68話・鎮火
「あ? テオ?」
長髪の男が反応し、テオドールを上から下まで睨め付けるように見る。そして、「マジだ、テオじゃねえか!」と指さした。
「お前、エラい金持ちの家に引き取られて、贅沢させてもらってんだろ? いいよなあ、他のガキ共も孤児院ってとこで面倒見てもらってるしよお」
「おい、やめろよ。テオ達はまだ子供なんだから」
相方の言い分に、堪らずといった体で癖毛の男が遮る。どうやら、二人でつるんでいはいるが考え方まで一緒というわけでは無いらしい。
「だってそうじゃねえか! ガキだからってだけで甘い汁吸いやがって!」
少しくらい恵んでくれてもいいだろ? と、男が口から唾を飛ばしながら捲し立てる。
「自分で仕事を探せばいいだろ。お前らはオレ達より大きいし、病気でも無い。動ける体と、それだけよく喋る口があるんだからな」
「なっ……! このガキ!」
テオドールが鋭く言い放ち、アルヴィーを庇うように一歩大きく前に出た。
言われた長髪の男は顔を真っ赤にし、口角を引き攣らせている。癖毛の男もバツが悪そうに下を向いたので、テオドールの言った事は的を得ていたのだろう。
「この野郎! いい気になりやがって!!」
「お、おい! やめろって!」
長髪の男が拳を大きく振りかぶる。
だが、テオドールは一歩も引かず相手を睨み上げた。
慌てた癖毛の男が、相方を止めようと手を伸ばす。
「あら、何をしてらっしゃるの?」
唐突だった。
「はっ!?」
「えっ、いつの間に……!?」
男達の背後から、穏やかな声がかけられた。……否、穏やかを【装った】声だ。
「サ、サフィールさま!!」
突然現れた彼女の姿に、アルヴィーは涙声で叫ぶ。
テオドールは、アルヴィーを庇う体勢を崩さずに内心安堵の息を吐いた。
────もう大丈夫。
アルヴィーも、テオドールも、心の底からそう思い緊張を解くことが出来た。
「お前、どこから現れやがった!?」
この舗装されていない道で、音も無く現れたサフィールに長髪の男が捲し立てる。
しかし、サフィールはそんな男の質問など答える気が無いかのように微笑んで見せた。
「何をしてらっしゃるの、と聞いたのですけれど」
「は、はあ!?」
サフィールが、ことりと首を傾げる。
ただ小柄な少女が微笑んでいる。そのはずなのに、男達には得体の知れぬプレッシャーが掛かっていた。
「その子達は、ウチの子よ。何をしようとしていたの?」
す、とサフィールの青色の瞳が冷めた光を宿す。
その視線は、中途半端に上げられたままの男の腕に注がれた。
見据えられた男は、蛇に睨まれた蛙のようにギクリと身体を強ばらせる。よく見るとその膝は小さく震えていた。
自分よりずっと小さく華奢な少女相手に、男は完全に気圧されていた。
「もし、その子達に危害を加えたら、我がカメーリエ公爵家を敵に回すと思いなさい」
「こ、公爵!?」
「ほら見ろ、手を出したらお前が消されるぞ!」
もうやめろって。そう言って癖毛の男が長髪の男の腕を掴む。
そして、行き場を失い宙ぶらりんになっていた腕を下げさせると、癖毛の男はテオドールの方を見て「テオ、ごめんな」と謝罪した。
「……別に、お前は止めようとしてたんだから、謝ることないだろ」
どうやらこちらの男はテオドールに対し、まだ仲間意識のようなものがあったらしい。テオドールも、長髪の男に比べこちらの男には多少軟化した態度を見せている。
「テオが元気に暮らしてるようで良かったよ」
男は、この近辺の子供達が苦労していたことを知っていた。身を寄せ合って何とか生き抜いていることを。
けれど、自分の生活が苦しいのを言い訳に、助けることをしなかった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
保護者到着です(笑)。
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