71話・安堵の涙
「う……ん……」
アルヴィーが目を覚ました時、最初に目に入ったのは、見慣れた天井でもお気に入りの絵本が詰まった本棚でも無く、自分を心配そうに見詰める二つの翡翠色だった。
「テオドールくん……?」
「アル!!」
擦れた声で名を呼ばれたテオドールは、弾かれたように立ち上がり「大丈夫か!?」と聞いてきた。
「あれ、僕……」
「ちょっと待ってろ」
ゆっくり身を起こし思考を巡らせるアルヴィーに、テオドールは答えを寄越す前に部屋を飛び出してしまう。
「サフィール様! アルが起きました!」
大声で階下に声を掛けるテオドールを部屋の中からぼんやり眺めていると、今度は足早に階段を上って来る軽い足音が聞こえてきた。
「アル! 大丈夫か?」
「サフィールさま!」
現れたサフィールの姿に安堵し、アルヴィーの表情が自然と和らぐ。
「ほら、水を持って来たよ。飲めるか?」
「はい、ありがとうございます」
トレイに載せていたグラスをサフィールがアルヴィーに手渡す。
よく冷えた水をひとくち飲むと、自分の喉が渇いていたことを自覚して、アルヴィーは残りを一気に飲み干した。
「もっと水いるか? オレ、汲んでくるから……」
「ありがとう。大丈夫だよ、テオドールくん。それより……」
テオドールの気遣いを有り難く思いながらも辞退して、アルヴィーはベッドに腰掛けたままサフィールを見上げた。
「サフィールさま、ごめんなさい」
アルヴィーがぺこりと頭を下げる。
それに対し、サフィールは首を傾げて見せた。
「なにを謝ることがあるんだ?」
「だって僕は……、」
そこでアルヴィーは今日の自分の行動を全てサフィールに打ち明けた。
贈り物をしようとしたこと。驚かせたくて、テオドールにも内緒で家を出たこと。遠くまで行ってしまい、知らない人間に絡まれたこと。
そして、青い花に毒があることを知らず、テオドールを傷付けてしまったこと。
「僕、何も知らなくて……。ちゃんとテオドールくんに聞いてたら、テオドールくんにもサフィールさまにも迷惑かけることなかったのに……!」
シーツをぎゅっと握り締めて俯くアルヴィーを前に、サフィールとテオドールは目を見合わせた。
そして、二人同時に、ふ、と微笑む。
「アルは、私にプレゼントをしようとしてくれたんだろう? それを叱ることなんてしないよ」
「オレだって、お兄ちゃんとして当然のことをしたんだ。謝ることないんだって、さっきも言ったろ?」
「で、でも……!」
自分を責めるどころか優しく声を掛けてくれる二人に、アルヴィーの瞳が潤む。
そんなアルヴィーと、そして彼女の隣に立つテオドールの髪を梳き、サフィールは愛おしそうに微笑んだ。
「私に贈り物をしようと一生懸命考えてくれたアルと、そんなアルを身を挺して守ろうとしたテオ。二人とも、とても優しく勇気のある子だ。……私は、お前達が誇らしいよ」
「「!」」
偽りの無いサフィールの言葉に、子供達の涙腺がとうとう決壊した。なんとか乗り切ることが出来たが、今日は怖い思いをたくさんしたのだ。その緊張の糸が、今になって完全に切れてしまった。
「不安だったろう。よく頑張ったね、二人とも」
追い討ちを掛けるようにぽんぽんと頭を撫でられ、アルヴィーとテオドールは涙が止まらなくなってしまう。
「で、でも、ぼくテオドールくんにケガを……」
「だからそれは……っ、アルが治してくれたって言ったろ……!」
ほら! と、テオドールが自分の右手をアルヴィーに向けてずいっと突き出した。
確かに、テオドールの手には少しの炎症も無い。
「ほんとに僕がそんなことを……? でも、僕なにも覚えてなくて……」
戸惑うアルヴィーに、様子を見守っていたサフィールが「少し待っていろ」と部屋をあとにした。
しかしすぐに何かを手にして戻ると、それをアルヴィーへと差し出した。
「ほら、まずはこれを見てごらん」
「? 鏡?」
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次回で四章完結です!
そしてそのタイミングで、タイトル変更します!!
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