だった」


どんないたずらも二人でやった。

色んなヤンチャも、全部二人でやった。


ケイゴは日本で見たり聞いたりした知識をニイルに教え。

ニイルはこの世界のことをケイゴに教えた。


ニイルはどこにでもいる典型的な熱血男子だった。

勉強は苦手。

座学なんて大嫌い。

だけど。

体を動かすセンスと、魔法の流れを感じ取る才能だけは抜群だった。

授業中、わざと笑わせてきて。

先生に二人まとめて怒られたことも数え切れない。


「なにそれ」


思わず笑う。


「どこにでもいる高校生って感じ」

「あぁ」


ケイゴも笑った。


「あいつはほんと、ザ・お調子者って男だった」


その目は、はるか遠くの過去を見ていた。

もう戻ることのない時間。

それでも、大切に抱えている思い出。


「それで?」


たんぽくんが口を開く。


「その後どうなったの?」


ケイゴが眉をひそめる。


「お前、全部知ってるだろ……」

「うん、知ってる」


は?!


思わず叫ぶ。


「ちょっと待って!その話も気になるんだけど!」


ケイゴが私を見る。


「お前、こいつが何者かわかってるのか?」

「え?」


たんぽくんを見る。


「案内人じゃないの?」


ケイゴが頭を抱えた。


「そこからかよ……」


そして指をさす。


「いいか。こいつは――この世界そのものだ」

「……は?」

「世界の意思を擬人化した存在」


少し考えてから言い直す。


「まぁ、神様みたいなもんだ」

「だからそう呼ばないでって言ってるじゃん!」


たんぽくんが抗議する。


「はいはい、悪かったって」


ケイゴは軽く手を振る。

それから私を見る。


「で、お前。名前つけたんだってな」

「あ、うん」


花畑のことを思い出す。


「さっきのブタナがタンポポみたいだなって思って……」

「だから、たんぽくん」


ケイゴは深くため息をついた。


「ほんとすげぇなお前……」


呆れているのか、驚いているのか。

よくわからない反応だった。


なんだか急に悪いことをした気がする。


「……ごめん」


すると、たんぽくんが慌てて言った。


「謝ることないよ!」


嬉しそうに笑う。


「僕、名前つけてもらうの憧れてたんだ」


流石神。

空気が読める男。


「だから!」


たんぽくんがこちらを見る。

いや、なんでわかるんだよ!

ケイゴが咳払いする。


「まぁいい。状況は飲み込めたか?」

「うん……まぁ、多少は」


湯呑を見る。

さっきまで熱々だった緑茶は、ちょうどいい温度になっていた。

その時。

湯呑の模様に気付く。


「ねぇ」


湯呑を持ち上げる。


「この湯呑もケイゴが作ったの?」


ケイゴはちらっと見た。


「いや」


少しだけ表情が変わる。


「それはニイルからの最初のプレゼントだ」


プレゼント?

でも。

この模様は――


「桜?」


この世界に桜なんてあったっけ?


「ないよ」


たんぽくんが答える。

やっぱり。


「じゃあなんでこんなに精巧に……」


ケイゴは少し笑った。


「覚えてたんだよ。俺の話を」


遠くを見る。


「何度も何度も、桜の話をしたからな」


故郷を思い出しながら語るケイゴ。

それを真剣に聞いていた少年。

そして、それを形にしてくれた。


「すごく素敵な友達だったんだね」

「あぁ」


ケイゴは迷わず言った。


「大事な友達だ」


少し考えて、私は聞いた。


「……まだ、友達だと思ってる?」


ケイゴは笑った。


「当たり前だろ」


そして言った。


「友情ってのはな、一生消えない鎖みたいなもんだ」


その言葉を聞いて、ある顔を思い出す。


スカーレット。


どれだけ裏切られたと思っても。

最初から最後まで、友達だった。


「お前にもいるんだな」

「うん」


私は頷く。


「スカーレットって言うんだ」


それから。

私たちは一晩中話した。


ニイルという男の話。

スカーレットの話。

昔話と笑い話。


「めっちゃいたずらしてるじゃん!」

「暇だったからな」


ケイゴが笑う。


「女の子の後つけるか先生にいたずらするかしかなかった」

「いや勉強しろ!」

「それはそう」

「ほら!たんぽくんも言ってる!」


2対1になると、ケイゴは急須を持って逃げた。


「ちょっとお茶入れてくる!」


キッチンへ消える。

私は大きく伸びをした。


「はぁー……楽しい」

「お泊まり会って感じ...。しかも全然眠くならないし」


たんぽくんが微笑む。


「そりゃそうだよ。ここはこの世とあの世の間」


「僕が創った空間なんだから」

「そっか」


私は笑う。


「でもさ」


思い出して笑った。


「さっきの落書き事件、最高だったね」


窓に落書きする発想。

天才すぎる。


「ニイル、面白い人だったんだね」


その時。

ケイゴが戻ってきた。


「面白いどころじゃない」


そして言った。


「最高の親友だった」


私はふと気になった。


ずっと引っかかっていたこと。

だから聞いた。


「ねぇ」


ケイゴを見る。


「なんで魔王の彼女は――」


少しだけ声が小さくなる。


「自殺なんかしたの?」


ケイゴの手が止まった。

湯気の立つ急須の向こうで。

彼の表情が、静かに曇った。

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