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故郷から逃げ出した僕が、新しい家族としあわせになるはなし  作者: 紅緒
第1章『少年と令嬢とやさしい時間』
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お洋服を買いに行こう!

 王都のメインストリートは本当に広くて、馬車の中から外を見ていたアルヴィーは思わず身を乗り出すようにして窓へ顔をくっ付けた。


 通りの真ん中は馬車が通る道になっていて、馬車二台が並んで擦れ違っても問題ない広さがある。そしてその両脇の歩道も十分な広さがあり、沢山の人が行き交い、思い思いの店に入ったり物色したりしていた。


「さあ、まずは服だ」


 車止めに自分達が乗っていた馬車と、ノアが手配した荷を積む用の馬車を停め、サフィールは目当ての店へと真っ直ぐとした足取りで進む。


「あら、サフィール様! いらっしゃいませ」

「ご機嫌よう、マダム」


 サフィールが店のドアを開くと、すぐに彼女に気付いた妙齢の女性がやって来て頭を下げた。

 店の前にはガラスのショウウィンドウの中に豪奢なドレスを来た人形が並んでいたから、服屋さんなのかな? とアルヴィーは想像する。


「ノア様もご一緒でございますのね。本日はどのような御用向きでしょう?」

「今日はこの子のお洋服を見繕って頂きたいの」


 サフィールの口調はさっきまでとは別人のようだ。

 港で初めて出会った時にも抱いた違和感に首を傾げていると、それを察したノアがこっそりと耳打ちしてきた。


「喋り方、全然違うでしょう? 外ではああやって猫を被ってお嬢様らしくしているんだよ」

「ねこを、かぶる……?」


 猫を被るという言葉の意味は分からないが、それが示している意味は何となく分かった気がした。きっと、家の中でのサフィールの姿が本当の彼女ということなんだろう。


「ノア様、なにか?」

「いや? なにも言ってないよ?」


 じろりとノアを振り返るサフィールの目は「余計なことを言うな」と無言の圧が込められていたが、口調はあくまで丁寧で、それが逆に怖いと思うアルヴィーに対し、ノアは全く気にした様子はない。

 両手を広げて見せるノアにひとつ溜息を吐き、「アルヴィー、こちらへいらっしゃい」とサフィールはアルヴィーを手招いた。


 そこからは店主だと思われる最初に出迎えてくれたマダムの指示で、店員が色々な服を持って来てはアルヴィーに着せ、それをサフィールとノア、そしてマダムの三人があーでもないこーでもないと言ってまた着替えて……、というのを繰り返した。

 何着か上から下まで全部揃えてから、サフィールが「テオのも、新しいのを何着か新調しましょう」と今度はテオドールの服を選び始める。

 慣れないことに疲れたアルヴィーは、店の客用のテーブルで椅子に腰掛け休憩しながらその様子を眺めていた。


「アルくん、新しい服似合っているね」

「……」


 同じくそこで休んでいたノアがアルヴィーに声を掛ける。

 ノアは店から出された紅茶のカップを持ち上げ、軽く香りを楽しんでから口を付けた。


「どうして、こんなに良くしてくれるんですか……?」


 選んだ服の一着をそのまま着ているアルヴィーは、仕立ての良い服を見下ろし、ずっと聞きたかったけど聞けなかったことをとうとう口にした。

 聞かれた当人のノアは「うーーん」と、間延びした声で考える素振りを見せてから、


「あの子がそうしたいと思ったからでしょ」


 と、あっけらかんと答えた。


「あの子が君を保護したいと考えて、それが出来る財力や能力があの子にはある。だから、実際にこうして君を保護した」


 確かに、彼女があの港で声を掛けてくれなければ、今頃自分は役所に連れて行かれどうなっていたか分からない。最悪、実家に送り返されていた可能性だってある。


「……」


 想像してぶるりと身体を震わせるアルヴィーに、ノアはにっこり笑って見せた。


「君は、とってもラッキーだったんだよ、アルくん」


 ふふ、と笑って頬杖をついたノアが真っ直ぐアルヴィーの栗色の瞳を見詰める。


「いいかい、かみさまは決して平等じゃない。かみさまは全てを救ってくれるほど優しくない。……でも君はサフィーに救われた。それはとても幸運なことだよ」

「……」


 漆黒の瞳が自分を映している。

 アルヴィーには何となくそれも理解できた。だって『神様』というものが本当にいるのなら、もっと早く自分を助けてくれたはずなんだから。


「君がずっとサフィーと暮らすのか、ある程度知識や技術を身に付けてから出て行くのか、どうしたいかは君が決めて、君とサフィーで話すと良い。私はそうして君達が決めた事を陰ながら援助させてもらうよ」


 まあ、どっちみちしばらくはサフィーの所で元気を付けなきゃね、と微笑むノアにアルヴィーは「はい」としか答えることが出来なかった。


 そんな選択肢が、自分に与えられるなんて。

 そんなこと……、自分がしたいと思うことを、口にして良いんだろうか?

 『一緒にいたい』と思って良いんだろうか? 望みを口にして『生意気だ』と思われないだろうか?

 染み付いた不安や恐怖はそう簡単に払拭されるものではない。


 きゅっ、と唇を引き結んだアルヴィーに、ノアは「大丈夫だよ」と微笑み掛ける。


「サフィーはあの通りの優しい子だから、遠慮せず飛び込んでいけば良い。もし、それでも不安なら私も一緒にサフィーと話をしよう」

「はい……」

「よし、とにかく今日は楽しもうね」

「はい、ありがとうございます」


 アルヴィーが礼を言うと、ノアは「どういたしまして」と笑う。そして、「おや、テオくんの買い物も終わったようだよ」と顔を上げてサフィール達の方を見た。


「お待たせしました」

「ねえ、サフィー。君の分は買わないの? 私から新しいドレスを贈らせてよ」


 テオを連れてやって来たサフィールに、ノアがプレゼントを提案する。が、サフィールはすぐに首を振って「結構です」と、ばっさり断った。


「ドレスも宝石も十分頂いております」

「え~~、少ないよ。他のご令嬢はもっともっと持ってるよ?」


 まだごねるノアに、サフィールが肩を竦め「でしたら……」と切り出した。


「新しいドレスを着て、お茶会やパーティーに出席する機会をくださいまし」

「うっ……!」


 座っているノアをじろりと見下ろすサフィールに、ノアが痛い所を突かれたと表情を引き攣らせる。


「そうですわね。私共としても、サフィール様の新しいドレスを仕立てさせて頂きたいものですわ」

「……マダムもサフィーの肩を持つのかい」

「サフィール様を社交の場へ出そうとしないのはノア様でしょう」

「マダムの言う通りです。着て行く場所も無いのに新しいドレスなど不要ですわ」

「それとこれとは話が別なの~~……」


 サフィールとマダムの波状攻撃にノアが子供のようにむくれてテーブルへだらりと腕を伸ばして顎を乗せた。


「ノア様、お行儀が悪いですわ。子供達が真似たらどうするんです」

「サフィーのいじわる~~」

「ほら、次のお店へ急ぎますよ。ベッドや家具も欲しいんですから」


 不貞腐れたノアを急かし、笑顔のマダムに見送られてアルヴィー達は店を後にした。

 ベッドなどを買うということは、いつまでかは期限は分からないけれど、サフィールのところへ居ても良いということなんだろう。

 アルヴィーはそれにほっとして、サフィールと繋いだ手をきゅっ、と握り直した。


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