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投げられた匙

 空を見る。

 あの空はどこまで続いているのかな?


 私は——そっと、雲をつかむように手を伸ばした。


 もちろん雲なんか掴めるはずもなく、掴めたのは虚空だけ。


 でも、私の中では何かを掴んだ気がしたんだ。

 これって、なんだろう?


 私は何を掴んだんだろう?


 分からないけど、とてもやさしい何かだと思った。



「さなえちゃん?」


 後ろから声を掛けられ、私は振り向く。

 そこには看護師の木野さんがたっていた。


「ほら、そこで貧血で倒れちゃったら危ないでしょ? 窓から離れなさい」

「ごめんなさい。 いい天気だったから」

 木野さんは呆れたように私をベッドに移し、布団を掛けてくれた。

「今日のご飯は?」

 私が寝ながら聞くと、木野さんは少し思い耽ったように間を置いて——。

「今日はね、鮭とおかゆ、あとさなえちゃんの好きなミルクパンだよ」

「わあ! ミルクパン! 私この病院のミルクパン好きなんだ! どうして私がミルクパン好きだってわかったの?」

「あれだけミルクパンの日だけ顔キラキラしてたらわかるよ!」

 そう笑顔で言う木野さんを見ながら、私は初めてのことに興奮する。

「一人目の人も、二人目の人も、三人目の人も最後まで気づかなかったのに、木野さんだけ気づけたのはすごいよ!」

 私がそう言うと、木野さんは少し顔を曇らせる。 私はそんな木野さんの表情を見て、自分が失言をしていたことに気づく。 いけないいけない、ちょっとはしゃぎすぎた。

 私は少し間を置き、空を見る。


「さなえは、いつ来る? 明日? 明後日?」

 私が不意に木野さんにそう聞くと、木野さんも空を見て言う。

「たぶん明日……かな? まだ連絡は来てないから、わからないけどね」

「そっか。 もし来るのがわかったら教えて。 最後に会うまでにはお風呂に入って体を綺麗にしておきたいから」

「わかったよ」

「え、来るよねえ? まさか最後まで来ない、なんてことないよね?」

 私は冗談ぽく聞いてみる。

「来るよ! さすがに! ほら、今日はこれでお昼寝しよ」

「寝れない~」

 私が駄々をこねると、木野さんは呆れたように言う。

「さなえちゃん、いくつになったんだっけ~? 子守歌でも歌ってほしいのかな~?」 

 木野さんは茶化したように言う。

 子守歌か……。 しばらく聞いてないな。


「聞きた~い」


 木野さんも本当に言うとは思っていなかったのか少し驚いた顔をした。 しかし私の言葉が冗談ではないことを察すると、傍らに座って静かに、どこかで聞いたような……懐かしい歌詞を口ずさんでくれた。


 夏の生暖かった風が、少し心地よく感じた。



 あと——3日か。

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