初代無色との邂逅
こちらに向かって来る気配が人影になり、さらに近づいてきて、これまた美青年がやってくる。
どこかで見たことある気がする…。
「あ!!!!」
そう、間違うはずがない。
初代無色魔法の使い手。
私以外の唯一の無色魔法の使い手。
「やぁ、後輩」
後輩...?あ、私のこと...?
「そう君のことだよ。アキナ」
なんで思ったことがわかるの…?
あ、そっか…さっき言われたばっかじゃん...。
「名前...なんで...てか、死んだはずじゃ...」
「うん、死んでるよ」
あっさりと言う。
「だから君に会える」
「じゃぁ...たんぽくんって」
「そう、僕はあの世とこの世を繋ぐ案内人であり、この世界の秩序を見守るのが役目さ」
へぇ…世の中は不思議が多い。
「意外と冷静だね、後輩。そうだ、僕も名乗っておくね。ケイゴだよ」
「まぁ...。異世界転生した時点でほぼ何でも受け入れるしかなくなるよね」
初代無色魔法の使い手、ケイゴが派手に笑う。
「確かにそうだよね...。はぁ、久しぶりにこんな笑った」
ひとしきり笑った後、ケイゴとたんぽくんは見つめ合って覚悟を決めたような表情をする。
「なになに?!そんな怖い顔してー!景色きれいなのに台無しじゃん!ほら、ピクニック楽しも!」
半ば無理やり、ティーカップをケイゴの前に置く。
まだ、この一瞬の平和を楽しんでいたい。
何も知らなかった、転生する前のただのピクニックに来た時のような、この時間をまだ手放したくない。
そんな気持ちが伝わってか、はたまたたまたまか、ケイゴはティーカップを受け取り、一口紅茶を啜る。
「いつ見てもここはキレイだなぁ…。あの花、何て名前か知ってる?」
「え?タンポポじゃないの?」
「違うよ、ブタナって言うんだ。まぁ、似ているけどね」
「ブタナ…。なんかとある動物を想起させる名前だね」
「ブタナって、豚が好んで食べるからブタナなんだよ」
「あ、じゃぁ、わざとなんだ…なんだよかった」
綺麗な花を眺めながら優雅なティータイム。
みんなに自慢したらどんな反応するかなぁ…。
やっぱ会いたいな…。
「ほんと君は顔に全部出るね、後輩」
「その後輩ってのやめてよ。なんかくすぐったい」
「でも、実際に後輩なわけじゃん?」
「まぁ、そう...なのか?」
「俺がそうって言うからそうなの」
ジャイアンみたいな意見だな…。
俺の物は~の流れ。
「おい?なんか失礼なこと考えてるだろ」
「べ…別に?!何も!うん」
「ならいいけど」
2人ともジトっと見つめてくる。
いやぁ、少し失礼なこと考えてたかもしれないけどさ…?
でも、私は断じて悪くない!
「まぁ、それはそうと、この景色にも飽きてきたね」
「そうかな?きれいな花に囲まれて幸せに浸ってたところなんだけど」
「いや、案内人!いいことを言うね!俺ん家おいでよみんな」
俺ん家?いや、あなた死んでますやん。
「いやぁ、男性の家はちょっと…」
「何歳離れてると思ってんの?300歳だよ?意外とば…」
「はいはい!失礼しました!行きます行きます!先輩の家に行きます!これでいいでしょ?」
(なんでこんな漫才をさせられてるんだろう…?)
そんなこっちの気持ちにお構いなしに2人はぐんぐんと前を進んで行く。
「遅いぞ後輩!急げ!」
「今行きますって!お二人の方が足長いんだから、短いこっちの歩幅に合わせて進んでよ!バカ」
「お前今、バカって言ったな!そんな奴は熱々緑茶の刑だ!帰ったら熱々の緑茶飲ませるからな」
「なんですか、その運動部の昔ながらの悪い伝統みたいなの」
「古い人間で悪かったな!なんせ、俺はお前よりも」
「わかったわかった!300歳年上なんですよね。わかったって」
「わかってるならいい」
うん、やっぱなんでこんな漫才まがいなことやらされてるの、私。
いや、いいんですけどね?楽しいしいいんですけど。なんで?
ぐんぐん進む2人に追いつき、横に並んだ頃にはも数奇造の平屋がドンと構えている。
壁で家をぐるっと囲い、玄関の入り口には格子で隙間から中が見える。
「モダン和風って感じ...」
「だろ?俺の生家のデザインをもとに建てたんだ。いいだろ」
自慢げに話すのも納得だ。
古き良きって言葉がこんなにも似合う現代風の建物を見たことがない。
玄関から中に入ると、そこは土壁で通気性をよくし、襖で仕切られているだけ。
さらに進んで行くと縁側がある。
「そう!こうでなくっちゃ!」
「やっぱ、お前なら子のこだわりはわかってくれると思ったよ」
「素敵!借景で中を広く見せる工夫まで完璧!すごい!」
「うんうん、俺のこだわりポイントをよくわかってくれるのはやっぱ同じ日本人だけだなぁ…」
ボヤくようにつぶやくケイゴ。
それもそうだ。こっちの世界ではこのような建物はどこを探しても存在しない。
中世ヨーロッパの街並みだらけ。
恋しくなるのは仕方がない。
「さっきもお茶を頂いたが、こっちでもお茶にするか」
ケイゴがそそくさとキッチンに消え、急須とお茶菓子と湯呑を持ってやってくる。
「はい、お前は熱々緑茶の刑だからな!ちゃんと飲めよ」
くそ...。忘れてると思ってたのに…。
「ここから長い話になる」
湯呑を指さす。
「熱々の緑茶くらいがちょうどいい」
ケイゴは一口お茶を飲んでから、静かに言った。
「君が封印した“絶望魔法”の話もあるしな」
私は思わず顔を上げる。
「え?」
ケイゴは少し笑った。
「大丈夫。まだ誰にも言ってない」
そして続けた。
「君が――あの魔王より危険な存在かもしれないって話も」
私は思わず顔を上げる。
「……え?」
ケイゴは少しだけ笑う。
そして言った。
「安心しろ」
湯呑を置く。
「俺も同じだったからな」




