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第二話:それぞれの役割と試練

 新たな脅威の兆候を受け、私たちは旅に出た。


 向かうは、最も魔物の凶暴化が激しいと報告されている、北方の魔の森。

 王都から数日を要する道のりだ。

 表向きは、私が国外追放された身であるため、私たちは身分を隠し、少人数の旅団として行動する。


 道中、私たちの「役割」が早速試される場面が訪れた。


 人里離れた街道で、旅人が凶暴化した魔物に襲われている現場に遭遇したのだ。



 ■■■ヴェラ(エヴァンジェリン)『悪役の采配』



「皆、動かないで!」


 私が声を上げた時には、すでにレオンハルトが剣を抜き、ルシアンが魔術を行使しようとしていた。


 しかし、彼らの「正義」の行動は、返って魔物を刺激し、数が増える危険性があった。 


 私は躊躇なく、掌に黒い魔力を集める。

 その冷たい光は、たちまち巨大な魔力の塊となり、街道を埋め尽くす魔物たちを飲み込んだ。


 悲鳴一つ上げさせず、魔物たちは次々と地面に縫い付けられるように倒れていく。

 だが、彼らは死んでいない。ただ、私の魔力によって一時的に意識を奪われ、完全に無力化されただけだ。


「さあ、今のうちに!」


 私が指示すると、リリアは怯える旅人たちを安全な場所へ誘導し、ルシアンは魔物の状態を確認する。


 レオンハルトは、私の「悪役」的な解決法に、眉をひそめながらも従った。


「……君のやり方は、いつも衝撃的だな」


 レオンハルトが呟いた。


「だが、助かった」


 私は、ただ静かに微笑むだけだった。

 人々に真の目的を理解される必要はない。

 私は、あくまで「悪役」として、影で世界を守る。



 ■■■ルシアン『影の統率者の手腕』



 旅を続ける中で、私たちは立ち寄った村で、原因不明の疫病が流行していることを知った。


 村人たちは、魔物の影響だと恐れ、互いに疑心暗鬼に陥っていた。


「ヴェラの魔力を使えば、この疫病の原因を探れるだろう。

 しかし、表立って動けば、村人たちに恐怖を与える」


 ルシアンが冷静に分析する。


「私が何とかします!」


 リリアが名乗り出たが、彼女の力では根本的な解決にはならない。


 そこで、ルシアンの「影の統率者」としての手腕が発揮された。


 彼は、表向きは「旅の薬師」を装い、村長に面会する。

 そして、巧みな話術と、公爵家が持つ薬学の知識をちらつかせ、村人たちが互いを疑うことで疫病が悪化していることを指摘した。


「疫病の原因は、魔物ではない。貴方たちの心が、この病を呼び寄せているのだ」


 彼の言葉は、村人たちの心を揺さぶり、彼らは互いに協力し合うようになる。

 その隙に、私は村の聖なる力を利用して、疫病の原因である魔力の澱みを浄化した。


 村人たちは、疫病が治まったことを喜び、ルシアンに感謝する。


 彼は、静かにそれを聞き入れた後、私にしか聞こえない声で囁いた。


「今回も、見事な采配だったな、ヴェラ」


 彼の信頼の眼差しに、私の心は温かくなる。



 ■■■レオンハルト『正義の探求者の苦悩』



 旅の途中、レオンハルトは、私たちが立ち寄った街で、王国の騎士団が不審な動きをしていることに気づいた。

 彼らは、新しい教団の指示で、聖なる力を持つ者たちを捕らえているという。


「新しい教団だと? 彼らは、聖なる力を崇めているはずでは?」


 レオンハルトは、騎士団の行動に疑問を抱く。


「彼らは、表向きは善を掲げているが、その実態は危険な思想を持つ集団だ」


 私が説明した。


「おそらく、リリアの力が暴走した過去を利用し、聖なる力そのものを悪と断じようとしている」


 レオンハルトは、自身の騎士団が、知らず知らずのうちに悪に加担していることに苦悩する。


「私は、この国の王子だ。正義を掲げるべき私が、なぜ君のような……」


 彼の言葉は途中で途切れたが、その瞳には、私への「悪役」という認識と、それでも私を信じたいという葛藤が滲んでいた。


「殿下は、この国の王子として、正義を貫けばいい」


 私は言った。


「私は、影で動くだけです」


 夜、レオンハルトは、一人で騎士団の動きを探るために街へと向かった。

 翌朝、彼は疲れた顔で戻ってきたが、その手には、教団の危険な真意を示す証拠が握られていた。


「この教団は、聖なる力を排除し、新たな王を擁立しようとしている。

 彼らの計画は、王国を根底から揺るがすものだ」


 彼の報告に、私たちは皆、息をのんだ。

 レオンハルトは、王子の立場として、この脅威と戦うことを決意する。

 彼の「正義」は、もはや王族の義務だけでなく、自らの信念に基づいたものへと変化していた。



 ■■■リリア『心の光の支え』



 それぞれの試練を乗り越えながら、私たちの旅は続く。

 リリアは、力を失った自分では、直接的に戦力になれないことに、時折心を痛めているようだった。


 ある夜、焚き火を囲みながら、リリアが私に尋ねた。


「エヴァ様……私、本当にこの旅に必要ですか? 何もできないのに……」


 彼女の声は、自信を失っているように聞こえた。


 私は、彼女の手を優しく握りしめた。


「リリア。あなたは、私たちにとって、何よりも大切な存在よ。

 あなたがいてくれるから、私たちは孤独じゃない。

 あなたが、この旅の『光』なの」


 私の言葉に、リリアは涙をこぼしながらも、静かに頷いた。


 翌日、私たちは立ち寄った村で、子供たちが魔物に怯えているのを目にする。


 リリアは、すぐに子供たちの元へ駆け寄り、優しく彼らの手を取り、歌を歌い始めた。

 その歌声は、聖なる力を持たずとも、子供たちの心を癒やし、不安を取り除いていった。


「リリアの歌は、本当に素敵だな」


 レオンハルトが感嘆の声を漏らす。

 ルシアンも、珍しく口元に笑みを浮かべていた。


 リリアの存在が、ヴェラを含む私たち四人の心を支えていることを、皆が実感していた。

 彼女は、戦場でこそ輝かないが、この旅に欠かせない、真の「心の光」なのだ。


 それぞれの役割と試練の中で、私たちの絆は、より一層深く、揺るぎないものへと変化していった。

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