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魔王を仲間にして世界を救ったはずなのに、昏睡中の私に“無色の魔法使い”が魔王の人生と理想の世界の話をしてくる件について  作者: きりりんが
無色の少女、眠りの底で

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2/2

眠れる勇者と世界の思惑

 王都の外と中を隔てる巨大な門が、ゆっくりと開かれる。

 その音を合図に、疲労の色を隠しきれない一行は、ようやく帰還を果たした。


 門の向こうには、安堵の表情を浮かべた見慣れた顔が揃っていた。

 それを目にした瞬間、張り詰めていた緊張が、音もなくほどけていく。


 ――帰ってきた。

 その事実だけが、今は何よりも重かった。


 誰も口には出さない。

 だが、高校生たちの胸には、ようやく背負っていた責任を一部だけ地面に下ろせたような感覚が広がっていた。


「……よく、無事に帰って来てくれた」


 最初に声をかけたのはラークだった。

 その声音には、公的な立場よりも先に、父としての感情が滲んでいる。


 戦果や結果など、今はどうでもいい。

 息子と娘が生きて帰ってきた――それだけで十分だった。


「報告は後回しだ。まずは治療を優先する」


 続けて告げたレイブン団長の判断は、即断だった。


 眠ったままのアキナを、ルーカスの腕から受け取る。

 それは戦場での引き継ぎではなく、壊れやすい宝を扱うかのように、慎重で、静かな動作だった。


 団長は一人、先に宮廷医務局へ向かう。

 白を基調とした重症患者専用の病室。天蓋付きのベッドは機能的でありながら、王城らしい品位を備えている。


 アキナを寝かせると、団長は一瞬だけ立ち止まり、彼女を見下ろした。

 だが、何も言わない。言葉は、あまりにも軽すぎた。


 その後、一行は会議室へ移動する。


 扉が閉じた瞬間、張り詰めていた何かが限界を迎えた。

 連戦による肉体的疲労。長旅の消耗。

 そして、アキナ一人にすべてを背負わせてしまったという、消えない後悔。


 1人、また1人と、声を殺したまま崩れ落ちる。


「……酷だとは分かっている」


 涙に満ちた沈黙を破ったのは、団長の低い声だった。


「だが、報告を」


 促され、ミナが顔を上げる。


 スカーレットが再び仲間になったこと。

 アキナが魔王の重力魔法を封じたこと。

 そして――魔王が敵ではなくなったこと。


 事実だけを、淡々と。

 それでも言葉が重く、空気は沈んでいく。


「……なるほど」


 すべてを聞き終えた団長は短く息を吐いた。


「国王陛下へ報告する。ミナ、お前も同行しろ」


 命令の形を取ってはいるが、そこにあるのは配慮だった。


「はい。わかりました」


 国王への報告を終え、魔王からの手紙も正式に渡される。

 その日の夜、一行はそれぞれの家族のもとへ戻った。


 温かい食事。湯気の立つ風呂。久しぶりの我が家。

 そして、変わらない家族の顔。


 ――これほど心が緩むものだったのか。

 誰もが、胸の奥でそう実感していた。


 翌朝。

 王都の大広場には、溢れんばかりの国民が集まっていた。


「この世界を憂う我が友たちよ、我が国民よ!」


 ダレス・マクリーン=アーディン国王陛下の声が、広場に響き渡る。


「ここに、勇者の帰還を宣言する!そして、魔王討伐戦は――未決着で終わった!」


 一瞬の静寂の後、歓声が爆発した。


 真相を知らない世界。

 それは、確実に危うさを孕んでいる。


 それでも人々は今、「未決着」という言葉を希望として受け取り、勇者の帰還を祝った。


 オーディン、ミナ、ティア、ルーカス、ダーク、ティント。


 一日で疲れが癒えるはずもない。

 それでも彼らは、アキナへの不安を胸に押し込み、笑顔を貼り付けて王都を巡る。


「きゃー! オーディン様ー!」

「ミナ様のあの感じが最高なんだよ!」

「いや、ティント様のクールさが至高だろ!」


 歓声の中で、オーディンが小さく呟く。


「……誰も知らないんだよな。アキナが眠ったままだってことも、魔王が仲間になったことも」

「しっ……聞かれたらどうする」


 ダークが制止する。


「……でも、悔しくねぇのか?」

「悔しいよ」


 即答だった。


「でも、今じゃない。今はまだ――」


 一方その頃。王城地下、秘密会議室。


 三人の貴族派重鎮が、非公式・非公開の場で向かい合っていた。


深淵中和(ヴァクウム・エモリス)を使った、か……」


「世界に干渉する力だ。勇者の権限を逸脱している」

「だが、結果として戦争は止まった」


「問題はそこではない」


 三人目が告げる。


「彼女は“裁かなかった”。魔王を殺さず、世界を終わらせなかった」


 重い沈黙。


「……想定外だな」


 彼らが恐れているのは、魔王でも勇者でもない。


 選ばなかった勇者。

 その存在そのものだった。


 同時刻、魔王遺跡城。


 六将軍たちが、戦闘の爪痕を残す城の修復に追われている。

 その喧騒を背に、魔王は一人、城外へ出た。


 満天の星空を見上げ、静かに呟く。


「……抱える者が現れた」


 一拍の沈黙。


「なら、あいつも――」


 言葉は誰にも届かず、夜空へと溶けていった。

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